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【書評】オレ流・落合を完全サポート。森繁和に学ぶ二番手の品格

「名選手は名監督にあらず」というプロ野球界の常識を覆し、中日ドラゴンズ監督に就任するやいきなりリーグ優勝を果たした落合博満氏。そんな落合氏をナンバー2として支え続けたのが、今季から同球団の監督を務める森繁和氏です。無料メルマガ『ビジネス発想源』ではそんな森氏が「ナンバー2の持つべき意識」を綴った一冊が紹介されています。

トップとナンバー2

最近読んだ本の内容からの話。

1988年まで西武ライオンズの投手として活躍した森繁和氏は、翌年からライオンズ、その後大島康徳監督時代の日本ハム、森祇晶監督時代の横浜ベイスターズで15年間ずっと投手コーチを務めた。中日ドラゴンズの監督に就任する落合博満氏から直接オファーを受け、森繁和氏は2004年から中日ドラゴンズの投手コーチとなった。

落合監督が就任した当初、その采配に対して「オレ流だ」「前代未聞だ」とマスコミは報道し世間を騒がせたが、落合監督の采配は勝利への理論に裏打ちされた考え抜かれた戦略だった。例えば、プロの世界ではキャンプ中はなぜか4勤1休みが常識だったのにそれを覆して6勤1休を導入したことも、シーズン中はそれが基本のリズムだからそれに合わせないのはおかしい、という理由だった。

そして、森コーチが1年目に驚いたことは、落合監督がやりくりや試合中の投手交代なども全て投手コーチに任せてくれた上に、投手に直接、何も文句を言わないことだった。逆に、投手にフォローはたくさんしてくれて、ピンチの時にもマウンドに行って投手に的確に状況を説明して、気を楽にする。

落合監督がマウンドに行くのは、だいたい全く変えるつもりのない時であり、「大丈夫、逆転されても責任はオレにあるから」という気持ちを伝えて安心させるのだ、そしてマスコミに「投手交代の失敗では」と問われても、絶対に継投ミスなどのマイナスのことを口にしなかった。おかげで森コーチも投手も、失敗を恐れず思い切ったことのできる空気になった。

監督という立場は、どうしても最終責任者として、選手起用に口を挟みたくなり、うまくいくとコーチや選手の手柄を横取りして自分の采配がうまくいったと口にしてしまい、コーチに権限を与えて成功してもそのコーチを疎んじてしまうものだ。しかし、落合監督は全てをコーチに任せ、「責任はオレが取るから迷わずに思い切り自分の思った通りにやれ」と常に言ってくれていた。

森コーチは8年間、迷ったり悩んだりした上で決断してその内容を落合監督に報告すると、ほとんどの答えは「いいんじゃないの」であり、8年間で一度も、意見が食い違ったことがない。監督から「ピッチャー交代しろ!」と言われたり、「次、誰で行きます」と森氏が言った時に監督に「いや、こうしてくれ」と言われたことも8年間でいっさいなかった。

森コーチは、監督にそう悩ませないように先回りして投手を準備するよう心がけたし、「今日はこうなった時にはこれは用意してます」「延長用にこいつを入れて準備させておきます」と事前に伝えておくようにした。

また、余計なことを監督の耳に入れない、ということを強く意識した。監督にはチーム全体を眺め、じっくり先のことを考えて、試合に集中してもらいたい。だから、コーチ陣で解決できることをいちいち耳に入れる必要はなく、必要に応じて事後報告すればいい、と考えた。

後に森繁和氏はヘッドコーチも務めたが、移動日の練習は森コーチが現場監督となって全てを見るようにして、落合監督には自宅や宿舎で休んでもらうようにした。監督がずっといれば選手もコーチも先に引き上げにくくてずっといることになるし、選手が自分でちょっと考えればいいような余計な話題も監督の耳に入れてしまうことになる。

トップの右腕として好き勝手にやらせてもらえると、時には落合監督をカゲで動かしているような快感を覚えたこともあるが、落合監督はそういう性格を見抜いて森氏をうまく操縦していた、と森氏は語る。

このように、落合監督の優れたマネジメント能力とそれを右腕として支える森コーチの参謀力で、中日ドラゴンズは1年目からリーグ優勝を果たし、落合監督時代の8年間で4回のリーグ優勝、1度の日本一を獲得するに至った。

出典は、最近読んだこの本です。中日の落合監督時代を支えた森繁和氏の著作。ナンバー2の持つべき意識が記されています。

参謀』(森繁和 著/講談社)

組織が混乱に陥りやすい原因の一つに、「トップが出過ぎる」ということがあります。現場の総責任者であるナンバー2がいても、そこにトップが出て行って、こうしろああしろと口を出してしまう。それによって、トップの言葉とナンバー2の言葉という2つの異なる指揮系統ができてしまい、その現場にいるスタッフたちはどちらの言うことを聞けばいいかわからなくなります。

つまり、「トップが出過ぎる」ということはトップがナンバー2に、権限を完全に任せきれていないことであり、これが組織の混乱を招きます

上司と部下は役割を切り分けないとダメで、上司が部下の仕事を横取りしてしまうと、責任の所在も不明瞭になります。

上司の仕事は、部下に権限を委譲し、任せきること。部下の仕事は、上司がもっと任せきることができるようにすること。

そういう上司と部下の両輪が噛み合って、組織は前へと進んでいくのです。

【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)

image by: Shutterstock

 

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【著者】 弘中勝 【発行周期】 日刊

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