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【書評】居酒屋で出すハンバーグが「雑巾」と呼ばれている理由

家庭では「便利だから」、出先では「安いから」という理由でついつい口にしてしまうバンバーグやソーセージと言った加工食品。しかしそれらのうちの少なからぬ製品が、信じがたい製造過程で作られている可能性があるようです。無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんは、とある1冊の書籍に記されている「食品業界のあまりにひどい内情」を紹介し警鐘を鳴らしています。

震える牛』相場英雄・著 小学館

だいぶ前のベストセラー、相場英雄『震える牛』を読んだ。優れたミステリーだが、謳い文句の「平成版『砂の器』」は意味不明である。近作の「ガラパゴス」は「平成版『蟹工船』」だという。変な売り方をするもんだ。

主役は警視庁捜査一課継続捜査班に属する田川信一(47)、担当するのは迷宮入り濃厚な目立たない未解決事件ばかりで、この度は「中野駅前居酒屋強盗殺人事件」を押しつけられる。彼の地道な捜査のようすと、捜査線上にあがった人物が属する大手スーパーと悪辣な精肉卸業者の行状、暴力団員や腐った警察の利権構造などが並行して描かれて、非常にスリリングであった。

事件の謎解きだけでなく、地方都市の衰退の真の理由や企業のモラルの低下なども説かれており、ミステリーの枠を超えた社会的問題提起の小説であった。タイトルの「震える牛」とはBSEの兆候が現れた牛のことだった。事件は解決するが、田川にとっては苦い終わり方になる。この物語の中で、女性記者・鶴田が、これから調査しようと思っていた疑惑の会社の、元工場生産管理課長・小松の告発を聞くシーンがある。ここでおそろしい話が出てきた。二人は居酒屋に入り、鶴田がハンバーグとソーセージ、海鮮サラダ、焼きおにぎりをオーダーする。小松は皿に盛られたハンバーグとソーセージを頑として口にしない

それは件の会社の製品だった。老廃牛のクズ肉内臓血液つなぎのタマネギ類と代用肉(食用油を抽出したあとの脱脂大豆を原料にした肉のようなシロモノ)を、その会社が開発した特殊なブレンダーで混ぜ合わせ、各種の食品添加物をぶちこんで作られたのが、目の前にあるハンバーグだった。「私や同僚は絶対に自社製品は一切食べません」という。クズ肉に大量の添加物を入れ、なおかつ水で容量を増すから「雑巾」と呼んでいるらしい。老廃牛の皮や内臓から抽出したたんぱく加水分解物でそれらしい味を演出し、さらに牛脂を添加して旨味を演出し、一応ビーフ100%らしい食べ物になっているのだという。

これはフィクションであるが、多かれ少なかれ食品加工の現場はこんなものらしい。世界チェーンのファストフードも基本的な仕組みは一緒で、大量仕入れで世界中から老廃牛のクズ肉を集めそこに添加物を混ぜ込む。刺激の強い調味料で肉本来の味なんてわかりっこない。食品と称する工業製品が売られているのだ。もはや、添加物なしの食生活は絶対に無理だから、中身を知りリスクが高そうなものを避ける知恵を持て、と小松は言うがそりゃ無理でしょう。せいぜい「国産しか買わない」「安すぎるものは買わない」という決意くらいだ。そういえば、映画「アメリカンバーガー」は本物の肉100%だったな。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock

 

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