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ハシゴを外された台湾。なぜトランプは一つの中国を認めたのか?

先日掲載の記事「日本は利用される。突然「一つの中国」を認めたトランプの思惑」でもお伝えしたように、トランプ大統領は日米首脳会談の直前に、突如として「一つの中国」を認める発言をしました。この大きな「方向転換」を、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、どのように見ているのでしょうか。そして今後の日米、日中、米中関係は?

WSJは、トランプが「一つの中国」を認めたことをどう見る?

皆さんご存知のように、トランプは、「一つの中国の原則を認めました。ウォール・ストリート・ジャーナル2月13日付の反応を見てみましょう。

米国と中国、足並みそろえた方向転換

ウォール・ストリート・ジャーナル 2/13(月)8:42配信

 

【ワシントン】中国の習近平国家主席との9日夜の電話会談に先立って、ドナルド・トランプ米大統領は「米中関係の礎」を破棄するとの脅しを撤回することを決めた。アジア政策継続に向けた動きの一環だった。

 

トランプ氏は台湾を外交的に認めないという長年の米中合意を破棄する可能性を示唆していたが、米政府高官によると、電話会談が始まってから5分もしないうちにこの問題は解消された。習氏が「(台湾を中国の一部とみなす)『一つの中国』政策を支持してほしい」と述べると、トランプ氏は「要請に応じて支持する」と応じたという。

習近平「『一つの中国』政策を支持してほしい」、トランプ「要請に応じて支持する」だそうです。この事実について、WSJの意見は。

トランプ氏としては「脅し」から大きく後退した格好だが、米国のアジア政策にとって極めて重要な経済や安全保障をめぐる交渉を進めるチャンスを得たともいえる。
(同上)

「トランプが『一つの中国』を認めなければ、中国と話はできないが、認めたので、中国と経済や安保の話ができるようになった」というのがWSJの意見です。


トランプは、勝手に意見を変えたのか?

ところで、トランプさん、昨年12月には、「一つの中国を認めるかどうかは、交渉次第」などと言っていた。なぜ、わずか2か月で意見を変えたのでしょうか?

一方、習氏は電話会談で、米国の新政権に対する中国の様子見作戦が実ったこと確認した。中国政府はトランプ政権に対し、米国の「一つの中国」支持が両国関係にとって破ることができない前提条件であることを表明していた。
(同上)

様子見作戦が実った」そうです。つまり、「何もしなかったら、勝手にトランプが意見を変えた」と。そうなのでしょうか??? そうなのかもしれません。しかし、思いだされるのは、クリントン政権一期目に起きた、「クリントン・クーデター」のこと。

米中関係は、1970年代初めにニクソンと毛沢東が和解した後、概して良好でした。両国には、「ソ連という共通の敵がいた。しかし、1980年代末から90年代初めにかけて、大きな危機が訪れます。一つは、1989年に起こった「天安門事件」。これで、欧米世論は、一気に「反中」になった。もう一つは、1991年末に起こった「ソ連崩壊」。「共通の敵」が消えたことで、アメリカでは、もう中国と仲よくする意味はない!」という意見が力を増した。1993年1月、大統領に就任したクリントンも、そんな世論を意識して、当初非常に「反中」だったのです。

で、中国は、どうしたか?このあたり、ニクソン、キッシンジャーと共に米中関係を好転させた男ピルズベリーさんが、『China2049』で詳述しています。アメリカが反中に転じることを恐れた中国は、なんとアメリカ政府内に強力な親中派グループを組織しクリントンの反中政策を転換させることにした。ピルズベリーによると、「親中派グループ」には、

などが含まれていた。ルービンは、元ゴールドマンサックスの会長で、後に財務長官になりました。サマーズは、ハーバード大学の経済学者で、ルービンの後に財務長官になった。確かに「強力」です。

「親中派グループ」は、政治家の味方を増やしていった。そして、何が起こったのか?

ついに1993年末、中国が現在、「クリントン・クーデター」と呼ぶものが起きた。中国に同調する面々が大統領に反中姿勢の緩和を認めさせたのだ。クリントンがかつて約束したダライ・ラマとの新たな会談は実現しなかった。対中制裁は緩和され、後に解除された。
『China2049』

驚愕の事実ですね。中国はなんと、アメリカの外交政策を180度転換させることに成功したのです。93年といえば、今から24年も前。中国のGDPは、たったの6,230億ドル。これは、当時の日本の7分の1。今の中国と比べると、18分の1。こんな弱小国家だった1993年でも、中国はわずか1年でアメリカの国策を180度転換させる力があった

国力増加に比例して中国が「工作費」を増やしたとすれば? トランプの意見を2か月で変えることも可能なのではないでしょうか?

以上、証拠はありません。ただ、明らかになった過去を見れば、「今はこんなことやっているのではないか?」と想像できます。

「一つの中国」、日本にとっては?

WSJ2月13日付は、トランプが「一つの中国」を認めたことは、「日本にとってどうなのか?」という話をしています。

トランプ氏は記者会見で「日本とその施政下にあるあらゆる地域の安全保障および極めて重要な日米の同盟関係の一層の強化に関与する」、「日米同盟は太平洋地域の平和と安定の礎である」と述べた。そのうえで、習国家主席との電話会談や米中の親密な関係が日本にも利益をもたらすと指摘した。

 

大統領は習氏との電話会談について「非常に温かい会話だった。われわれはとてもうまくやっていく過程にあると思う」とし、「そうなれば中国、日本、米国を含めたこの地域の全ての国にとって非常によい結果をもたらすだろう」と語った。

これ、どうなのでしょうか? 日本とアメリカが、「強固な関係」を築いているという前提があれば、米中が仲良くするのは「よいこと」です。

なぜ? 私たちの願いは、「尖閣沖縄を中国の脅威から守ること」。皆さんご存知のように、中国は、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない!」と主張しているのですね(必読完全証拠はこちら。→「反日統一共同戦線を呼びかける中国」)。

今回の会談で、トランプさんは「尖閣は日米安保の適用範囲と断言した。これは「大きな抑止力」で、中国もなかなか大胆な行動はとれなくなるでしょう。その上で、トランプさんは、「中国と仲良くしたい」という。本当にそうなるか、大いに疑問ですが、本当に仲良くしても誰も困らない

逆のケースを想像してみればわかります。アメリカが、台湾を守るために中国と戦争する?これは、世界が望まない事態です。どう始まるかにもよりますが、日本も駆り出される可能性が高いでしょう。

私たちは戦争を望んでいないので、日米関係が強固である大前提で米中関係が好転するのは悪くない(トランプが「一つの中国」を認めたからといって、「米中覇権争奪戦」「米中冷戦」が、「始まる前に終わった」と見るのは、慌てすぎです)。

ただ、台湾は哀れです。トランプさんは、梯子を立てて、わずか2か月で外してしまった。台湾の人たちの落胆は大きいことでしょう。台湾、ウクライナ、ジョージア(旧グルジア)、韓国など。大国の事情に翻弄される小国は、本当に大変です。日本も、よほど警戒している必要があります

日本の戦略は、「現状維持」と「時間稼ぎ」

現状、日本の現実的脅威は、二国だけです。一つは、尖閣、沖縄を狙う中国。もう一つは、北朝鮮。特に、GDP、軍事費世界2位の大国中国の脅威は、深刻です。

日本は、アメリカとの同盟関係を強固にすることで、「尖閣侵攻」の意欲をくじいておく必要がある。同時に、「アメリカのお役に立ちたい」ということで軍備を増強し、ちゃっかり「軍事的自立」を目指す。そして、「現状維持」「時間稼ぎ」を続けていきます。

なぜ?10年以上前から予想していたように、中国経済の減速が著しい(2005年発売の『ボロボロになった覇権国家』で、「中国は、08~10年に起こる危機を短期間で乗り切るが、成長が続くのは2020年まで」と書いています)。

これは「国家ライフサイクル」でわかるのです。つまり、中国は、「成長期後期から成熟期に移行する際の混乱が待ち受けている」状態。日本でいえば、1980年代後半にあたるでしょう。2020年代になると中国は日本の1990年代にあたる時代に入っていく。「一人っ子政策」の結果、高齢化が急速に進み、「暗黒の時代」に突入していきます。だから、日本はあせる必要がない

そして、「現状維持」「時間稼ぎ」を続けていく。時は、日本の味方です。

image by: 首相官邸

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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