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ドイツが中国に急接近。隠しきれなくなってきたEUの焦燥感

イギリスの離脱を期に、ますます不安定な様相を呈しているEU。先日掲載の記事「トランプが「口撃」開始。現実味を増してきたEU崩壊のシナリオ」で、実際にEUのトゥスク大統領がトランプ政権を警戒していることはお伝えした通りですが、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、今度はドイツがEUを守るべく、中国に接近し始めたと伝えています。ドイツと中国、一体どんな「利害関係」があるのでしょうか?

なぜドイツは、中国に接近するのか?

トランプ大統領誕生後、世界情勢は、かなり流動的になっています。トランプ外交の基軸は、「ロシアと和解して中国に勝つ」です。

しかし、トランプさんには敵が多すぎて、なかなか思うように動けない(敵の正体については、「プーチンがっかり。トランプは本当に「反ロシア」に寝返ったのか?」を参考にしてください)。

そして、トランプさん、

「欧州の最重要パートナーは、EU離脱を決めたイギリス」
「アジアの最重要パートナーは、日本」

と決めています。こういう構図の中で、困ってしまうのがドイツを中心とするEU。トランプさんは、中国を批判していますが、EUにも相当厳しい。

トランプのEU不信、EUのトランプ不信

産経新聞2月16日付を見てみましょう。

「彼の信念は就任演説で明確になった」。ドイツのメルケル首相は1月20日、こう述べた。同日のトランプ氏の就任演説には国益最優先の姿勢が色濃く反映された。独紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は「挑発」だが、従来の発言を踏まえれば、「驚きではない」と伝えた。

トランプさんの信念は「アメリカ第1主義」です。

むしろ欧州で衝撃が広がったのは先立つ16日に独英メディアが報じたインタビューだ。独紙ビルトによると、トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)への疑問を改めて示しただけでなく、英国の欧州連合(EU)離脱を支持し、「さらに加盟国が離脱するだろう」と述べた。
(同上)

NATOに関しては、マティスさんがドイツを訪問し、加盟国を安心させました。しかしEUについて、トランプさんはイギリスのメイ首相と会ったとき、「EU離脱ですばらしいことになる!」と絶賛した。そして、「これから離脱する国が増える」と言い、事実上「EU崩壊を歓迎している」ような発言をしました。

なぜトランプさんは、「反EU」なのでしょうか?

トランプ氏のEUへの懐疑心は強い。「EUは部分的に貿易で米国に打撃を与えるために創設されたんじゃないのか?」とライバル視し、「EUがばらばらになろうが、団結しようが、どうでもよい」と言い放った。
(同上)

EUはアメリカに打撃を与えるために創設された」。このトランプ見解、実は正しいのです。1991年末、ソ連が崩壊し、東欧が解放されました。この大事件は、独仏を中心とする西欧にとって大きな意味があった。つまり、「東の大脅威(ソ連)が消えたのだから、もはやアメリカに守ってもらう必要はない!」。

もう一つは、「EUを東に拡大し、共通通貨(ユーロを基軸通貨化すればEUはアメリカに匹敵する勢力になれるのではないか!?」。そんな野望が、欧州エリートの中に出てきた。

プロジェクトの中心にいたのは、フランスとドイツです。というわけで、トランプさんが「EUはアメリカに対抗するために創られたのではないか?」というのは、その通り。ただ、だからといって普通は、「EUがバラバラになっても、どうでもいい!」とは言いません。率直すぎるので、不必要に警戒され、恐れられ、敵が増えていきます。

風当たりを受けるのはドイツだ。「EUはドイツの目的のための道具」とこきおろし、独自動車大手BMWにはトヨタ自動車同様に、新設を計画するメキシコ工場で製造した自動車を米国で販売する場合、「35%の税金を課す」と脅しをかけた。

 

ドイツは輸出大国だ。独Ifo経済研究所のフェスト所長は「輸入を減らし、国内製造業の雇用を創出するトランプ氏の目標は明確」とする一方、「大きな貿易黒字を持つドイツはスケープゴートにされる可能性がある」と警戒心を強めた。
(同上)

EUはドイツの目的のための道具」。こういう見方の人が増えています。たとえば、「予言者」エマニュエル・トッドさんは、EUのことを、「ドイツ帝国」と呼んでいる。

「対米貿易黒字」で批判されるドイツ。日本と立場は似ていますが、日本とドイツでは、違うところもあります。トランプさんは、中国に対抗するため、どうしても日本と仲良くしなければならない。そのため、経済問題は最重要ではない

一方、「中国に対抗するためにドイツと仲良くする」という話にはなりません(距離が遠い)。欧州最大の脅威はロシアなので、「対ロシアでドイツと仲良くする」という話はあり得る。しかし、トランプさんは、ロシアを脅威と認識していないのです。

そんなわけで、日本は「中国ファクターのおかげでバッシングを逃れている。ドイツは、「ロシアファクターが緩んだことでバッシングの対象になっている

ドイツは、中国に向かう

トランプ・アメリカに敵視されるドイツ。困ったドイツは、アメリカのライバル中国に接近しようとしています。

保護主義や孤立主義を鮮明にするトランプ氏に対し、共に自由市場主義を進めてきた欧州ではいらだちや戸惑いが広がる。トランプ氏が中国批判も展開する中、メルケル独政権のガブリエル副首相兼経済・エネルギー相(現外相)は米国が中国やアジアと「貿易戦争」を始めるなら、「欧州とドイツはアジアと中国に合わせた戦略が必要だ」と訴え、中国との連携強化を示唆した。
(同上)

中国との連携強化を示唆した」。実を言うと、この動きは、今に始まったことではありません。オバマ時代から始まっていた。その証拠が、2015年3月の「AIIB事件」です。アメリカの制止を完全無視して、欧州の大変多くの国が中国主導「AIIB」への参加を決めました。「火付け役」はイギリスでしたが、ドイツも先を争って裏切った

実をいうと、中国側もこのような変化を察知しています。「トランプはナショナリストで、グローバリストの国際金融資本やEUから嫌われ
ている」。それで習近平は1月、ダボスで、「グローバリズム絶対支持宣言」をした。結果、「トランプより習近平の方がマシかもしれないぞ!」という雰囲気になってきている。(中国の脅威に怯える日本人は、「国際金融資本やEUのエリートは、なんとナイーブなのだろう!どうせだまされるだけなのに!」と思いますが。彼らは尖閣、沖縄、南シナ海と関係ないので、中国を「安全保障上の脅威」と認識していないのです)。

中国は習近平国家主席がスイス東部で開催された世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に初出席し、グローバル化の推進を訴え、会場に集まった経済界の要人らの喝采を浴びた。「中国接近」を念頭に置くのはガブリエル氏だけでもなさそうだ。
(同上)

変化の激しい時代、日本は…

というわけで、現状の世界の構造をみると、トランプ・アメリカは、ロシアと和解したいが、敵に阻止されている。彼は、中国と対立したいが、敵に阻まれている。トランプ・アメリカは、日本、イギリスを味方につけている。トランプ・アメリカは、ドイツを中心とするEUと対立している。それで、ドイツは、アメリカのライバル中国に接近している、となります。

しかし、現在の世界情勢は、1930年代並に変化が激しいです。1930年代、日本はフラフラしていた。そして日中戦争が始まった1937年、アメリカ、イギリス、ソ連、中国、4大国を全部敵にまわしていた。要するに日本は、「孤立したから負けた」のです。

その教訓を活かして、日本は、「味方を増やす戦略を進めていく必要があります。

  1. アメリカとの同盟関係をますます強固にする。
  2. インドとの関係をますます強化していく。
  3. ロシアと和解することで、中ロ関係を弱体化させる。
  4. 台湾、ベトナム、フィリピン、オーストラリアなどとの関係をさらに強化していく。
    その上で
  5. 中国を挑発しない。

80年前とは違い、日本はいいポジションにつけています。しかし、油断は大敵です。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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