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シベリア鉄道の日本延伸は本当?「あれはプーチンの落語です」

前回、日本からは見えないトランプ政権の現状と展望についてお話しいただいた、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米国在住の作家・ジャーナリストの冷泉彰彦さん。インタビュー第二弾の今回は、冷泉さんのもう一つの顔である「鉄道評論家」として、JR北海道の知られざる現状や都心の駅のインフラ事情など、日本の鉄道に造詣の深い冷泉さんならではの裏話をたくさんお話しいただきました。メルマガでもたびたび書かれる、面白くて為になる鉄道豆知識は、鉄道マニアならずとも必見ですよ。

鉄道会社の取材を続ける原動力とは

――冷泉さんといえば鉄道への造詣も深く、メルマガにも数多くの記事を書いていらっしゃいますよね。世の中には「撮り鉄」や「乗り鉄」など、様々な鉄道ファンの種類が存在しますが、冷泉さんはいったい「何鉄」なんでしょうか?

冷泉:私は「安鉄」、つまり「安全対策オタク」なんです。どういうことかというと、日本の鉄道がいかに安全かっていうのを、突き詰めていくオタクなんです。

特に日本の新幹線って、東海道新幹線が開業してからこれまで、事故で亡くなった人がゼロなんですよ。それがなぜ実現しているのかっていうと、「安全確保第一」という名のもとに、各鉄道会社が最新の技術を導入したり、日々人知れず努力を続けているからなんですよね。そういうのを取材して、広く知らしめるっていうのが、いわゆる「安鉄」なんですね。

あともうひとつは、私の相棒で東洋経済オンラインの編集者がいるんですけど、彼と私が言っているのが「社会鉄」。これは例えば、高齢化などの問題を抱える地域において、鉄道はどう在るべきかとか、日本の人口減が深刻になった際に、どうやって今の鉄道路線網を維持していくかとか、そういうことを考察したりしています。

そういうわけなので私自身、鉄道写真も鉄道模型もまったく興味なし。電車に乗るのは嫌いじゃないけど、それはあくまでも手段。スピードが早いに越したことはないけど、それよりも安全が何よりも第一。……そういった感じでやってます。

――そもそも冷泉さんは、子どものころから鉄道がお好きだったんですか?

冷泉:小学生の頃はそれなりに好きだったんですけど、その後はそれほど熱心でもなかったんです。でも最近になって、急に鉄道熱が再燃したっていう感じですね。というわけで、アメリカから時々日本に来ては、JR東日本やJR東海の広報室に出入りするっていうことを、最近は続けています。

でも、そこの広報の方たちは、もちろん鉄分が濃くて仕事熱心な方が多いんですが、彼らの立場を理解してくれる人ってほとんどいないんですよ。それがすごく可哀そうだっていうのが、私の「安鉄活動の原動力なのかもしれません。

例えば、山手線の原宿駅を建て替える計画が発表されて、ネット上で炎上しちゃったことがあったじゃないですか。「あんな素敵な駅舎を壊すなんて」っていうことで。でも、実際にあの駅で降りたことがあれば分かるんですけど、改札まで繋がってる跨線橋なんかはすごく古くて狭いしで、24時間いつでも大混雑じゃないですか。あそこにもし大きな地震が来たらどうなっちゃうんだっていう話ですよ。

JR東日本って超優良企業と思われてますけど、東北地方にある赤字ローカル線も抱えているから、決して財政的にラクじゃないんです。それでも「安全が第一」っていうことで、駅の建て替えを決めたら、それを叩かれちゃうわけで。そこは本当に可哀そうなところですよね。

他に大地震への備えといえば、お茶の水駅の辺りって神田川に土を盛って電車を走らせているじゃないですか。あれって実は明治時代に作られた古い土台で、震度7の地震が来たら崩れちゃうって言われてたんですよ。そこでJR東日本はどうしたかっていうと、土台にドリルで20mぐらいの穴を2つ、地中で交差するように開けて、そこにコンクリートミルクを注入して鉄骨を入れたんです。……普通だったら支柱を先に作っておいて、現場でカンカンカンと埋め込んでいくじゃないですか、基礎工事って。でも、あまり大きな騒音を立てる訳にいかないし、そもそも電車が走ってる横で工事をするスペースも無いので、そういう特殊な方法で補強したんですって。でも、そんなこと誰も知らないですよね。

私も一度、「こういうことを伝えるのも、鉄道会社の社会的な義務なのでは?」って尋ねたんです。すると先方は、東日本震災の際に大きなご迷惑をかけたので自慢話はしない方針だって言うんです。「電車に乗られて亡くなられた方はいらっしゃらないんですが、列車から避難された際に津波に遭われて、行方不明になった方が数名いらっしゃる」ってことで。もう聞くも涙、語るも涙の世界なんですが、とは言っても、そういうことは伝えないといけないということで、代わりに私が調べて書いているんです。

――そういう活動をされている方って、なかなかいらっしゃらないのでは?

冷泉:一般的に鉄道記者って、もちろん鉄道のことが大好きな人ばかりなんですが、鉄道会社が不祥事でも何でも起こしちゃうとすぐに叩いちゃうんですよね。読者の意見がそういうスタンスになりやすいってことで、迎合して叩かざるを得ないっていうことなんですけど。でも私は絶対に叩かない、少なくとも現場で努力されてる方はね。

JR北海道なんかも、数年前にディーゼル特急の炎上事故を起こしたりして、かなり批判を受けましたけど、実情を知っていれば叩けないですよ。だって、北海道の気候の過酷さは、想像を絶しますからね。冬は零下20度まで下がる地点もあって、地表面はもちろん中の土も30㎝から40㎝は凍ってしまう。そのいっぽうで夏になると、温度が30度ぐらいまで上がるわけですから、そりゃレールはグネグネになるわけですよ。

それでも何とかやって来たのに、それをレールが5㎜とか7㎜ズレてるってことで非難されて、社長が二人も自殺しちゃうってことになったら、現場の人間としてはもうやってられないですよね。「そんな本州の基準で叩かれても……」って話なんですよ。

――JR北海道といえば、昨年末に留萌本線の留萌~増毛間が実際に廃止されたほか、多くの路線の廃止が検討されていますが、日本の鉄道も今後は「滅びの時代」となっていくのでしょうか。

冷泉:留萌~増毛間に関しては、仕方ないですよね。これといった産業もないし、客も1日20人とかの世界になっていたので。

ただ、宗谷本線の稚内側の一部を廃止するっていうのは、どうかと思います。安全保障上の問題もありますし、国の軸となる路線ですから。それに大災害が起きた際の輸送ルートとして、道路よりも鉄道のほうが簡単なんですよね。そういうことも含めて明治以来、日本の最北端まで鉄道を通してきたわけなんですから、それを止めてしまうのは、相当にマズいことだと思います。

どんな過疎路線も廃止やむなしというわけじゃなくて、それは路線によるんですよね。防災や安全保障、それに将来計画なども勘案して、絶対に残さないといけない路線というものはある。ただ、それ以外の枝線に関しては、利用者がとことんまで減っちゃったら、流石にどうしようもないですよ。なぜなら、鉄道って固定費ですから。路線を一本維持するだけでも、ものすごくお金がかかるんですよ。

本州でも中国地方の三江線が廃止になることが決まりましたけど、あれも利用者がものすごく減ってましたからね。JR西日本としても苦渋の決断だったと思いますが、仕方がないのかなって思います。ただ、守んないといけない路線っていうのは絶対にあって、北海道で言えば宗谷本線以外にも石北線・花咲線・釧網線これらは絶対に廃止させちゃいけないというのが、私の持論ですね。

そもそも北海道の場合、降雪の影響で鉄道以外の交通手段が全く機能しなくなるってことが、頻繁にあるわけですよ。先日だって新千歳空港が大雪に見舞われて、欠航が相次いだことがありましたけど、みんな新幹線に乗って東京に帰ったわけでしょ。まぁ北海道新幹線も、そのために作ったようなものですからね。そういう北海道の特殊性を考えると、鉄道が存在する意味って十分にあると思います。

――ところで宗谷本線といえば、シベリア鉄道がサハリンまで来て最終的にトンネルで日本まで繋がる……なんていう報道も一部でありましたが、それって本当に実現可能なんでしょうか?

冷泉:それはプーチンさんの落語ですね。あの人もトランプさんと同じで、お笑い芸人の気質がありますから。

万が一やるとしても、それは日本の出資でってことになりますよ。だってサハリンの天然ガス開発にしたって、ロシアは自分たちだけでは資金的に不可能だから、この前の首脳会談で安倍さんに頼んでたわけじゃないですか。だから、サハリンからトンネルを掘るとしても、それは全額日本持ちになるでしょう。でも実際のところそんなトンネルが掘れるわけがないですよね。そもそも、稚内までの鉄道が維持できるかどうかって話をしてるんですから……。

……と、話は尽きない冷泉さんですが、もっと面白い鉄道記事が読みたい、最新の世界情勢が知りたいという方、続きは冷泉さんが発行されているメルマガで。鉄道をはじめ、欧米や日本を中心とした世界情勢からビジネス、カルチャーまで話題豊富な冷泉彰彦さんのメルマガは毎週火曜日配信で初月無料です。この機会にぜひご登録ください。

Photo by: Sakito Taki(MAG2 NEWS)

 

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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