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軍事アナリストが警告。北朝鮮が核で日本を「人質」にする可能性

9月9日、北朝鮮が通算5回目となる核実験を行い、その数日前である9月5日には日本の排他的経済水域にミサイルを着弾させたばかりで、今回の実験は大きなニュースとなりました。メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、過去の5回の核実験から現在の北朝鮮が保有する核ミサイルは「実際にどのくらいの脅威となるのか?」を分析した結果を明かしています。そこからは北朝鮮による核開発の「確かな進歩」が見て取れるようです。

北朝鮮の核ミサイル開発の到達点

9月9日午前9時半頃、北朝鮮が今年になって2回目、通算5回目の核実験を強行しました。北朝鮮側は「新たに研究・製作した核弾頭の威力判定のための核爆発実験を秘密裏に実施した」とコメントしています。

北朝鮮の建国記念日に行われた核実験ということで、金正恩・朝鮮労働党委員長にとっては「核と弾道ミサイルの開発による核保有国の国際的地位獲得」という国家目標を進めるうえで、重要な位置づけにある動きだったとみなすことができます。

今年3月、今回の核実験に至る一連の動きを暗示するかのように、金正恩党委員長は次のように命じたとされています。

「第1書記は、核攻撃能力の信頼性をより高めるため、核弾頭の爆発試験と、核弾頭搭載が可能なさまざまな種類の弾道ロケットの発射実験を近く行うと表明し、関連部署に準備を命じた」(朝鮮中央通信)

それが現実の動きとなったわけですが、まずは核弾頭を運搬する手段としての弾道ミサイルの開発について、おさらいをしておきましょう。

弾道ミサイルについては、今年になって21発を発射し、6月のムスダンの発射ではグアムの米軍基地を狙える中距離弾道ミサイル能力の保有と、高度1400キロ超のロフテッド軌道への打ち上げによって、北朝鮮に隣接する韓国、日本をも射程に入れる能力を見せつけ、さらに大陸間弾道ミサイルの保有に不可欠の高熱に耐える再突入体の保有を証明して見せた、ということができると思います。

8月24日のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射では、将来的に第2撃戦力としての弾道ミサイル潜水艦の保有という目標を明らかにし、信頼性の高い固体燃料型のSLBMによって1200~1300キロの射程を持つ準中距離弾道ミサイルの能力が備わっていることを示しました。この固体燃料型のSLBMは、9月1日号で西恭之氏(静岡県立大学特任助教)が「北朝鮮のSLBMは陸上配備される」と書いたように、中国の前例に倣い、弾道ミサイル潜水艦の保有が実現するまでは、陸上の移動式発射装置から運用されるとみられています。

さらに9月5日のノドン、あるいはスカッドERとみられる準中距離弾道ミサイル3発の同時、同一海域への発射では、準中距離弾道ミサイルの兵器としての信頼性を獲得したこと、場合によっては日米のミサイル防衛システムの迎撃能力を超える飽和攻撃能力を備えたことを誇示した可能性もあります。

核実験については、次のような動きを見せてきました。

第1回 2006年10月09日 人工地震の規模マグニチュード4.3 爆発力0.5~5キロトンと推定。

第2回 2009年05月25日 人工地震の規模マグニチュード4.7 爆発力4キロトンと推定。

第3回 2013年02月12日 人工地震の規模マグニチュード4.9 爆発力6~12.5キロトンと推定。強化型原爆の可能性あり。

第4回 2016年01月06日 人工地震の規模マグニチュード5.1 爆発力6~9キロトンと推定。北朝鮮は「水爆」と主張。

第5回 2016年09月09日 人工地震の規模マグニチュード5.3 爆発力10キロトンと推定。

爆発力については、様々な推定値が示されていますが、人工地震の規模に比例して少しずつ爆発力の推定値が大きくなっていることがわかります。

これは、開発がそれなりに進んでいることを示す傍証の側面もあるのです。

北朝鮮の目的から見るとき、メガトン級の大型核兵器は必要ありません。それこそ、10キロトンから100キロトンくらいの核弾頭を弾道ミサイルに搭載できればよいのです。最終的に米国東海岸を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成した場合でも、そのくらいの爆発力の核弾頭を1基のICBMに3~10発搭載したMIRV(個別誘導複数目標弾頭)化が実現すればよいのです。

その第一歩は、信頼性が高まり、実戦配備できる状態になった準中距離弾道ミサイルに小型化を実現した核弾頭を搭載することです。

そうなれば、少なくとも米国の最も重要な同盟国である日本を「人質」にして、米国に現在の休戦協定を平和協定に変更するよう要求できる可能性が生まれてくるかもしれません。

今回の核実験は、そのような歩みを進める北朝鮮が少なくとも準中距離弾道ミサイルに小型化された核弾頭を搭載しうる段階に到達したことを強調した側面があり、日米韓の北朝鮮封じ込めは新たな段階にさしかかったと受け止めるべきでしょう。

 

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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