元「旅行読売」編集長の飯塚玲児さんが、温泉に関する知識を毎回教えてくれるメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』。今回は、先日政府が出した「温泉のタトゥー禁止問題」に対する答弁書に対する話題です。著者の飯塚さんは昨年3月に発表した観光庁の報道発表を紹介した上で、事実上「外国人旅行者のみOK」としていることに異議をとなえています。
刺青入浴拒否は入浴制限規定に該当せず!
過日、2月20日の閣議で、政府は「入れ墨をしていることだけを理由として公衆浴場の利用を制限されないとする答弁書を決定した」というニュースが飛び込んできた。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170222-OYT1T50012.html
http://buzzap.jp/news/20170222-tattoo-public-bath/
この問題については、僕が手伝っている雑誌『温泉批評』の2014年秋冬号で詳しく取り上げている(僕はこの記事がこの問題を表面化させた火付け役としての役割を担ったと思っている。 ただ、記事を書いたのは僕ではないです。坊主頭と作務衣の風貌のおかげで、僕が書いたと思っている人が多いみたいですが)。 また、このメルマガでも、2015年7月8日配信のvol.7の中で、僕の考えを含めて取り上げている。 ぜひバックナンバーを読んで欲しい。
そもそもの発端は、脳科学者の茂木健一郎氏がツイッターで「海外ではタトゥーの人が普通にいるのに、日本の入浴お断りはおかしいし差別だ」という内容をつぶやいたこと。 2014年6月にはこうつぶやいた。
「ワールドカップサッカーを見ていると、タトゥーをしている選手なんて、普通にいる。 タトゥー、刺青は入浴お断り、という不当な差別をしている限り、日本の温泉の世界遺産登録は無理だね」。
『温泉批評』の記事ではこうした茂木氏らのツイートなども盛り込み、さらに業界団体や温泉施設などへの取材も行って記事を構成している。
雑誌発売後の業界内の一つの大きな動きとして挙げられるものに、かの星野リゾートが、タトゥーを隠すために貼るシールを導入、隠せる場合は入浴を認めるという試みを始めたことだ。
また、2015年6月29日には、この問題を受けて観光庁が全国約3700の施設で初めての実態調査に乗り出したという発表があった。 観光庁は結果をもとに、宿泊業界などと相談しながら対応策を検討するといって、久保長官(当時)は「具体的な方針を持ち合わせていないが、まずは実態を把握する」と話していた。
そもそも、旅館業法などでは刺青やタトゥーを入れた人の入浴を断るという具体的な定めもない。 だが、皆さんもご存知の通り、多くの施設で「お断り」の掲示がされている(本当に断っているかは別だが)のが実態だと思う。
しかし、茂木氏のいう通り、スポーツ選手にもタトゥーを入れている人はたくさんいる。 将来の東京オリンピックなどで日本を訪れたこれらの外国人選手や観光客らが、日本観光の大きな魅力の一つである温泉から閉め出しを食らうということにつながりかねないのは、やはり問題だ。
茂木氏や『温泉批評』の記事でも指摘している通り、「ベッカムやネイマールが温泉にきたら、入浴を断るのか?」ということを考えたとき、断った場合はそれぞれの国の英雄を差別するわけで、国際的な問題になるだろうということは想像に難くない。
今回はこうした問題について、政府が公式な見解として「入れ墨だけで入浴を断ることは、法の定める制限理由に該当しない」と発表したわけだ。
これはこれでよかったと個人的には思うのだが、それでも、施設ごとの判断に任せる部分があって、すぐに全国の施設で入浴がOKになるわけではない。
少し話を戻して、先の実態調査に関しては、2015年10月21日最終更新の結果発表もされている。 それが以下の通りである。
<アンケート結果の概要>
○ 全国のホテル、旅館約3,800施設に調査表を送付し、約600施設(約15%)から回答。
(1) 入れ墨がある方に対する入浴について
- お断りをしている施設が約56%
- お断りしていない施設が約31%
- シール等で隠す等の条件付きで許可している施設が約13%
(2) 入れ墨がある方の入浴をお断りする経緯について
- 風紀、衛生面により自主的に判断しているが約59%
- 業界、地元事業者での申し合わせが約13%
- 警察、自治体等の要請、指導によるものが約9%
さらに、昨年3月16日に、「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行客の入浴に関する対応について」という報道発表を行っている。
HPでは具体的な取り組みとして、以下のように書かれている。
【観光庁より入浴施設への働きかけ】
具体的な対応方法を例示として整理し、業界団体等を通じ各地の入浴施設に周知します。 これらを参考としていただき、今後それぞれの施設における対応改善を促します。
<対応事例>
(詳細資料「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」もリンクされている)
【観光庁より外国人旅行社への働きかけ】
JNTOや各旅行会社のHP、パンフレット等様々なチャンネルを通じて、以下の情報提供をしていきます。
- 我が国においては、入れ墨に対する独特なイメージがあること
- 入れ墨をしている場合は、一定の対応を求められる場合があること
その上で、今年3月16日には田村観光庁長官が会見で次のように語っている。
(観光庁HPより転載)
- 予て、外国人の旅行者の中で、個人の趣味や宗教上の習慣で入れ墨をされている方が多数おり、これに対する対応が課題になってきたが、アンケート結果については既にご報告し、追加調査を実施してきた。 その結果を踏まえ、観光庁としての対応をとりまとめたのでご報告する。
- 本件については、入れ墨のある外国人旅行者が温泉を利用した際に、入浴の可否が過去に問題となったことがあること、今後更なる外国人旅行者の増加が見込まれる中、満足度を低下させることなく、トラブルを少なくして、日本の重要な観光資源である温泉を満喫していただく必要があること、一方で我が国においては風紀上、衛生上、治安上の理由から入れ墨のある方に対する独特のイメージ・制約があること等、様々な考慮すべき点があり、すべての方を満足させる一律の基準を設けることは困難と考えている。
- 今回の追加調査では、個別の施設における対応方法等についてヒアリングを行った。
- その結果、主な対応方法は大きく分けて3つに分かれている。 1つ目はシール等で入れ墨部分を覆うなど一定の対応を求めること、2つ目は家族連れの入浴が少ない時間帯の入浴を促すこと、3つ目は貸切風呂や露天風呂付の部屋など、個人専用の風呂へ案内すること、こういった対応が主にされている。
- 関係省庁としては、警察庁と厚生労働省があるが、警察庁に確認したところ、全国の警察では外国人旅行者に限らず、入浴施設から入れ墨のある方への対応に関する相談があれば、その事案に応じて個別に対応しているということであった。
- また、厚生労働省に確認したところ、公衆浴場法では、衛生的に問題が生じると考えられない場合、入浴拒否等の措置を求めていないとのことであった。
- これらを踏まえ、観光庁としては、入れ墨をしている外国人旅行者の入浴に関する留意点とその対応事例をお示しし、施設側と利用者側の相互の摩擦を避けるよう促すことにより、できるだけ多くの外国人旅行者に日本の温泉を満喫していただきたいと考えている。
- 具体的に留意すべきポイントとしては、宗教、文化、ファッション等の様々な利用で入れ墨をしている場合があること、利用者相互間の理解を深める必要があること、入れ墨があることで衛生上の支障が生じるものではないこと等をお示しすることとし、対応事例については、シール等で入れ墨部分を覆う、入浴する時間帯を工夫する、貸切風呂に案内する等の事例をお示しし、業界団体等を通じて個別の施設に対応改善を促すとともに、警察庁や厚生労働省を通じ、観光庁の取組を全国の警察や自治体の担当部局(保健所等)にお知らせすることとしている。
- 一方で、これらの対応改善は受入側だけではなく、利用者側の理解協力も重要であるので、観光庁としては引き続き、我が国においては入れ墨に対する独特なイメージがあること、入れ墨をしている場合は一定の対応を求められる場合があること等を、JNTOや各旅行会社のホームページ、パンフレット等様々なチャンネルを通じて、適切な情報提供を行っていきたいと考えている。
僕がこれらの発表で気になるのは、対象が「外国人旅行客」に限られているという事である。 これでは、例によってまたもや海外に媚を売っている、と見られても仕方ないと思ってしまう。 日本にだってファッションで入れ墨を入れている人はいくらでもいるのだから、外国人に限らず、一般的な考え方として、対応を考えて行く必要があると思うわけだ。
一筋縄ではいかない問題なのだろうが、それこそ偏った考え方をせずに、正しい方向性を見出して欲しいものだ。 ちなみに僕自身の意見は、もちろん外国人も日本人も入浴OK、である。
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