尖閣諸島周辺に大量に押し寄せていた中国船団ですが、数隻の公船を除きようやく退去したようです。なぜ彼らは立ち去ったのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが、日米中3カ国の動きと関係性を解説しながらその理由を推理しています。
なぜ中国は、尖閣での挑発をやめたのか?
皆さん、オリンピックやスマップ解散で忘れているかもしれませんが…。中国船が大挙して、尖閣周辺の接続水域や領海に入った事件、どうなったのでしょうか? 一段落ついたようです。
中国公船9隻、接続水域からすべて退去 8日ぶり
朝日新聞デジタル8月11日(木)14時22分配信
沖縄県・尖閣諸島周辺の日本領海に中国公船が侵入を繰り返していた問題で、領海の外側の接続水域にとどまっていた中国公船9隻が、11日朝までに退去した。海上保安庁が発表した。
接続水域から中国公船がすべていなくなるのは8日ぶり。
8日ぶり…。長く緊張した時間でした挑発の規模は、過去最大。
海保によると、中国公船は3日に3隻が接続水域に入って以降、8日には最多の15隻が入り、領海への侵入も28回あった。
周辺の海域には一時、中国漁船が約400隻集まっていたが、漁船の数は減ってきているという。
(同上)
「漁船」400隻といっても、「武装民兵」が乗っています。「ホッ」としましたが、彼らはなぜ去ったのでしょうか? はっきりした理由は、彼らの上層部以外わかりません。「挑発スケジュール」があって、その期間が過ぎたから帰ったのかもしれない。しかし、中国が引き上げる直前、いろいろあったのも事実です。
親中派・二階幹事長、中国大使に会う
先日のメルマガで、「親中派の二階さんを密使として送ればいい」と書きました。そして、実際二階さんは、中国大使と会われたのですね。
自民・二階俊博幹事長 中国公船領海侵入で程永華大使に懸念伝達「ルール則ってもらわないと困る」「良好な関係保ちたい」とも
自民党の二階俊博幹事長は10日、中国の程永華駐日大使と党本部で会談し、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で中国公船が相次いで領海に侵入していることへの懸念を伝えた。程氏側は「真摯に対応する」と応じ、両国が「円満な話し合い」に向け努力していくことで一致した。
二階氏は会談の冒頭「家庭内でもぎくしゃくすることがあるわけだから、国と国(の関係)なので当然ある。政治の側がそれを乗り越えていくだけの度量と見識がなくてはならない」と強調した。「今後よく話し合いをしながら良好な関係を保っていきたい」とも述べた。
この会談が8月10日。翌日には、中国船団がいなくなった。「この会談が影響したのかな?」とも考えられます。中国としても、「親中派の大物」に手柄をたてさせ、影響力が増すのは歓迎でしょう。小沢さん失脚後、二階さんは、中国希望の星なのですから。
動き出すアメリカ
中国が引き上げる直前、ボンヤリ・アメリカもようやく動き出しました。
米「注意深く状況を監視」…中国の尖閣領海侵入
読売新聞8月10日(水)17時0分配信
【ワシントン=大木聖馬】米国務省のトルドー報道部長は9日の記者会見で、中国の公船が尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の領海に繰り返し侵入していることについて、「我々は注意深く状況を監視しており、日本政府とも緊密に意思疎通を図っている」と述べ、米政府として事態を注視していることを明らかにした。
トルドー氏は「米国の尖閣諸島についての立場は、オバマ大統領が以前言及したように、明確で長年のものだ」と述べた。尖閣諸島が対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを改めて強調し、中国をけん制した。
この最後の部分、大事ですね。2010年9月「尖閣中国漁船衝突事件」の時も、アメリカが「尖閣は日米安保の適用範囲である!」と宣言した途端、中国はおとなしくなりました。「日米安保なんてクソの役にも立たない!」と言う人もいます。しかし、私はそんな人に「事実として役立っているではないですか?」と言いたいです。正直言うと、アメリカが動き出したのが、「中国撤退」最大の理由だろうと思います。
海上保安庁、中国漁民6人を救う
アメリカが中国に警告した後、中国に「撤退の口実」を与える事件が起こりました。中国漁船とギリシャの船が衝突。中国漁船は沈み、6人の中国人を日本の海上保安庁が救ったのです。
<沖縄・尖閣諸島>中国漁船と貨物船が衝突 魚釣島沖の公海
毎日新聞8月11日(木)11時22分配信
11日午前5時半ごろ、沖縄県・尖閣諸島沖で領海警備中の巡視船が、ギリシャ船籍の貨物船「ANANGEL COURAGE」(10万6,726トン、23人乗り)からの遭難信号を受信した。海上保安庁の巡視船と航空機が、魚釣島沖約67キロの公海上で同船を発見した。
同船から事情を聴いたところ、同船がオーストラリアへ向けて航行中、14人乗りの中国漁船「ミンシンリョウ05891」と衝突したことが判明。漂流していた漁船の乗組員6人を救助したが、漁船は沈没した可能性が高いとみられる。海保によると、救助された6人のうち2人が切り傷を負っているが命に別条はないという。
漁船は網を揚げる作業をしている時に、貨物船と衝突したという。6人は海保のヘリコプターで石垣島へ移送された。
これに対し、中国側も感謝。時事8月12日。
【北京時事】中国外務省の華春瑩・副報道局長は11日夜、沖縄県石垣市の尖閣諸島沖の公海上で、ギリシャ船籍の貨物船と衝突した中国漁船が沈没した事故について談話を発表。
海上保安庁の巡視船が、漁船の中国人乗組員6人を救助したことに関し、「日本側が表した協力と人道主義精神を称賛する」とコメントした。
この事件が起こったのが11日早朝。直後に中国船は、領海、接続水域から出ていきました。「中国人6人の命を救ってもらって、さらに挑発する」というのは、さすがにできないですね(アメリカも動き出したし…)。
彼らはまた戻ってくる
というわけで、日本を震撼させて大きな危機は、いったん去りました。しかし、彼らは必ず戻ってきます。
RPEでは、08年9月出版の『隷属国家日本の岐路』(ダイヤモンド社)で「尖閣から日中対立が起こる」と書いて以来、一貫して警告を続けてきました。特に12年11月、中国がモスクワで「反日統一共同戦線」戦略を発表して以降、私は「戦争中」という意識で暮らしています。なんといっても中国は、「日本には、尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない!」と宣言しているのですから。
※証拠はこちら
→反日統一共同戦線を呼びかける中国
ですから日本は、「彼らはまた必ず戻ってくる!」と自覚し、準備を怠らないようにしなければなりません。その一歩は、「反日統一共同戦線」の記事を丸暗記すること。次のステップは、『中国4.0 ~暴発する中華帝国』(エドワード・ルトワック)を熟読することでしょう。
「終戦記念日」が終わったばかりですが、残念ながら「新たな戦い」は、もう始まっています。
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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