元『旅行読売』編集長・飯塚玲児さんの出すメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』。今回は、夏真っ盛りなのに冬の味覚「カニ」のお話。関西人は、旅行先でカニのコース料理プランがあれば必ず頼むというほどカニ好きなのに対して、関東人はそこまでカニを食べたがらないとか。それは一体なぜなのでしょうか? その理由を飯塚さんが面白おかしく、しかしマジメに解説しています。
カニと伊勢エビの話
これまたずいぶん昔のことだが、南伊豆の温泉宿に泊まったときに、宿の営業担当の人からこんなことを言われたことがある。
「飯塚さん、関東の人って、カニをあんまり食べないんですね」
僕はものすごくカニが好きなのだが、実はこの営業さんの言葉には納得して「そうなんですよねえ」と答えた。
その営業さんは関西の宿にも勤務していて関西では冬になると必ずカニのコース料理が夕食プランに登場する。
すると、ほぼ全員に近い人がカニのコースを注文するそうである。
一方、関東エリアで冬にカニのコースプランを企画しても、全然人気がない、とのことである。 注文する人がまったくいないわけではないけれど、関西に比べると、その差は圧倒的だと話していた。
さらにその営業さんは話を続けた。
「でも、関東では伊勢エビのコースを企画するとすごく人気があるんです」
これまた納得である。 どういうわけか、関東エリアではカニより伊勢エビの方が、圧倒的に人気があると感じていたので、思わず「おっしゃる通り」と答えた僕なのであった。
確かにカニといえば金沢から西、越前ガニや松葉ガニ、間人(たいざ)ガニといった名産地があるので、人気になるのもわかる。 これらのカニは漁期があって、例年11月初旬にならないと解禁にならない。 そこでこの時期になると関西の人は「今年はどこにカニを食べに行こうかな」という話になるそうだ。
いわゆる季節ものであり、カニを食べないと冬にならない、というわけ。
関東でいうところの初ガツオとちょっと似た感覚なのだと思う。
それにしても、なぜ関東の人はあんまりカニを食べないのか。
確かに、僕の周囲の人間の多くは、カニをあまりありがたがらない。
そこで、なんでカニ食べないの?と聞いて回ったことがある。
その時の回答のほとんどがこれだった。
「だって、食べるのが面倒くさいじゃん。 剥いてくれたら食べるけど」
正直言って僕は愕然とした。 だってそうでしょう? カニというのは、身を穿り出しつつ味わうのが最大の醍醐味なのであって、あれがきれいに身だけにされて丼に山と盛ってあったら、ちっともうまくないのである。
少なくとも僕なら、食べる気が失せてしまう。 カニ缶じゃないんだから。
東海林さだお大先生のエッセイに書かれていた枝豆の話にも賛同したい。
枝豆は、さやを指で押してさやがまとった塩味とともに、香りを楽しみつつ味わうのが最大の醍醐味であって、カニ同様にさやから全部取り出された身だけを器に盛ってスプーンで食べたってうまくも何ともないのだ。
そう思いませんか?
今は夏真っ盛りである。 ゆで上げたアツアツの枝豆をつまみにビールを飲む、というのが酒飲みの夏の楽しみである。
できれば浴衣にうちわという姿で、縁側なんぞに座ってこれをやると、ああ、夏だなぁ、という風趣が湧くのだ。
その時の枝豆が身だけにされて丼に盛ってあり、スプーンですくって食べたら全然夏の風情がない、と感じるのは僕だけだろうか?
image by: Tooykrub / Shutterstock.com
『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋
著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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