石坂氏が社長を継いですぐの社内改革の際、古参の社員たちと特に大きく衝突したのは環境マネジメントシステムの国際標準規格である「ISO14001」の取得を決断した時だった。朝礼で社員たちがヘルメットを床に叩きつけて舌打ちして会社を出て行き二度と出社しなかったほど、当時現場で働いていた社員たちは次々離脱し、半年間で4割の社員が退職してしまった。それでもISO取得は同社の生き残りに必要だと、石坂社長は改革の手を緩めなかった。
ところが、社員にISO規格事項を教えるために、6回分の授業料100万円を支払って呼んだ初老の男性コンサルタントの講習会は、開始3分後には9割の社員が寝てしまった。最初からISO取得のモチベーションもなく勉強も活字を読むのも嫌いな社員たちが、1日働いて疲れている状態で受ける講習である。小さな字がぎっしりのテキストにおじいちゃん先生の小難しいお話では、「そんな難しい話は俺たちの仕事には関係ない」とみんな居眠りしてしまうのも当然である。
石坂社長は、別の先生を探してきて講習をお願いした。すると、社員たちはモチベーションを保ったまま、居眠りせずに楽しい雰囲気で授業を聞くようになった。
新しい先生は、30代の美人な女性だったのである。男ばかりのむさ苦しい職場に美しい女性が来るだけで社員たちのワクワク感は否応なしに高まっていた。
しかもその美人先生は、最初のコンサルタントと違い、テキストをマンガにするなど、工夫を凝らした授業をしてくれた。例えば「荷物を運んでいる人」「荷物を落とす」「ケガをする」というマンガをプロジェクターで映し、「これがリスクです」と説明する。「ISOと言っても別に新しいことじゃ無い」「毎日自分たちのやっていることがISOなんだ」と、社員たちは現場の話から理解していった。
まず現場の話をして、それを理論にあてはめる。最初のおじいちゃん先生が「リスクマネジメントとは、リスクを組織的にマネジメントし、損失などの回避または低減を図るプロセスを言いまして……」と話したのとは真逆の指導である。
こうして同社は、難しいマニュアルを整える必要もなく、1年間で業界初の「ISO3統合マネジメントシステム」を取得した。









