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安倍外交は物味遊山?総理の100カ国歴訪が評価されていない理由

安倍総理を語る上で何といっても欠かせないのが、外交。「安倍外交」という言葉がうまれるほど心血を注いでいることで知られていますが…、今回の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では最近の「安倍外交」を振り返りながら、総理が「本当に実ある外交を行っているのか?」というシビアな問題に正面から斬り込みます。

ぐらつく安倍外交。今年の荒波を乗り越えられるか?

安倍政権の最大の売りは外交といわれ、題目は「地球儀を俯瞰する外交」として世界中を飛び回っている。いったい安倍外交の成果は何かということを本日は考えてみたい。

地球儀を俯瞰する外交を点検

歴代総理に比べ安倍首相は実に外交に熱心で、この4年間での訪問国は100ヵ国を超え、外国首脳との会談は200回に達し、電話会談も含めると300回ともいわれる。アメリカのトランプ大統領とはいち早く会談し、ロシアのプーチン大統領との会談も15回に及ぶ。さらに、中国、アジア各国、ヨーロッパ、アフリカ、中東、中南米とまさに地球を俯瞰する「地球儀外交は間違いなく歴代の首相と比べても特筆されるほどだ。

そのこともあってか、内閣支持率はほぼ50%台で安定。去年暮れの真珠湾慰霊の旅を終えると60%台後半まで上がった。支持率の上昇、首脳会談の回数が多い中で「本当の成果はどうなのか?」ということを点検してみたい。

米ソ両国との外交成果は…

確かに「訪問回数」こそ多いが、行っていない所を順番に周っているだけという感もある中で訪問国が増えてきた。

成果を考えてみると、去年の暮れ期待をふくらませた「日露首脳会談」では、日露平和条約北方四島の話も経済協力の話だけで政治分野はしぼんでしまった。過去15回もあって、進むどころか、巻き戻ったようにもみえる。以前お伝えしたようにエリツィン時代は実現一歩手前まで進んでいた(「またもロシアに翻弄されるのか。北方領土が日本に一番近づいた日」)が、安倍政権になり巻き戻った感も否めない。

今後、トランプ氏が「親ロシア外交」を行なうと表明しており、トランプ氏とプーチン大統領が仲良くなると、 日本がはじき飛ばされる恐れがないとはいえない。そういう意味でいうと、ロシア外交は成功したとはいえないだろう。

さらに、安倍首相は日本時間の12月28日にオバマ大統領と最後の首脳会談を実施。日本の真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊するアリゾナ記念館を訪れた。そこで、安倍首相は「歴史に残る激しい戦争を戦った日本とアメリカは、歴史にまれな、深く、強く結ばれた同盟国」と日米同盟強化を誓った。確かに言葉は美しいが、オバマ大統領との間で日本の奇襲攻撃やアメリカによる原爆投下についてきちんと話し合いをしている気配はない

外交全体はちぐはぐな印象も

そんな安倍首相の真珠湾訪問の翌日、稲田防衛大臣が靖国を参拝。稲田大臣は安倍首相に同行して真珠湾を訪問し、日本の真珠湾攻撃による戦没者を慰霊したばかりにも関わらず、A級戦犯を合祀した靖国へ防衛大臣として参拝した。このことは、中国や韓国などとの問題にも影響がでるとみえ、なんだか全体としてちぐはぐ」なようにみえる。

この影響により、稲田大臣が靖国に参拝した翌日に今度は韓国の日本総領事館前に慰安婦像が再び市民団体によって設置された。今回、韓国政府は前回のように強制撤去をしなかった。日本政府はそこで対抗措置として駐韓国日本大使や総領事を一時帰国させたほか、日韓通貨交換(スワップ)の取り決め協議の中断や日韓ハイレベル経済協議の延期などの方針を発表した。そういう意味からも全体がちぐはぐで成果はいまひとつ上がっていないといえる。

韓国側は政治的に不安定な状況であり、日本への反発も日々増加している。現在、韓国政府には統治者能力が皆無であり、韓国政府はこの少女像の設置に関しては各地方に判断を一任している。こうなってくると対日関係も危うくなる。さらに日中韓の首脳会談がずっと延期されたままで、日本の韓国に対するあり様が非常に難しい状況となってきた。

先が見えない日米関係

トランプ氏は在日米軍の負担をもっと増やせと語り、現状日本の75%負担に更なる増加を要求。メキシコなどに工場を作ろうとするトヨタに対しメキシコでの工場建設計画を撤回しなければアメリカで高い関税をかけるとツイッターで警告。その影響か、トヨタは本日1.1兆円投資すると表明。トヨタはアメリカでの雇用は減らさないなどの主張があるにもかかわらず、このようなトランプ氏の一企業に口先介入するという動きは気になる。

日本の役割を果たしているのか…

トランプ氏の「二つの中国発言で米中関係は緊張状態にあるが、これに関しては日本はなんとなくだんまりを決め込んでいる。さらに、中国による南沙問題によって東南アジアが分断されつつあり、その中でこの問題に関しても日本が動いた形跡はない。これらのことからも確かに世界を周ってはいるが、「本当に実のある外交を行なっているのか?」という感じがする。

汗をかく外交の重要性

過去の日本の外交と比較して考えると、日本の国益に関して本気で動くということが大事だと思うのだが…。

例えば、田中角栄氏は資源外交として欧米の石油資本を敵にまわし、中東産油国と直接取引する道を開いた。この結果、アメリカの逆鱗にふれ田中氏は退陣を余儀なくされたが、日本の「中東外交」「油外交の基礎を築いたといえる。また、中曽根氏はレーガン氏と「ロン・ヤス」関係をうんと深め、その結果日米摩擦を鎮静化させている。

現在、先に述べたように中国によって東南アジア諸国が分断されつつある。さらに中東ではそれぞれ日本と親しいイランとサウジアラビア両国が断交状態となっている。これらに対して日本が仲介したり動いているという形跡はなく、この件に関しても汗をかくことがもう少し大事なのではないかと思う。

数字が示す首相の影響力…

数字から今の安倍政権を見てみるといまいちなところがある。先月発表されたフォーブス誌の「世界の人物影響力ランキング」で1位は「プーチン大統領」、2位が「トランプ氏」、3位が「メルケル首相」、4位が「習近平主席」などが続き…、「安倍総理は37位。日本は世界第3位のGDP大国であり、安倍首相は100ヵ国も周っているのに影響力では評価されていない。これまで各国を周っていたのは単なるにぎやかしとパフォーマンスだけだったととられかねないので、もう少し頑張ってほしいという気がする。

今年は世界各国でトップが変わるタイミングで、世界がさらに右傾化が進む危険性もある。その中で安倍首相の動きは注目されるはずであるが…。

今年は、オランダ(3月)、フランス(4~5月)、ドイツ(9月)、イタリアも総選挙が前倒されて今年になる可能性もある。イギリスのEU離脱の話もどう動くのか…。

こういった中で、ただ周るだけでなく日本は何を考えているのかをもっとぶつけ仲介できるところは仲介し、日本の存在感を示してほしい。

(TBSラジオ「日本全国8時です」1月10日音源の要約です)

 

 

嶌信彦この著者の記事一覧

ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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