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魚の骨を飲んではいけない。医師が警鐘を鳴らす「魚骨性膿瘍」の恐怖

魚料理ってとっても美味しいけれど、骨を取り除くのが大変ですよね。だんだん面倒になって、「このくらいの小骨なら大丈夫だろう」なんてそのまま飲み込んでしまっているという方、非常に危険です!今回のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』では、アジア圏に多いものの、診断が非常に困難という「魚骨性疾患」についてお届けします。

魚の骨に注意しましょう

魚料理と私

私は魚料理が好きです。なかでもお刺身が好きです。とくにマグロとサケが好きなので、お刺身の盛り合わせメニューでは、マグロとサケを最後に食べることを常としています。美味しいものは最後に食べるというポリシーですが、これに健康エビデンスはありません(笑)。

私の父は元漁師です。沖縄では、ウミンチュ(海の人という意味)とよばれています。そのため子供のころからよく魚を食べていたのです。でも、魚料理で苦手なものがあります。魚を1匹の料理。丸ごとの煮つけや焼き魚メニューです。その理由は、小学校時代にさかのぼります。父親が捕ってきた魚を夕食として食べていたら突然喉が痛くなりました急いで口の中にある魚の肉を吐き出したら小さな魚骨が出てきました

それ以来、私は1匹まるごとの魚料理に対して、お箸で魚骨を完全に除去してから食べるというスキルを上達させることができました。毎日、魚料理が出てきますから、相当鍛えられました。子供心に、「この骨を間違っても呑み込んだら大変なことになるだろうなと直感的に感じていたからです。

魚の骨と私

その後、琉球大学の医学生時代に魚の骨について教科書を調べても、「魚の骨を呑み込んだらどうなるか」ということに具体的な記載を見つけることはできなくなりました。しかし、沖縄県立中部病院の研修医となって、救急室での診療を担当するようになり、あの「魚の骨と再会することになりました。

魚を食べていたら急に喉が痛くなりました」という訴えで受診する患者さんのノドの中にいたのです。のどに刺さった魚骨の取り方について、先輩のレジデントから教えてもらい、「カンシ」と呼ばれる小さなハサミ状の器具で骨を取り除くと、患者さんからたいそう感謝されました。患者さんがよくなるのは、とてもうれしいことです。

その後、病棟担当研修医時代に、腹痛と発熱で原因不明の腹腔(ふくくう)内膿瘍の男性患者さんを担当することになりました。術前の超音波やCT検査では、膿瘍内になにか異物があるという疑いがありました。案の定、開腹手術で、あの「魚の骨」がみつかったのです。診断は「魚骨性膿瘍」で、膿瘍とともに長さ数センチの骨が除去され、治りました。このケースは1990年ごろに沖縄県の医学会で発表しました。正式な学会で発表したケースがこの「魚骨性膿瘍」でした。

魚骨によるピアス式膿瘍

魚の骨を呑み込むのは体に対して危険です。1842年に世界で最初に報告された魚骨による腹部疾患の症例報告では、胃を穿通した骨が内臓の静脈内に突き刺さり、重篤な静脈炎をきたしたものでした。

その後報告される魚骨性疾患の多くはアジアからです。アジア付近で捕れる魚の骨が小さ目であり、「飲み込まれやすい」からです。1980年代には、香港のクイーンメアリー病院が、117例もの魚骨性疾患ケースを報告しています。

「呑み込まれた」魚の骨は体内でさまざまな場所をピアスのように穿通します。咽頭で穿通すると、頸部膿瘍や甲状腺膿瘍を来し、食道で穿通すると縦隔炎を引き起こします。胃や十二指腸を穿通すると、肝膿瘍や内臓の静脈炎を来します。口腔内の細菌を引き連れた魚の骨は、その細菌による膿(うみ)をつくるのです。

魚骨性疾患の診断・治療・予防

魚の骨は単純のX線写真には写りません。そのため、診断は意外に困難です。最近はCT画像を3次元構成してアングルを変えた切り口で診ることができるようになり、これが診断の進歩をもたらせています。

治療は外科手術。今後は腹腔鏡による手術も期待できるかもしれません。抗菌薬のみでは、「異物による膿瘍は完治できません

最も重要なのは予防。私がやっているように魚料理が出てきたら身構えて、よく見て骨を取り除くことです。白内障や遠視などを持つ高齢者などの視力が弱い方には、「骨のついた魚料理は出さないほうがよいでしょう。わたしの好きな刺身系を振舞ってほしいと思います。お魚料理は健康に良く、美味しいのですから。

文献

Gharib SD, Berger DL, Choy G, Huck AE. CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS
GENERAL HOSPITAL. Case 21-2015. A 37-Year-Old American Man Living in Vietnam,
with Fever and Bacteremia. N Engl J Med. 2015 Jul 9;373(2):174-83

image by: Shutterstock.com

 

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