4月9日、原子力空母カール・ビンソンを主力とする海軍第1空母打撃群を朝鮮半島方面に航行させ始めたアメリカ。ミサイル発射実験など挑発行為を繰り返す北朝鮮を牽制する狙いがあると見られていますが、仮に米軍が北朝鮮に先制攻撃を仕掛けた場合、国際法上は「合法」となるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが、6日に米国が行ったシリアへの巡航ミサイル攻撃などを例に取りながら解説しています。
なぜアメリカのシリア攻撃は、「国際法違反」なのか?
今日は、「アメリカのシリア攻撃」関連を書きます。こんな記事を見つけました。
シリア攻撃 菅官房長官 攻撃の根拠「米国から考えを聴取」
産経新聞 4/10(月)12:24配信
菅義偉官房長官は10日午前の記者会見で、米軍によるシリア攻撃に関する国際法上の根拠について「わが国は軍事作戦の当事者ではなく、米国から考えを聴取しているところだ」と語った。10日の日米電話首脳会談で米側からの説明はなかった経緯も明らかした。
米軍による攻撃に対しロシアなどから「国際法違反」との反発が出ている現状には「英仏独など西欧諸国や、トルコ、ヨルダンなど中東諸国が米国の対応を支持している。本件はG7(主要7カ国)や国連安保理などの場で議論される予定で、国際社会と連携しながら取り組んでいきたい」と指摘した。
「ロシアなどから『国際法違反』との反発が出ている」そうです。別に私はロシアの味方ではありませんが、「どうしてそういう批判がでるのか?」知っておきましょう。
国際法上「合法」な戦争1~自衛権の行使
現在の国際法では、「合法的な戦争」が、二つあります。一つは、「自衛権の行使」です。
たとえば、北朝鮮のミサイルが日本国内に到達して被害が出た。この場合、日本は、「個別的自衛権」を行使し、北朝鮮を攻めることができます。これは、「国際法上合法」なのです。さらに、これを見た同盟国のアメリカが、日本と共に北朝鮮を攻める。これも、「集団的自衛権」の行使ということで、合法になります。
この二つは、「議論の余地がない絶対的なもの」と認識されています。だから日本が、同盟国アメリカを守るために「集団的自衛権」を行使することについて、中韓以外「悪い」という国はありません。
「自衛権行使」ということではじまった戦争の例は、2001年からのアフガン戦争です。アフガンが匿っているとされるアルカイダが、アメリカを攻撃した(9.11)。だから、アメリカは「個別的自衛権を行使した」と。NATO諸国は「集団的自衛権を行使した」と。
議論がわかれる、「先制的自衛権」
自衛権には、もう一つ「先制的自衛権」というのがあります。たとえば、北朝鮮には
- 核兵器がある
- ミサイルに搭載できるほど小型化できているとしている
- アメリカに到達する大陸間弾道ミサイルも、まもなく完成するとしている
- 北朝鮮は、日本、アメリカ、韓国を脅迫、挑発しつづけている
こういう現状で、「北朝鮮が、実際に日米韓を攻撃する前に、日米韓が北朝鮮を攻撃する」。これを、「先制的自衛権」といいます。「先制的自衛権」に関しては、「合法」なのか「違法」なのか、「議論がつづいている」状態なのです。
もし、米軍が今、北朝鮮を攻めたらそれは「合法」でしょうか? 「違法」でしょうか? おそらく、中国、ロシアは、「違法だ!」と主張し、日本、アメリカ、韓国は、「合法だ!」と主張するでしょう。いずれにしても、「議論がわかれている」ので、「完全に違法」ということもできません。
国際法上「合法」な戦争2~国連安保理の承認
もう一つ「合法的」な戦争は、「国連安保理が承認した場合」です。たとえば、1991年の「湾岸戦争」。これは、イラクが隣国クウェートを侵略したことで起こった。国連安保理が一体化した、珍しいケースです。比較的最近の例では2011年のリビア攻撃。この時、中国、ロシアは、「拒否権」を行使せず、「棄権」しました。
「国連安保理」といいますが、実権を握っている国は、「拒否権」をもつ「常任理事国」。すなわち、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国です。そして、「米英仏」と「中ロ」の利害は、ほとんどいつも一致しない。それで、「国連安保理は、機能不全だ!」という批判が、ずっとあります。とはいえ、それが現在の「国際法」ですから、仕方ありません。
ちなみにシリアについては、ロシア、中国が、アサド現政権を守る立場。アメリカ、イギリス、フランス、が反アサド政権の立場。米英仏が、アサド関連で何か提案すると、中ロが拒否権を行使する。そういう構図になっています。
なぜアメリカのシリア攻撃は、「国際法違反」なのか?
では、今回のアメリカによる「シリア攻撃」はどうなのでしょうか?
攻撃したのはアメリカ。攻撃されたのは、シリアです。理由は、シリアのアサド軍が、反アサド派支配地域を空爆し、86人が亡くなった。そのとき、「アサド軍は、化学兵器を使った可能性がある」。
まず、アメリカ軍が攻撃されたわけではないので、「自衛権の行使」ではありません。次に、「国連安保理」はどうでしょうか? 国連安保理では、いつものようにアメリカとロシアが激論をかわしていました。それで、もちろん「武力行使容認の決議」など、出ていませんでした。
というわけで、アメリカの「シリア攻撃」は、「明白な国際法違反」です。ところが現実を見ると、ロシア、イラン以外のほとんどの国が、アメリカのシリア攻撃を支持しています。今の「国際法」「国連」「安保理」などが、「機能不全」におちいっているのは、明白ですね。