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偽装発覚。豊洲市場「手抜き」問題で嘘をついているのは誰か?

土壌汚染解消のための盛り土が、主要な建物の下でなされていなかったという大問題が噴出した豊洲新市場。何よりも安全性が重視されるはずの市場で、なぜこのような問題が起きたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんは、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で、新聞各紙がこの事態をどう報じたか詳細に比較、分析しています。

豊洲新市場は大丈夫なのか?「食の安全」を巡る大問題発生の事態を各紙はどう報じたか

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「こども引き渡し ルールを明文化」
《読売》…「成長へ産業構造改革」
《毎日》…「復興住宅の空室貸与」
《東京》…「都 08年に地下空間案」(豊洲問題)

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「不動産は活況 偏る果実」
《読売》…「先端IT 遅れる日本」
《毎日》…「『豊洲は安全』揺らぐ」
《東京》…「クリントン氏 911式典退席 健康不安説」

ハドル

1面や解説面を席巻するようなテーマが見当たらないまま、やはり東京・豊洲の問題が大きいようなので、各紙を見渡してみますと、ブロック紙の《東京》が1面トップなのは当然としても、《毎日》は解説面で大きく取り上げているのが心強い(笑)。《読売》も社会面で一番目立つ場所に記事を置いていました。ちょっとどうかと思うのは《朝日》で、29面の地域面で取り上げているのみです。ローカルな話ではないと思うのですが、どんな記事なのか、見ていくことにしましょう(電子版は地方版の扱いがよく分からないのですが、東京以外については「紙面」の形では提供していないようです)。

今日のテーマは…、豊洲新市場は大丈夫なのか?「食の安全を巡る大問題発生の事態を各紙はどう報じたか、です。

基本的な報道内容

築地市場からの移転が予定されている豊洲市場で、主要な建物の下に盛り土がされておらず空洞になっていることが判明した。外部有識者による専門家会議は、敷地全体で盛り土をするよう提言し、都もホームページなどでは提言通り実行したとする図面を掲載し続けていたが、実際には主要な建物の下に盛り土が行われていなかった。移転を承認した都議会でも、「都にだまされた」との声が広がっている。

小池知事は都知事選の最中から、豊洲への市場移転は「いったん止まって考える」としてきた。当選後、地下モニタリング調査の最終結果が出た後に移転時期を判断するとして、当初11月予定だった決定を延期すると発表していたが、今回の問題発覚を受けて、再び専門家会議による安全性と耐震性の検証が必要になり、さらに、補充工事が必要となれば、移転時期は一層大幅な延期を迫られる

既に、移転延期の影響で環状2号線の整備が遅れ、2020東京五輪に間に合わないとの懸念が示されていたが、さらなる延期で大会に支障の及ぶ可能性が高くなった

業者の動揺という「視点」

【朝日】は29面の地域面(東京版)で豊洲市場の問題を扱っている。見出しを以下に。

リードでは「中央区の築地市場からの移転の是非や時期が問われる事態になり、市場関係者の動揺は広がる一方だ」としている。

uttiiの眼

見出しを見て分かるように、登場するのは業者」。既に最新鋭の冷蔵設備などを立ててしまっている水産卸会社は、移転に半年の遅れが出るだけで損害2億円超と計算していたが、盛り土問題で見通しが立たなくなり、どれだけ損害が広がるか分からないという。飲食店にも悪影響があり、「このまま移転しても風評被害でお客は来てくれない」と嘆いているという。

実際のところ、「移転はもう無理だな」と語る人もいるそうで、都の説明の前提が崩れた今、移転派の人や、仕方なく移転に従ってきた人たちの考えも変わるだろうと観る人もいる。

要は、「移転が遅れて業者は大変だ」という記事。

書かれていることは大事なことだけれど、問題の捉え方が非常に狭い。東京版だからこれで良いということにはならないだろう。都がこの「手抜き」に及んだ経緯、責任の所在、そもそもなぜ可能だったのか、工事の工程管理の問題、そして消費者の反応、さらに、オリンピックへの影響など、取材して報告してもらうべきことは山ほどあるのに、「業者が動揺というだけでは記事にならない。《朝日》、やる気あるのだろうか。

東京都の独断

【読売】は社会面での扱い。見出しは…。

uttiiの眼

《読売》は、都が説明してきたような対策が取られず、建物の下が地下空間になっていたのは、都の独断だったとの追及姿勢

敷地全体で深さ2メートルの土を入れ替え、さらにその上に2.5メートルの盛り土を行えとの専門家の提言後、都は汚染対策工事の工法などを評価・検証する「技術会議」を設置、建物下の「地下空間の活用」が議題となったが、盛り土をしないことの安全性は議論されなかったなどと言われている。これでは「専門家会議」の提言は無視されたことになってしまう。「技術会議」の委員は、地下空間が作られようとしていることは知っていたのか知らなかったのか。この単純な事柄さえ、いまだに分からない。

小池知事が会議で、「正しい情報を出すんだということを、責任感を持ってやってもらいたい」と苦言を呈したことが強調されている。しかし、問題は情報公開の一般論ではなく、「技術会議」の面々は、「専門家会議」の提言通りだと思っていたのか、それとも、都庁の役人と一緒になって、提言を無視することに賛成していたのか黙認したのか。《読売》の取材はまだこの点には到達していないようだ。

それでも《読売》は、東京都の内部でどのような責任分担と意思決定が行われてきたのか、この「盛り土回避」問題を追及する、その入り口に立っているように思える。

知事のダメージコントロール

【毎日】は3面の解説面「クローズアップ」で取り上げている。見出しを以下に。

uttiiの眼

《読売》が指摘している「専門家会議」と「技術会議」の齟齬という問題について《毎日》は、建物の下に空洞を作っても安全で耐震性も問題ないと都が勝手に判断し、その変更については「専門家会議」に報せず、また「技術会議」に対しても、建物の下を空洞にするとの明確な報告はしなかったという。

基本情報を押さえた上で《毎日》が書いている独自の論点は二つ。一つはこの「盛り土」問題発覚の経緯。もう一つは、小池知事が選挙中から強調し、実際に行った移転延期決定に反発していた都庁や都議会が、今回のさらなる問題発覚で狼狽えている様子についても書いている。

問題発覚の経緯は共産党都議団の視察だった。9月7日、外部からの指摘を受けて現地視察した共産党都議団は、水産卸売場棟、水産仲卸売場棟、青果棟など主な建物の床下が総て空洞になっていることを突き止めた。この動きを知った小池知事は、10日に緊急会見し公表した。共産党に指摘されるよりも自らのダメージが少ないと考えたのだろう。

2つ目の論点。小池知事が就任後に行った「移転延期決定」に対して、都の幹部の中には「どれだけの量の土を入れ替えたか理解しているのか」と不満を漏らすものもあったらしい。市場担当者の中では、地下が空洞になっていることは共通認識だったようだが、他部局の幹部たちは知らなかった」と言っているらしいので、専門家会議の提言通り、建物の下も当然に盛り土されていると思い込んでいたのかも知れない。それでも幹部たちの立つ瀬はない。

小池知事の移転延期決定に反発していた都議たちも、「だまされた」と言って、責任回避に努めるしかないようだ

だが、小池知事には豊洲市場の安全性の検証がキチンと行えるかどうかという基本的な問題に加え、さらなる延期でかさむ業者への補償費用の上積み、そして、東京五輪への悪影響という大きな問題に直面することになる。

《毎日》は、多分、都政担当の記者が地道な取材を続けてきているのだろう。「厚みを感じさせる記事になっている。

責任の所在はどこに

【東京】は1面トップに加えて3面にも記事。見出しを並べる。

uttiiの眼

「専門家会議」と「技術会議」についての問題。《東京》は全く違う指摘をしている。

「都が2008年には工法を検討する有識者の会議で地下空間を設ける考えを示していたことが、都への取材で分かった」という。この会議は技術会議のこと。都は、「専門家会議」から盛り土の提言を受けた直後でありながら、安全性など検証しないまま、11年には地下空間の設置を盛り込んだ設計図面を作成していたという。

これを見る限り、都には「専門家会議」の提言など、最初から従うつもりがなかったかのようだ。そして、地下空間に関して、「技術会議の委員の面々は、都庁の担当者たちと同罪」ということになる。

だが、そもそも今回の事態を受けて行われた都側の説明は正しいのだろうか。《東京》はその点を、取材を通して明らかにしようと、技術会議の委員に直接取材している。

都側は、「技術会議」に地下空間を設けることを前提とした、駐車場利用案などを出したといい、議事録にもその記載があるようだが、実際に委員だった川田誠一産業技術大学院大学学長は、「実は空洞だと聞き、ビックリした」と話し、まだ長谷川猛・都環境公社非常勤理事は「地下空間の利用なんて都は会議で詳しく言っていない。技術会議で承認していないと思う」と反論する。

議事録が会議の実態を反映しているのかどうかを含め、詳しい検証が必要のようだ。いったい、誰の言っていることが事実に最も近いのか

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

世の中には色々と不安の材料がありますが、築地の移転先とされている豊洲新市場にまつわる不安は得体が知れません。まさか、そんなことが起こっていたとは…と溜息をつきたくなるような実状です。

地下を汚染しているベンゼンも嫌ですが、建物という建物が空洞の地下空間の上に建っている様は、「砂上の楼閣」ならぬ「空中楼閣」のよう。一種のピロティー構造であり、あの阪神淡路大震災でピロティー構造を持った建物の多くが膝をつくように倒壊してしまったことも思い出されます。

小池知事はダメージコントロールにとりあえずは成功し、あとはさらなる求心力を掌中にするため、次々と手を打つことでしょう。その政治的主張の当否はともかく、移転延期判断の速さ、今回の事態発覚を受けての緊急記者会見と、その運動神経の良さは遺憾なく発揮されているようです。もっとも、問題はその先。東京五輪開催への悪影響というところにも及んでいるのですが…。

image by: 東京都庁

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/9/13号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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