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森友学園、愛と憎しみの証人喚問を新聞各紙はどのように伝えたか?

森友学園問題を巡り、早期の幕引きを目論んだとも言われる自民サイドが「承諾」した同学園の籠池元理事長の証人喚問。しかし蓋を開けてみれば籠池氏の口からは数々の爆弾発言が飛び出し、幕引きどころの騒ぎではなくなり、野党からは安倍昭恵総理夫人の喚問を要求する声も上がる事態となっています。この喚問を新聞各紙はどのように報じたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんが詳細に分析しています。

はじめに~証人喚問の破壊力

こんにちは。

昨日の証人喚問は衝撃的でした。

内容については今朝の新聞を比較するなかで様々言及することになるはずですので、ここでは特に申し述べませんが、とにかく破壊力十分。自民党などは、あらゆる「屁理屈」を動員して防戦に努めるしかなくなっているようです。往生際が悪いですね。

破壊力の源はどこにあるのか。

観ずるところ、籠池氏のある種の真面目さ」、「少なくとも、この人はウソを言っていない」という感覚を、視聴者にもたらしたことではないかと思いました。さらなるその淵源は何かといえば、これはもう、明らかに「以外のものではあり得ません

籠池氏の発言は、要するに、私たちはこんなに仲が良かった、愛し合っていたのだ、だから色々無理もしてくれたのだ、掛け合ってくれたのだ、本当に有り難かった、名誉に思っていたのだ…なのに「しつこい」だなんて…それはないでしょう…という、非常に分かりやすいメロドラマになっている。逃げる安倍夫妻、追いすがる籠池氏。

安倍氏サイドがファックスで「ラブレター」まで残してしまっていたのは拙かったですね。不倫や道ならぬ恋ならば、そうした「証拠」は丁寧に除いておくべきです。つまり、これは不倫ではなかった。安倍夫妻は、幼稚園児に教育勅語の素読までさせる籠池氏に、心から感服していたからこそ、堂々と各省庁に掛け合い、小学校開設で困っている籠池氏を助けるべく、動いた。自分の持てる政治力をフルに発揮しようとしたわけでしょう。

自分が正しいと思って行った過去の選択に対して、いつでも殉ずる覚悟がないのでは、いったいどこが政治家か。

「森友学園」籠池理事長の国会証言に、各紙は何を見たか

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「昭恵夫人付職員が関与」
《読売》…「籠池氏『首相夫人に相談』」
《毎日》…「首相夫人付き職員が照会」
《東京》…「昭恵氏側、財務省に照会」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「昭恵氏 渦中に」
《読売》…「昭恵氏に『依頼』波紋」
《毎日》…「昭恵氏と『蜜月』強調」
《東京》…「昭恵氏側関与で食い違い」

ハドル

選択の余地はありません。籠池氏に対する証人尋問関係で、膨大な記事の量になっていますが、できるだけ比較のための要点を摘まんでお届けしたいと思います。今日のテーマは…、「森友学園籠池理事長の国会証言に、各紙は何を見たか、です。

基本的な報道内容

衆参両院の予算委員会は、大阪市の学校法人「森友学園」の理事長、籠池泰典氏への証人尋問を行った。

籠池氏は2015年5月、財務省近畿財務局との間で結んであった10年間の定期借地契約を50年間に延長してくれるよう希望し、その旨を昭恵氏に電話、その後、11月15日に首相夫人付きの谷査恵子氏から「国側の事情もあり現状ではご希望に添うことは出来ない本件は昭恵夫人にも既に報告している」との回答をファックスでもらったと証言。この証言を受け、政府はファックスの写しを公開した。

さらに籠池氏は、同年9月5日に講演のため学園の塚本幼稚園を訪れた昭恵氏から、園長室で「安部晋三からです」として封筒入りの現金100万円を手渡されたと証言。その際、昭恵氏は事前に秘書らを外に出るように言い、人払いをしたので自分と一対一だったという。籠池氏は昭恵氏に対して、講演料10万円を「感謝」と記した封筒に入れ、土産の菓子の袋に入れて昭恵氏に渡したという。

昭恵氏は自らのフェイスブックで反論し、園長室で2人きりになっていないとし、100万円を渡したことも、10万円の講演料をもらったことも否定した。

きょう参院予算委員会は国有地売却当時に理財局長だった迫田国税庁長官と、やはり当時近畿財務局長だった武内財務省国際局長を参考人招致する。安倍首相も出席する。

「金子」に「お人払い」

【朝日】は1面トップに2面「時時刻刻」、4面、16面社説、37面~39面。見出しから。

1面

2面

4面

16面

37面~39面

uttiiの眼

見出しを見るだけでだいたいのことは分かるのではないかと思われるくらい、膨大で、しかし意味が明らかだ。論点は「基本的な報道内容」と上記見出しに尽きているので、違う観点を拾い出すことにする。

まず、「天声人語」が珍しく面白い。かつて、岸信介、福田赳夫、中曽根康弘、松野頼三の各氏が次期主力戦闘機売り込みに関わる不正資金に関わって追及されたダグラス・グラマン事件(現金授受を認めたのは松野氏1人。起訴されたのは日商岩井側3名のみ)で、国会に証人喚問された日商岩井の海部八郎副社長が緊張のあまり手が震えて宣誓書にサインできなくなってしまったことがあった。今朝の「天声人語」は、今では語り草になっているこの出来事から書き起こし、対照的に、昨日の籠池氏が堂々とサインし、自信ありげに証言したことを「堂に入ったものであると評する。そして、100万円を昭恵夫人から受け取ったとするシーンでは「お人払い」「金子(きんす)」と、まるで時代劇のような話しぶりだったことなどを指摘。確かにそうだった。

この証言ぶりについては、社会面に載っている識者の感想コメントにも見えている。39面には、元東京地検検事で弁護士の落合洋司氏と、放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏のコメント。落合氏は「籠池氏が率直に語っていると感じた」、スペクター氏は「裏表のない正直者で憎めなかった」と似通った印象を持ったようだ。また、落合氏の眼には「与党側の質問は非常に稚拙」で、「籠池氏の言動の変遷や矛盾を丹念についてほころびを引き出さなければならないのに、『うそをついているだろう』と議論をふっかけても水掛け論になるだけ」と厳しい。そして、政府職員が籠池氏に送ったファクスについては、「昭恵氏が関与していないと言い切るのは厳しくなったのではないか」とする。

今朝の記事の中で一点解せないことがある。

1面記事の中で「野党は昭恵氏の証人喚問を求めるなど攻勢を強めている」と書いているのに、最後のブロックの見出しが「野党、昭恵氏の招致要求」となっている。野党ははっきりと、籠池氏と同等に昭恵氏を扱い、証言にウソがあれば偽証罪に問われることがある証人として喚問することを求めているのであって、参考人で呼べと言っているわけではない。確かに、証人として呼ぶことも、参考人として呼ぶことも、同じく「招致」だと言うこともできるかもしれないが、見出しが与える影響を考えれば、ここは「証人喚問」と書くべきだったのではないか。まさか、《朝日が何かを忖度して、より緩い表現に差し替えたのでなければ良いのだが。

「信憑性」を慎重に判断…

【読売】は1面トップに2面記事、3面「スキャナー」と社説、4面、12面に詳報、38面39面の社会面にも記事。見出しを拾う。

1面

2面

3面

4面

38面39面

uttiiの眼

一言で言えば、今朝の《読売》は「キメラのようだ。証人喚問の実際から得られる印象と帰結をストレートに言葉に表したものと、この重大なピンチの状態をなんとか切り抜けようという政府・与党そして読売にも共通する意図を背景にしたものとがない交ぜになっているかのようだ。

後者に分類されるものの代表格を1つ揚げてみよう。1面トップ記事。見出しを見れば、籠池氏が安倍昭恵氏に相談したこと、また寄付金100万円についても「主張」したことはわかるが、「ファクス公表 首相側 関与否定」と書かれた見出しを見ても、それだけでは何のことか分からない。記事の中を見て、夫人付きの政府職員が関与したらしきことが書かれているのだが、この重大な事実が見出しにきちんと見えていないのは異様だ。そして、その結論に、「昭恵氏の関与はなく問題ない」と菅官房長官が強調した旨書かれている。因みに、《朝日》は1面トップで「昭恵夫人付職員が関与」と大書している。

《読売》の記事がこんなふうに歪んでいく理由ははっきりしている。

実は、1面記事と2面の記事に、その内容が共通する文章が含まれている。それは、安倍氏が「私や妻が小学校の認可や土地の払い下げに関わっていたとしたら首相も国会議員も辞める」と断言しているということだ。昭恵氏の関与だけは絶対に認めてはならない、認めてしまえば総理は議員を辞職せざるを得なくなる。「森友学園」にまつわる問題で《読売》が一番心配しているのがこの点だということが明らか。まあ、当然だけれど。

もう1つ。3面には「スキャナー」と社説が隣り合っておかれているのだが、「スキャナー」の最後のブロックのすぐ左隣が社説という位置関係。で、この最後のブロックと社説の見出しが実はシンクロしている。一方が「与党『寄付』の信憑性追及」、もう一方は「信憑性を慎重に見極めたい」。いずれも、「信憑性という言葉を使い籠池氏の証言が真実ではないウソだという観点からの見出しになっている。「信憑性」とは、人の言動が信じられ、依拠できる度合いということで、高い低い、あるいは薄い厚いもあるのだが、この言葉をわざわざ使うケースでは、「信憑性が低い」という側で用いられることが多いように思われる。自民党はこの「信憑性を問うことを作戦とし、実際にそのような質問を繰り返した。《読売》もまたそのことを感じ取り、見出しのなかに同じ言葉を叩き込むことで、安倍政権を守ろうとする姿勢を明らかにしているように見える。

日本人の閉塞感の根源…ですか?

【毎日】は1面トップに2面と3面にわたる解説記事「クローズアップ」、5面には記事と社説、9面に詳報、30面と31面の社会面に関連記事。見出しを抜き出す。

1面

2面

3面

5面

30面31面

uttiiの眼

《毎日》は、証人喚問後に行われた外国人特派員協会での記者会見の模様を大きく取り上げているのが特徴。「日本語で言うと『訳が分からんことが起こっているなあ』ということです」という籠池氏の発言についてもそうだが、「忖度」などを英語に翻訳するのは骨の折れる仕事だっただろうと思われる。気の毒に。証人喚問の際の発言と異なり、記者会見では、「日本人の大多数が感じている閉塞感の根源がここにある」といった「独自の見解」を含め、自分の思うところを語れたからだろう、籠池氏の表情はすっかりリラックスしていたようだ。

持論の延長として、籠池氏は首相の関与について「安倍首相は、口利きはしていないでしょう。忖度をしたんでしょう」とし、「安倍昭恵さんという名前でものごとが動いたんだろう、と推察される」と述べたという。

31面には識者4人のコメントが付いている。岩井奉信大谷昭宏あさのあつこ小林良彰の各氏。作家のあさの氏は、「(籠池氏は)ごまかしたり誰かをかばったりしている感じではなく、腹をくくったような印象を受けた」としていて、先に引用した《朝日》に寄せられたコメント(落合洋司弁護士とデーブ・スペクター氏)のものと通じるものがあった。

昭恵氏側とは…

【東京】は1面トップに2面解説記事「核心」、3面には回答ファックスの全文、5面社説、6面詳報、28面29面は国会ドキュメント、30面31面にも関連記事。見出しから。

1面

2面

3面

5面

28面29面

30面31面

uttiiの眼

【ラインナップ】で示した各紙の1面トップ見出しを、もう一度並べてみてみよう。

《朝日》…「昭恵夫人付職員が関与」
《読売》…「籠池氏『首相夫人に相談』」
《毎日》…「首相夫人付き職員が照会」
《東京》…「昭恵氏側、財務省に照会」

《読売》を除く3紙は、主語が昭恵氏側もしくは首相夫人付きの官僚となっている。《読売だけは籠池氏。昭恵氏サイドは飽くまで受け身であり、何かの主体ではなく客体の側に置かれているのが《読売》の書き方。他紙は総て、小学校用地の問題で籠池氏の依頼を受け、昭恵氏に付いていた官僚が、財務省に対して紹介を行った局面を問題にしている。《読売》と他の3紙とでは、単に主語が違うだけでなく、シーンが違うことに注意しておきたいと思う。

はっきりしているのは、昭恵氏の電話の留守電に吹き込まれた籠池氏の依頼を受けて、昭恵氏に付いていた官僚が財務省の担当者に照会行為を行い、回答を得てから昭恵氏に報告し、FAXで籠池側に回答したという事実。

《東京》ももちろん、主語は「昭恵氏側」であり、その昭恵氏側が財務省に照会をしたと書き切っている。4紙の中で最も踏み込んだ書き方だということが分かる。「財務省」と見出し1行目に書いたのは《東京》だけ。《朝日》と《毎日》は2行目に「財務省」を出している。

こうなると、あとは「昭恵氏側の内実が何なのか

安倍氏も昭恵氏も、菅官房長官も、昭恵氏自身の関与は一切なかったと抗弁しているようだ。これが虚偽であれば、安倍氏は総理と議員を辞職しなければならない。

野党は早々に、谷査恵子氏の証人喚問を要求すべきではないのか。谷氏はどのような手順で財務省に連絡を取ったのか、その際に、何と名乗ったのか、電話なのか面会なのか書面によるものだったのか、その間に政治家は関与しているのかいないのか。聞きたいことはいくらでもある。「財務省への照会」がどのような態様でなされたのかによって、昭恵氏がこの件に関与したのかしなかったのか、結論が出るだろう。

以上、いかがでしたでしょうか。

膨大な量なので、ちょっと四苦八苦しました。《毎日》が安倍総理夫人について「昭恵リスク」という言葉を出して記事にしていたのもご紹介したかったですが、時間がなくなりました。

image by: WikimediaCommons(L26)

 

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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