顧客より「社員の幸せ」を第一に考える会社が繁栄するのはなぜか

 

出入り自由の「公園」工場

その本社がたたずむ3万坪の敷地内には赤松などの樹々が建ち並び、四季折々の花が咲き乱れ、公園さながらである。しかも、塀も門も守衛所もないので、どこからどこまでが敷地か分からず、まさに公園のように誰でも自由に出入りできる

幼稚園の先生が子どもたちを引率して、敷地内の小高い丘でお弁当を食べている。花が咲き乱れた処には、ベンチがあり、おじいさんとおばあさんが座っている。「日向ぼっこに来た」とのことで、「ここに来ると心が和む」と語る。フルートを吹いている人もいる。

会社の敷地内を通って、子どもたちが通学する。その途中に、敷地内を縦断する車道があり、最近は車の交通量が多くなって、子どもたちには少し危険となった。会社は役所に歩道橋を作ってくれるよう要望したが、なかなか実現しないので、「ぜひ歩道橋を寄付させてください」と、自社で設けた

この広い「公園」で、朝早くから竹箒で落ち葉を集めたり、また昼休みや休日には草花の剪定をしているひとたちがいる。会社の社員たちが自発的にやっているのである。

地域住民から見ても、「いい会社」である。

「いい会社」でありつづけるために

こうした「いい会社」であり続けるためには、企業として成長し、利益を上げなければならない。そのために、塚越会長は3つの経営方針を立てている。

第一に「無理な成長は追わない」。一時、寒天ダイエットがブームとなった。当然、トップメーカーである伊那食品工業には全国各地から注文が殺到した。しかし、会長は「すべて断ってください。これは一過性の流行です。必ず廃(すた)れ、そのあとには必ずいやなことが起きる。その時に社員を犠牲にしたくない」と明言した。ブームに乗って、急激な設備投資や人員増強をしたら、ブーム後に利益が落ち込んだり、人員削減を迫られたであろう。同社の成長とは年輪が刻まれるようにゆっくりしたものである。

第二に「敵を作らない」。競合他社と熾烈な価格競争をしていれば、負けて、売上減、利益減に追い込まれることもある。今まで世の中になかったオンリーワン商品を創り出せば敵はいない。同社は「かんてんぱぱ」という商品を開発している。粉末にした寒天をお湯に溶かし、冷蔵庫で冷やせばゼリーとなる。フルーツ、抹茶、ババロアなど、数百種類ある。こうした商品を一つ一つ開発して、世の中に提供しているのである。

「かんてんぱぱ」を見た大手スーパーが、「これはすごい商品なので、ぜひうちで売らせてほしい」と日参してきたことがあったが、「無理な成長を追わない」という経営方針から、これも断った。

第三に「成長の種まきを怠らない」。世の中にない新商品を生み出していくためには、研究開発を続けなければならない。新商品開発は「センミツ」と言われるように、千の種を蒔いて、三つ芽が出ればよい、という世界である。目先の利益を追わず、常に先を見て、成長の種まきを怠らないことが、オンリーワン商品を生む秘訣である。

成長するのも利益を上げるのも会社を継続させるためです。なぜ継続させるのかといえば、社員を幸せにするためです」と塚越会長は言う。

print
いま読まれてます

  • 顧客より「社員の幸せ」を第一に考える会社が繁栄するのはなぜか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け