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紳士服のAOKI、利益50%減。「脱スーツ」の先にあった落とし穴

紳士服業界2位のAOKIが先日、利益の大幅減少を発表しました。本業のスーツを中心としたファッション事業は好調の同社でしたが、意外な別事業が大きく足を引っ張っているようです。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが詳しく分析しています。

紳士服のAOKI、利益5割減

佐藤昌司です。紳士服2位のAOKIのスーツ、フォーマルは売れています。しかし、利益は大幅に減少しました。AOKIでは何が起きているのでしょうか。

AOKIホールディングスは2月9日、2016年4~12月期の売上高は前年比1.8%増の1,334億円、本業のもうけを示す営業利益は48.7%減の42億円、純利益は51.9%減の22億円と発表しました。増収減益です。

スーツ、フォーマル関連市場は他の市場同様、多様化する消費者ニーズの影響下にあります。価格志向と機能やブランドといった付加価値志向の二極化、個性化志向の高まり、ジャケットスタイル・ビジネスカジュアル需要の高まり、女性の社会進出によるレディーススーツ需要の高まりといった消費者ニーズの多様化の波が押し寄せています。

AOKIは、「洗えるスーツ」や「ノーアイロンシャツ」といった機能性衣料の品揃えの強化、「パーソナルオーダー」コーナーの拡大や新パーソナルオーダーシステムの運用といった施策によるパーソナルオーダースーツの提案の強化レディースフォーマルの充実化といったことを行い、多様化する消費者ニーズに対応していきました。

スーツ、フォーマルといった重衣料は堅調に推移しています。近年は足踏み状況が続いているものの、直近10年間の売上高は上昇傾向にあります。2007年3月期は409億円でしたが、出店が拡大するにつれて上昇し、2016年3月期には487億円にまで成長しています。

スーツ、フォーマルを中心に売上高は堅調に推移しています。一方、AOKIの約100店舗を大規模改装し、それに伴う閉店セールを実施したことで利益は圧迫しました。そのため、2016年4~12月期の純利益は5割以上減少したのです。

AOKIは前期でも小規模改装を行いましたが、改装を行った店舗は好調に推移したため、今期において過去最大となる改装投資に踏み切ったという背景があります。そのため2016年4~12月期は大幅な減益となりましたが、AOKIの今後の成長のためには減益は致し方ないといえるでしょう。

ただ、「必要な投資だから」だけでは片付けられない事情もあります。他の事業で不振に陥っているものがあるからです。

AOKIはスーツ中心のファッション事業の他に、「ブライダル」「カラオケ」「複合カフェ」の3事業を手がけています。子会社のアニヴェルセルが高級ウェディング施設を運営し、子会社のヴァリックがカラオケ「コート・ダジュール」や複合カフェ「快活CLUB」などを展開しています。

カラオケコート・ダジュール」は、フランス南部にある世界的に有名なリーゾート地として知られるコート・ダジュールをテーマとし、駅前立地を中心に出店することで認知度を高めていきました。パーティールームや和室、ライブルームといった個性的な部屋があることが特徴的です。2016年12月末時点で190店舗を展開しています。

複合カフェ快活CLUB」は、2016年12月末時点で327店舗あり、業界1位の店舗数を誇ります。バリ島の高級ホテルをイメージし、身近で手軽にリラックスできるスペースを提供しています。女性専用店舗の出店や、店内の一部をセキュリティゲートで区分けした女性専用エリアを導入した店舗を拡大するなど、女性の利用促進も図っています。

カラオケ事業と複合カフェ事業は好調です。2016年3月期の売上高はカラオケ事業が182億円、複合カフェ事業が270億円です。営業利益はカラオケ事業が14億円、複合カフェ事業が22億円です。売上高と営業利益は上昇基調にあります。成長している事業といえるでしょう。

一方、ブライダル事業が急ブレーキを踏んでいます。2015年3月期までは成長を見せていましたが、2016年3月期は一転、減収減益に陥りました。売上高は前年比5.2%減の292億円、営業利益は14.6%減の35億円です。2016年4~12月期も減収減益で、売上高は11.1%減の208億円、営業利益は32.4%減の23億円です。異変が起きています。

背景には婚姻件数の減少や地味婚の拡大といった市場環境の影響があります。厚生労働省の人口動態統計によると、2015年の婚姻件数は63.6万件で、10年間で7.8万件減少しました。また、結婚しても披露宴を実施しなかったり、結婚式や披露宴に費用をかけない傾向を強めています。こうしたことが大きく影響しています。

アニヴェルセルのウェディング店舗は全国に14あります。どれも高級仕様です。例えば、表参道会場はヨーロッパの大聖堂を思わせる独立型チャペルがあります。豊洲会場では大聖堂と3つの邸宅があります。どの施設も豪華です。

アニヴェルセルでの平均組単価は448万円です。全国平均を120万円上回るといいます。地味婚が広がる現在、高級仕様が足かせとなっています。2016年3月期の施行組数は6,410組で、前年から345組減少しています。

ウェディング事業は今後も苦戦が予想されます。テコ入れを行うにしても、市場縮小の流れには勝てないでしょう。成長しているカラオケ事業と複合カフェ事業で穴埋めする形になりそうです。

そうなると、AOKIホールディングスの今後の成長はやはりAOKIを中心としたファッション事業にありそうです。ファッション事業は売上高の過半を占める中核事業です。積極的な改装投資で店舗の魅力を高めることで、さらなる成長を実現する必要があります。必要な投資といえるでしょう。

AOKIの前には業界1位の洋服の青山」が走っています。洋服の青山を運営する青山商事の2016年3月期の売上高は2,402億円です。AOKIホールディングスの1,885億円よりも500億円以上も高い状態です。ただ、差はありますが超えられない差ではないでしょう。AOKIはスーツやフォーマルでまだまだやるべきことがあるといえそうです。

 

 

 「企業経営戦略史 飛躍の軌跡(クリエイションコンサルティング)

 

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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