中国でこの4月から導入された、「中国での就労許可を申請する外国人を3段階にランク付けする制度」が波紋を呼んでいます。台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の中で、この新制度と悪名高い「民事訴訟法231条」により、中国の外国企業に対するスパイ行為が今後さらに加速し、有能な外国人は人質となると警告しています。
【中国】有能外国人を人質化し、外国企業をスパイし放題の中国新制度
中国政府は4月1日より、中国での就労許可を申請する外国人に対して、その能力や年齢、年収などによってABCの3段階にランク付けする制度(外国人来華工作許可)を開始しました。
Aランクはノーベル賞など国際的な賞の受賞者や大企業の幹部、Bランクは大卒以上で2年以上の実務経験がある外国企業の管理職や専門技術者、その他をCランクに位置づけました。
加えて点数制も導入し、中国語の能力や年齢、年収などの要素で点数をつけて、その合計点が85点以上ならAさん、60点以上はBランクというように、ABCに振り分けるとしています。年齢は26~45歳が15点と高く、逆に60歳を超えると0点扱いとなります。
Aランクの外国人は就労手続きが簡素化される一方、Cランク人材と認定されると、中国政府から受け入れ拒否されたり、居住地から追い出される可能性があるということで、現地の日本企業でも戦々恐々となっているようです。
以前、「中国に不法滞在するアフリカ人は、なぜ中国嫌いになるのか」で解説したように、たしかに中国にはいまアフリカからの移民が増えています。これは中国政府がアフリカ援助のためにビザ取得を緩和したことで起きたことですが、人材のランク付けは、働き口を求めて流入してくるアフリカ人などを追い返すための目的もあると思われます。
かつて中国では改革開放後、上海の女性がアフリカ人と結婚し、アフリカを転身基地として欧米に移民することが流行りました。もちろん家族や親族も一緒ですから大量移民です。それが現在はアフリカからの移民が増加しているのですから、時代は変わったものです。
中国政府は以前には、人材、ことにエンジニアを得るために、日米欧の定年退職者を大歓迎してきました。そうして海外の技術を盗み、獲得してきたわけですが、もはや頭打ちになったということなのでしょう。
台湾からは一時、約200万人近い企業幹部が大睦に渡り、約1,000万人近い雇用を生んできました。現在では企業幹部よりも台湾の黒道(ヤクザ)や倒産して夜逃げする者たちが大陸に行くことが多くなっています。こうした人材も中国から駆逐したいという思いがあるのでしょう。
しかし、中国で施行されている他の法律などと合わせて考えると、中国政府の別の意図も透けて見えます。
中国には悪名高き「民事訴訟法231条」があります。これは民事訴訟を抱える企業の責任者を出国禁止にするというものです。たとえば中国で儲からなくなったといって、外国企業が撤退しようとしても、従業員から待遇面などで訴えられたら、企業トップや部門責任者は出国できなくなります。要するに、中国からの撤退を考える企業に対して、中国政府がさまざまな嫌がらせ加え、身ぐるみを剥がすための法律なのです。
今回の外国人のランク付けは、ある意味ではこれと正反対にあるように見えますが、方向性は一緒です。つまり、中国にとって役に立つ、金儲けできる企業や人材を人質にするということです。
Aランク人材を中国に送り込んだ外国企業が、事業がうまくいかないということで撤退しようとしても、民事訴訟法231条で撤退できなくなる可能性があります。そもそもAランク人材ともなれば部門の責任者以上の地位でしょうから、その当の人物が中国に足止めされる可能性が高くなります。
一方で、Cランク人材は中国での居住を拒否されますから、その代わりに中国人を雇うしかなくなります。今回の外国人ランク付けは、中国人の雇用対策という側面もあると思われます。いわば「中国第一主義」でしょう。大卒者すら就職難に喘いでいるのですから、Cランク人材を排除して、その代わりに中国人を雇え、というわけです。
習近平国家主席は、1月のダボス会議でトランプ政権の保護主義を批判して、中国こそが自由貿易、自由主義経済のリーダーとなるとまで発言しました。そして中国は外国人投資家による中国市場へのアクセスを拡大して、高度で実験的な自由貿易圏を作るとまで宣言しています。ところが現状は、外国企業にとってそれとは真逆の政策が中国では次々と施行されているのです。
中国の主張する「自由主義」というのは、中国だけが「自由」なのであって、外国にとっては「不自由」を意味します。私は以前から繰り返し主張していますが、中国と他国では言葉の定義がことなります。そして「言葉の定義を決めるのは自分たちだ」と主張するのが中国なのです。
たとえば、中国政府の代弁者となる外国人は中国から「友好人士」と呼ばれてきました。中国に都合のいい歴史観は「正しい歴史認識」とされます。「友好」「正しい」の定義とその解釈権はすべて中国が決める、というスタンスです。
そもそも中国では人をランク付けすることが昔から行われてきました。文革などはその典型例で、学校教師は「臭老九」(鼻つまみ者の第九階級)と呼ばれ、文人や儒者などもホームレスと同一視されて最低ランクの九階級に落とされたことがありました。
改革開放後には、農民が盲流として沿海都市に流れ着きましたが、市民から最低の階級として、九階級までしかないのに「十等」と呼ばれました。もちろん第一階級は役人です。
このように、中国人は人をランク付けすることが大好きなのですが、それは古代から行われていた官僚登用法、いわゆる「九品官人法」からくるものだと言われています。人民共和国建国後、毛沢東は「黒五類」(労働者階級に対する5種類の敵)と「紅五類」(革命幹部や労働者階級)に人民を色分けしました。
それはともかく、今後、Cランク人材の代わりに中国人が外国企業に入り込むということは、企業の機密漏えいのリスクが高まるということにも繋がります。中国政府としては、外国企業にスパイを送り込みやすくなるわけです。そしていざとなれば、そうした中国人に民事訴訟を起こさせて、外国企業の撤退を防ぎ、骨の髄までしゃぶりつくすということが可能になります。まるでアリジゴクの罠に落ちた獲物のようなものです。
このように中国進出のリスクは年々増大していますから、これから新たに中国進出を考える企業はそれほど多くはないでしょうが、悲惨なのはすでに進出している外国企業です。Cランク人材は国外追放となり、事業を継続するには現地中国人を雇うしかない。それで業績が悪化しても撤退するに撤退できず、有能な人材は中国に人質として取られ続ける……といった事態が増えるのではないでしょうか。
自由主義を主張する中国では、むしろ言論統制や統制経済によるチャイナリスクが増大しているというのが現実なのです。中国で痛い目にあってきた台湾も、大陸からの撤退が続いていますが、台湾人ビジネスマンの間では「地獄から生きて帰ってきたので、もう何も怖くない」という言葉が流行しています。
今週後半には、トランプ・習近平の米中首脳会談が行われますが、アメリカ第一主義を明確に掲げるトランプと、自由主義を掲げながら実際には中国第一主義・統制経済を強める習近平が、お互いに折り合わないのは目に見えています。
グローバリズムの恩恵によって急成長してきた中国が国内法で外貨の流出を阻止する動きこそが、グローバリズムや自由主義の終焉を意味しており、グローバリズムの歴史の申し子である中国に、「歴史の終わり」が近づいていることを示唆しているのです。