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「クールジャパン」の違和感。世界は本当に日本を認めているか?

何かにつけて日本のメディアは「クールジャパン」という言葉を使いたがります。しかし、アメリカで映画を学んだ執筆陣が映画業界にまつわるあらゆる事象について論じていくメルマガ「Ministry of Film – ゼロからのスタジオシステム –」の著者のひとりである三谷さんは、日本の文化が世界的に見てクールであるのは事実だが、実写映像分野に関しては成功事例が乏しく、うまくいっているイメージはないと指摘。「日本から世界へ」のビジョンをもっと明確にすることが必要だと語ります。

「日本から世界へ」の違和感

日本の文化ってクールだからこれを世界的に広めて売っていこう!」という趣旨の「クールジャパン」が国をあげて謳われるようになって久しい。

その中で漫画・アニメーション・映画をひとまとめにした「コンテンツ」という言葉が使われるようになり、「日本のコンテンツを世界に」というフレーズが四方八方で飛び交うものとなった。MOFiの読者の方も、耳にタコができるほどに聞いているかもしれない。一昔前の「富国強兵・殖産興業」のようなシンプルさがあり、壮大なビジョンを描いている気概すら感じるフレーズのせいか、好んで使われる傾向が強い

しかし、さすがに食傷気味とでもいおうか、筆者の耳にそのフレーズが入った瞬間、心の中でシャッターが半分ほど閉じかける。漫画やアニメーションについてはともかく、筆者が専門とする(したい)実写映像分野に関しては、威勢のいい言葉とは裏腹に、この10余年の成功事例が少なくうまくいっているイメージがいまひとつ抱けていないからである。

このフレーズの大変なところは、青写真が描けているように響きながら具体的イメージを捨象してしまうことにあるのではないか。聞き手をぼんやりわかったような気にさせながら、実体は不問に付すような掴みどころのなさ、無責任さゆえに、発話者にそもそも具体的なイメージが伴っているのかが疑わしく、あるいは伴っているにしても実現可能性に疑問が残る印象を受けることが多いからだ。

実写映像の文脈で「日本から世界へ」を考えると、どこかでつまずく。これに対して、どのように具体性を与えるかを真剣に吟味し実行するのが、映像の世界で仕事をする私たち一人ひとりに与えられた宿題なのだろう。

筆者が見聞きした範囲では、大きく次の4つの方法がしばしば挙げられる。

 1. 日本映画(邦画)を海外に輸出し、興行収入の配分を日本に還元

 2. 日本に国外から映画撮影隊を誘致、各地元の経済活性化

 3. 出資・クルーを交えた国際共同製作

 4. 日本の物語原作を活かした外国資本による映画化の権利運用

これがすべてではないだろうし、ほかにも誰も思いついていないアイデアがこれから誕生する可能性もある。しかし筆者としては現段階で、4.が長い目で見て最も実現可能性の高いかつ経済的効果もあげられる方法なのではないかと考える。(その理由については 112号コラム『「和製マーベル」はつくれる!』参照)

経済活動としての映画づくりが続くためには、大きな市場に出回り、一人でも多くの観客に届く作品が継続的に出てくる必要がある。それを実現するうえで、物語を構築する能力、ストーリーテリングの能力が不可欠であり、世界的なストーリーの供給地としての日本の役割が強まるのではないか。

もちろん、一筋縄ではない。権利にかかわる契約交渉から実際の映像ができあがるまでのエクセキューションにいたるまでの課題は山積みだ。しかし、「日本から世界へ」のひとつの具体的解答の方向性として進めることに大きな意義が見いだせるはずだ。

そういった文脈においても、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『攻殻機動隊』といった実写映像化作品はこのような試みの初期の作品であり、とりわけ『攻殻』の興行は今後の作品トレンドを左右する試金石として見られるだろう。(うまくいってほしいものだ…)

日本の文化が世界の中でも絶対的・相対的にクールである」という感覚は、筆者の実感として正しい。90年代前半、日本人の両親のもとに生まれながらも文化的に「日本的なもの」から遠いオーストリアに住んでいたときに流れていた日本のテレビ番組(アニメ)、あるいは通っていたインターナショナルスクールで、ほかの日本人生徒の持ってきていたお菓子や文房具が「いけてる感覚というのは、皮膚感覚としてしみついている。

いかに「日本から世界へ」の形をつくることができるか、個別具体的に試行錯誤が続くが、あくまで具体的に模索することの重要性が、フレーズをフレーズで終わらせず、違和感を解消することにつながるはずだ。

「夢」を売る私たちこそ、最も現実的に考えるべき人種なのかもしれない。(三谷)

image by: Shutterstock

Ministry of Film – ゼロからのスタジオシステム –

映画製作/観賞/ビジネスにまつわる知識、理論、情報、思想、経験。「Ministry of Film(MOFi)」はそれらを集約し共有するための読み物です。発行者は、映画業界での国際的なキャリア構築を志す若手日本人2名。それぞれが米ロサンゼルスの権威ある映画大学院(AFI、USC)で学んだカリキュラムを下地に、実務レベルでの「ハリウッド」と、世界の映画事情を解説します。メンバーのリアルタイムな活動記、映画にまつわるニュースの解説、そして毎回異なるテーマでのコラムを中心に展開します。

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