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なぜ織田信長は「部下」に裏切られたのか?経営学の視点で検証

時代背景は違えど、戦国武将も企業の社長も、部下を正しく導き、組織を拡大させていくという点ではその役割に違いはありません。特に「優れた経営者に共通した理念」は、昔も今もほとんど変わっていないようです。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、織田信長や徳川家康といった武将と、松下幸之助さんや稲盛和夫さんなど、誰もが知る大企業のリーダーの共通点を探りながら、「経営のコツ」を考察しています。

条件づけ権力

徳川家康の愛読書に「貞観政要」があり、その中に書かれた内容ですが、「『創業と守成はいずれが難きや』。唐の太宗(李世民)が、功臣である側近に尋ねた。その問いに創業をともに戦った房玄齢が「創業が難し」と答えた。これに対し魏徴が言った「得たのちは、おごり高ぶる。故に守成が難し」。それぞれの意見を聞いた太宗は「どちらも難し。創業はなされた。故に守成の困難を乗り切ろう」と締めくくった」とあります。

経営者(リーダー)に求められる資質・能力には普遍の部分もありますが、その一方で時代の移ろいによって求められるものが変わるということもあります。ここではまず普遍なものついて考えたいのですが、それは「人の活用と処遇」で、これを間違えたがために多くの組織が崩壊しています。

最大であり稀有な経営資源は人間であって「その人間が持つ個々の資質・能力を見い出して抜擢し、場を整えて最大の成果が得られるように支援する」、これが古今東西にかかわらず、マネジメントにおける最も重要な課題です。「功ある者には禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」がその基本で、貢献したからという理由で地位につけるのは破綻の原因ともなります。

功ある者には禄を与えよ徳ある者には地位を与えよ」は、西郷隆盛が言ったとも織田信長が言ったとも言われています。中国最古の歴史書である「書経」には「徳さかんなるは官をさかんにし、功さかんなるは賞をさかんにす」という言葉が記されています。さらに、GEのジャック・ウェルチも「能力と意欲あるものにはチャンスを与え、成果と貢献のあった者には報酬で応えよ」と言っているそうで。

古今東西、成功を得る経営者の考える原則は同じのようです。人の特質・特性は異なりよく言われるのが「外向型、内向型」などの分類で、一般の理解では、外向型は営業が内向型は事務が向いていると言われます。経営者が行うマネジメントは、最小の資源をもって最大の効果を得ようとするもので適材適所でないと成果を得られないのは当然です。

だのに「古くからいるから」とか「ここまで企業を一緒に盛り立ててくれた」とかさらに「縁故である」からなどで、地位につける場合が多くありますが、人情としては共感できても大方は破綻します。「縁故」以外の人については「栄誉と報酬をもって報いるのが原則です。この原則を過つと、機能としての組織は不全を来します。

当然の話をしましたが、最後に信長の没落とマネジメントの関係からマネジメントの「流行」について考察を行います。まず権力にはどのような基盤が必要かということを考えてみると、あげられるのは個人資質で、続いて財力組織でこれがないと権力の行使はできません。信長は全てにおいて卓抜で成果を実現させています。

次に行使の手段についてですが、経済学者「ガルブレイズ」は「威嚇権力」「報償権力」そして3つ目に独特な考え「条件づけ権力」をあげています。

さて信長の権力行使について吟味してみますと、信長が行ったのは「威嚇権力報償権力」で、価値観にかかわる「条件づけ権力」については機能主義から当初は利用したものの、利用価値が薄れると意を注がなくなります。

また人材の活用についても、当初機能第一の必要性より能力ある者、活用できる者を抜擢し場を与え、その活躍に応じて多大の報償を与えましたが、後に目標が達成してくるとその態度を変化させて行きます。「狡兎死して走狗煮らる」の喩のように、敵が壊滅すると利用価値のなくなった武将から無慈悲に追放が行われることになりました。

これは信長の美意識でもあって、機能主義の極端な行動パターンです。室町将軍にはじまり天皇にも及びそうな気配を持ち始めたときに、天下布武を可能にしたはずの機能主義が明智光秀の暴発を誘うことになったようです。日本人の潜在的な価値観では「能力主義」は容認しますが「帰属意識」を持つメンバーに対する危害は自らにも及ぶことでもあり忌避します。

現代の経営者でも、自己の都合で「帰属意識」を持つ社員を解雇することがありますが、日本人の感性に合わずで「条件づけ権力」の放擲になります。信長の場合は天下を制する目前でもあり、功少なきであっても「小禄」「栄誉」を与える様子さえ見せてさえいれば「条件づけ権力」も保てたでしょう。信長と言えども世俗に通じないがために、余命を絶つことになりました。

ここで少し考えてみたいのは「条件づけ権力」のことで、経営者が事業を成功に導くには人間共通の価値観」とそれとともに日本人の精神性の理解及びその活用が必要なことです。安国寺恵瓊は信長のなかにその欠落を見ており、竹中半兵衛や黒田官兵衛なども直感でもって見切っていたのでしょう。

現代ほど、経営者にとってマネジメントの困難な時代はないと言えます。それは環境変化が激しいためそれも質的変化が絶えず起こっているので、守りの経営だけでは存続がはかれないことです。そのため、経営者は絶えることなく世の変化を見越して意思決定しなければならないという、まったく不可能な状況に追い込まれています。

解決策は「価値観条件付け権力)」、独善防止のための率直な意見を交換できる「経営チーム」の構築、現場への大幅な「権限移譲」です。経営者の行うことは「価値観の確立、「目標評価基準の設定です。あとは現場に大幅に権限を委譲し適時評価しながら現場が適切に目標が達成ができるように励まし支援することです。

GEのジャックウェルチがこの方式を完璧に実践しており、稲盛さん、孫さんも限りなく近い形でマネジメントを行っています。「価値観」の確立とその浸透、アメリカと日本では運用の仕方は異なるのですが「報償権力」の適切な併用が、変革が常態の社会で貴重な人的資源の能力を引き出す唯一ともいえる経営の「知恵」だと言えます。

image by: Wikimedia Commons

 

戦略経営の「よもやま話」
著者/浅井良一
戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。
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