「人の役にたつ」幸福
工場では、健常者の社員たちも実に明るい顔つきをしている。なぜか、と尋ねた坂本氏に、大山社長はこう答えた。
自分も社会に貢献しているんだという、思いがあるからだと思います。一介の中小企業ではありますが、そこに勤めて、自分も弱者の役に立っている、社会の役に立っている、という自負が、社員のモチベーションを高めているのではないでしょうか。
(同上)
ある市役所の市長はじめ幹部役員が同社を視察した後、帰りのバスに乗り込んだ途端、市長がこう言った。
役所で使うチョークは全部、この会社から購入できないか。それくらいしか、私たちは、この会社に貢献することができないから。
(同上)
「人の役に立つこと」が幸福なら、この会社はこうして顧客にも幸福のお裾分けをしていることになる。
「社員第一」こそ企業の最大の使命と責任
坂本光司氏の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』には、ほかにもこのような心を打つ「いい会社」が、いくつも登場する。それらに共通する点がいくつかある。
その一つは、これらの会社は、社員とその家族を幸せにすることを、最も大切な使命であると考えている、という事である。経営の世界では、よく「顧客第一」というが、それは間違っていると、坂本氏は主張する。
…自分が所属する会社に不平と不満・不信を抱いている社員が、どうしてお客様に身体から湧き出るような感動的な接客サービスができるでしょう? お客様が感動するような製品を創れるでしょう?
ですからいちばん大切なのは、社員の幸せなのです。社員と、それを支える家族の幸せを追求し実現することが、企業の最大の使命と責任なのです。
(同上)
社員を幸福にするためには、会社は存続し、利益を上げ続けなければならない。こう覚悟した経営者は、不景気になっても、安易に人を切ったりできないので、真剣勝負となる。社員の方も、会社の存続と発展のために、全力を尽くす。そこから、並の企業では思いつかないようなアイデアや力が出てくる。
こういう「いい会社」があちこちで、従業員とその家族、顧客や地域を幸せにして、日本を支えているのである。
文責:伊勢雅臣
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