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賽は投げられた。東京五輪の巨額予算をめぐる小池知事vs森元首相の死闘

日本人選手の活躍に多くの国民が感動したリオオリンピックも閉会し、早くも4年後に開催される東京オリンピックへと人々の関心は移りつつあります。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、著者の嶌さんが「東京オリンピック開催経費が2兆円を超え」という報道に注目し財政面の問題を取り上げるとともに、その他の様々な困難な要素もあぶり出しつつ、問題解決に向けた小池都知事のリーダーシップに期待を寄せています。

リオ五輪の反省と、東京五輪への宿題

リオデジャネイロオリンピックが終った。連日熱戦が繰り広げられていたが、つい見てしまった。今回、メダルの数よりもチームワークのよいチームとリーダーがしっかりしているチームに胸が熱くなった。

例えば、男子体操団体は予選で4位となりメダルの可能性は低いのかと思われかけたが、内村選手が中心となって金メダルを獲得した。それから、柔道は個人の戦いだが、井上康生監督を中心とした団体戦という感じで、男子全員がメダルを獲得するという快挙を成し遂げた。

井上監督は前回のオリンピックで金メダルがゼロであったことから立て直しに取り組み、今時の若者にあった練習は何か、指導体制は何かということを考慮しながらいろいろと改革してきた。選手に不祥事があった時、選手を責める前に自分の指導が悪かったと井上監督自ら頭を丸め、選手の側にたった。さらに銅メダルに終わった選手の事もほめ、金だけがよいという風潮から救っていた。このように井上監督を中心にまとまっていたことがよかったように思う。

卓球のラリーやキャプテンシーに感動

団体となり一つの組織として力を発揮したチームが多かったが、卓球はその一つで、男子・女子とも圧巻のラリーを見ているだけで胸を打つものがあった。特に、女子の福原愛選手の幼少期の「泣き虫愛ちゃん」のシーンは有名だが、今回は一切涙を見せず、キャプテンシーを発揮し、皆を励ましていた。「自分は元々副班長タイプで、リーダータイプではない」と言い、銅メダルを取った途端に涙を流しメダルの色に関係なくみんなに感動を与えた。あの最後のシーンではもらい泣きしてしまった。

東京のオリンピック開催のヒントはロスに

こうしてリオオリンピックは終わったが、いよいよ4年後は東京に舞台が移る。リオでいろいろあった課題が東京に持ち越されることにもなる。東京都は小池都知事になり、経費面等、透明性を高めようという動きになってきた。これをどのように実現していくのか、なかなか大変だと思う。森元首相が東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のトップにおり、JOCもある中で小池氏がどう斬りこんでいくかがカギだと思う。その時に考えるヒントとしては、1984年開催のロスオリンピックがある。

アメリカが自信を取り戻す契機に

この当時のアメリカはまだ70年代の不況を引きずっていたものの、ようやく景気がよくなり始めた。私はこの当時アメリカに駐在していた。オリンピックはアメリカでは日本ほど盛り上がらないのだが、この時はソ連がボイコットし、アメリカはメダルラッシュとなった。そして、ついにアメリカでもオリンピックがメジャーとなっていった。「強いアメリカ」を訴えてきたレーガン大統領(当時)にピッタリのオリンピックだったという感じがした。そして、これがアメリカが自信を取り戻すきっかけともなった。

ショーもアメリカらしいショーで、空から宇宙飛行士の格好をした人たちが下りてくる非常に派手な演出をした。これらのことでロスオリンピックは非常に話題となったが、この時からオリンピックの商業化が進んだと言われている。

ロスでいい商業化を実現

ひと言で、商業化と言っても「いい商業化」と「悪い商業化」の二つの側面がある。ロスの場合は「いい商業化」とみてよいと思う。それは、ロスオリンピックにおいて税金が全く使われていないことだ。森本毅郎さんが東京オリンピックの開催経費が7,300億円の予算だったのがすでに2兆円超している」と紹介されていましたが、ロスでは公金が一切使われていない。

この時、ロスでは史上初の民営五輪を運営。実業家のピーター・ユベロス(Peter Victor Ueberroth)が組織委員長を務め、放映権の一括入札を実施し放映権の一発入札制を採用し、ABCが破格の540億円で落札した。これは1社に絞って協賛金の引き上げを狙ったもので、問題があるかもしれないが民営だけの運営でコストを削減したということは評価できる。

さらに1932年のロス五輪のスタジアムをそのまま使ったり学生寮を利用した選手村などを作り、支出を削減した。その結果、当時の金額で490億円もの黒字となった。そういう意味では、いい商業化だったといえる。

東京でも全てを民間に任せるかどうかということは別として、上記から考えても旧国立競技場などはそのまま使えたかもしれない。今回、新国立競技場に聖火台が設置できないなどさまざまな問題があるが、税金投入ゼロを掲げるというのも一つの手のように思う。

命がけのマラソン…

女子マラソンはロスオリンピックから始まった競技。記憶に新しい方もいると思うがスイスのアンデルセン選手が猛暑で熱中症となり、競技場をよろけながらも歩いてゴールした。競技場のトラック1周をゴールするまで5分以上要し、ルールで人の助けを借りると失格になるため大会委員も見守るだけで、一人でフラフラと歩く姿が全世界に中継された。なんとかスタンドからの大声援を受け見事にゴールしたが、非常に危険な状態であった。

安倍首相は「アスリートに最高のコンディションで臨んでもらう」とブラジルでの引継ぎの際表明したが、気温だけみても当時ロスの8月の平均気温は21.0度、一方、昨年8月の東京の平均気温は26.7度と5度も高い 。熱中症が出てもおかしくない

小池都知事のリーダーシップに期待

2007年8月に大阪で世界陸上が行なわれた際、男子マラソンは8月25日午前7時にスタートした。7時の時点の気温は27.8度で、ゴールした9時頃の気温は何と30.7度であった。結局、85選手のうち28選手がリタイアとなった。コースの途中にシャワーを用意するなどしていたが、この結果となっている。

2020年の東京オリンピックの男子マラソンは8月9日に開催される予定だが、参考まで今年の8月9日の気温を見ると午前7時で27.7度、そして午前9時には33.5度となっている。1日通しての平均気温は31.9度だったので、時間にかかわらず暑いといえる。日本体育協会のガイドラインでは、「31度以上は、激しい運動は中止」「28度以上でも、激しい運動は30分で休憩を取る」となっており、この基準にあてはめるとマラソンは出来ない。先に紹介した安倍首相の「アスリートに最高のコンティション」というのであれば、本気で考え直す必要がある。

上記から考えると、マラソンを東京ではなく北海道で実施するといったように場所を変更するか、オリンピック自体の開催時期をずらす必要があるように思う。財政面以外にも問題は山積しているので小池さんのリーダーシップに期待したい。

※なお、ブログにオリンピックの画像と文中で紹介した日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」の画像を掲載しておりますので、ご興味をお持ちの方は合わせて参照ください。

時代を読む

(TBSラジオ「日本全国8時です」8月23日音源の要約です)

image by: 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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