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運動も食事制限も不要? 未来のダイエットは微生物が鍵を握っている

太らない体質の鍵を握るのは「マイクロバイオーム」という腸内の微生物叢であり、この微生物叢が肥満だけでなく人間の健康にも大きな影響を及ぼしているということは「なぜ人間は太るか、解明間近? カギを握るマイクロバイオームの謎」でご紹介した通り。今回のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』では、さらに詳しく「肥満とマイクロバイオームの関係」を調べた実験結果について、現役医師・徳田安春先生がわかりやすく解説します。

肥満と糖尿病のカギを握るマイクロバイオーム

前回は人間の腸内のマイクロバイオームが様々な影響を人間に与えていることをお話ししました。今回は肥満とマイクロバイオームについての関係を様々な角度から調べた実験研究についてご紹介したいと思います。

まずは動物実験の結果です。まだマイクロバイオームが形成されていない段階のマウス(やせたマウス)に対して、太ったマウスのマイクロバイオームを移植すると、痩せたマウスは肥満になりました。一方で、痩せたマウスのマイクロバイオームを移植すると痩せたマウスは痩せたままでした。

畜産業で育てられた動物の腸内マイクロバイオームを、痩せたマウスの腸内に移植すると、2週間以内に体重が60%以上も増加しました。それに、そのマウスは糖尿病になりやすい病態であるインスリン抵抗性を発症しました。

肥満に対して行われる胃のバイパス手術を受けたマウスでは、腸内マイクロバイオームに特徴的な変化が現れました。しかも、その腸内マイクロバイオームを太ったマウスの腸内に移植すると、そのマウスは徐々に痩せていきました。

太った人間の腸内のマイクロバイオームを痩せたマウスに食べさせると、そのマウスは太っていきました。一方で、痩せた人間の腸内のマイクロバイオームを食べさせると、そのマウスは痩せたままでした。

太ったマウスと痩せたマウスを同じカゴの中で生活させ、お互いのマイクロバイオームを食べさせた実験がありました。そうすると太ったマウスが徐々に痩せていきました。太ったマウスのマイクロバイオームは痩せたマウスのマイクロバイオームに似た特徴を持つようになりました。このような実験の結果から、太ったマウスのマイクロバイオームより痩せたマウスのマイクロバイオームの方が生存競争では優勢であると考えられます。

ファーミキューツ門が増えて肥満に

以上の実験結果から、マイクロバイオームが肥満の要因のひとつであるといえます。興味深いのは、肥満や痩せそのものがマイクロバイオームに変化を与えることもあることです。ダイエットをやって減量に成功した人間のマイクロバイオームを調べると、その中の微生物の種類が大きく変化していたのです。

肥満になった人のマイクロバイオームではファーミキューツ門が増え、痩せた人のマイクロバイオームではバクテロイデス門が増えていました。これらの結果から、マイクロバイオームは肥満の一因でもあり、肥満の腸内表現形でもあるといえます。

糖尿病とマイクロバイオーム

さて、肥満は糖尿病の要因となります。ここで、糖尿病の発症もマイクロバイオームが関係していることがわかりました。肥満と糖尿病は強い関連がありますので当然といえます。マイクロバイオームによる腸内の軽い炎症が糖尿病のリスクを上げることがわかったのです。

注目すべきは、糖尿病の人の腸内マイクロバイオームでは、酢酸の産生が増加し酪酸の産生は低下していたことです。最近の研究によると、血中の酢酸の増加は、インスリン抵抗性を生み出し、食欲を刺激するグレリンというホルモンを胃から分泌させる作用があることがわかりました。

また、腸内の酪酸の産生が低下すると、腸内に軽い炎症が起こり、インスリン抵抗性が起こることもわかりました。腸内の軽い炎症によって腸官上皮の細胞間の接着の強さが弱くなり細菌が作った内毒素が吸収されやすくなります。こうして吸収された内毒素はインスリン抵抗性を生み出します。

単一の種類の細菌が糖尿病原因である事は考えにくいですが、最近注目されているアッカーマンシア・ムシニフィラという細菌が腸内に増えると、脂肪組織での炎症が抑えられ、インスリン抵抗性が改善するということもわかりました。

人間に対するマイクロバイオーム移植

人間に対する臨床研究も行われています。強力な下剤で腸内細菌を洗浄除去したメタボリック症候群患者群に対して、痩せた人間のマイクロバイオームを移植すると、個人差はありますが、メタボリック症候群が良くなることがわかりました。マイクロバイオームの移植は十二指腸まで挿入した管を通して行われました。新たに形成されたマイクロバイオームは酪酸を多く産生する特徴を持つものになっていました。

しかしながら、この臨床効果は時間が経つにつれて徐々に弱くなっていきました。メタボリック症候群がこれで治るというところにはまだまだです。マイクロバイオームの研究が進むにつれてこれが肥満や糖尿病の重要な危険因子の1つであることが明らかになってきました。しかもそれが介入可能であると言うことが大きな特徴です。今後この分野の研究の進展に大いに期待したいと思います。

文献
The Microbiome and Risk for Obesity and Diabetes Anthony L. et al. JAMA. Published online December 22, 2016.

image by: Shutterstock.com

 

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