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なぜ、昔の人の年金支給額は、現在の年金よりも割がいいのか?

「数年前に亡くなっている高齢家族の年金を不正受給していた」などというニュースが後を絶ちませんが、確かに、高齢者の年金受給額は下の世代に比べると高額なようにも思えます。無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんによると、これには「経過的加算」や「乗率」というキーワードが大きく関係しているんだとか。hirokiさんが記事内で詳しく紹介するとともに、年金制度の重要性についても記しています。

昔の人の年金額の方がやや有利に計算されている!? それってホント?

今の年金、特に老齢基礎年金は20歳から60歳までの40年間の年金加入記録が無いと満額77万9,300円(平成29年度価額)の老齢基礎年金を貰うことは出来ません。しかし、結構ご高齢の方はそんなに年金加入期間が無いけど満額やそれに近い年金が貰えてるんだけとなぜ? と疑問を持つ方もいらっしゃいます。

それは生年月日によって異なる場合があります。というわけで事例を使ってその理由を見ていきましょう^_^

1.昭和12年4月12日生まれの男性(今は80歳)

この人の年金記録は昭和35(1960)年6月から60歳月の前月である平成9(1997)年3月まで442ヶ月厚生年金とします。その間の平均給与(平均標準報月額)は40万円。

年金は2通りの計算をして、その2つを比べて金額の高いほうを支給しますが高いほうで計算しています。ちょっと計算はザックリにしてます。

老齢厚生年金額→40万円÷1,000×8.54×442ヶ月×0.999=150万8,362円

参考
0.999というのは平成29年度改定率(物価や賃金によって変動する所)。ちなみに昭和13年4月2日以降生まれの人は0.997(前年度は0.998でしたが今年度は物価変動率が0.1%下がったから0.997)。

経過的加算→1,625円(定額単価)×1.327(生年月日により決められた乗率。昭和21年4月2日以降生まれの人は1)×442ヶ月-77万9,300円÷432ヶ月(→この男性の国民年金加入可能年数)×432ヶ月(→国民年金制度が始まった昭和36年4月以降で20歳から60歳までの厚生年金期間432ヶ月)=95万3,118円-77万9,300円=17万3,818円

経過的加算って何?(メルマガ参考記事)

注意
厚生年金額を計算する時はいつも乗率を7.5(または7.125)とか5.769(または5.481)を使っていますが、この男性は8.54です。昭和40年5月にこの乗率は10になったんですが、昭和60年大改正(昭和61年4月施行)の時に20年かけて乗率を下げた(生年月日が昭和元年度から昭和20年度にかけて。生まれた年度が昔ほど乗率が高いって事)。

いきなり乗率を10から7.5に下げると年金額が急に下がるから徐々に下げる経過措置で生まれた年度で乗率が異なっています。昭和21年4月2日以降生まれの人は今の7.5(または7.125)とか5.769(または5.481)を使う。

平成15年3月までの年金記録には7.5(または7.125)で、平成15年4月以降は5.769(または5.481)となる。平成15年4月以降は賞与も年金額計算に含まれるようになったから、平成15年3月までの年金額と平行になるように7.5÷1.3=5.769に下げられました。1.3という数字は賞与による増加分。

また、なぜ20年かけて下げたかというと、本来は厚生年金は約30年ちょっとで現役時代の68%くらいの給付水準を設計されていましたが、時代の移り変わりで雇用の促進につれて加入歴が40年あたりが普通になると、乗率が10のままだと現役時代の83%程になってしまう見通しになったから。

昭和30年あたりはまだ厚生年金被保険者が800万人程度に対して、昭和50年になると2,400万人まで急増した。

この男性の国民年金からの老齢基礎年金額→77万9,300円÷432ヶ月×432ヶ月=77万9,300円(昭和36年4月から平成9年3月までの432ヶ月)。

この男性は厚生年金期間しかないのに、なぜ国民年金からも給付されるかというと、くどいようですが昭和36年4月以降の20歳から60歳までの厚生年金期間や共済組合期間は国民年金にも二重で加入してる状態だから。

というわけで、この男性の年金総額は老齢厚生年金150万8,362円+経過的加算17万3,818円+老齢基礎年金77万9,300円=246万1,480円(偶数月に支払われている金額41万0,246円。原則として年金は前2ヶ月分を偶数月の15日に支払う)。

注意
基礎年金である国民年金(保険料を払う拠出制)は昭和36年4月から開始され、60歳誕生月の前月までの年金加入記録で数えるから432ヶ月

ちなみに老齢基礎年金の分母はいつもなら480ヶ月(上限値の40年)を使っていますが、この男性の場合は分母が432ヶ月になっているのはこの男性の生年月日(昭和12年度)からだと、国民年金が出来た昭和36年度には既に24歳になる年度。

国民年金は20歳から60歳まで40年納めれば満額とはいえこの男性の場合昭和36年から60歳まで国民年金に加入しても36年が限界だから480ヶ月納めなくても432ヶ月に短縮されている。これを加入可能年数という。

このように国民年金も昭和60年改正の時に15年かけて給付水準を引き下げた(昭和元年度から昭和15年度にかけて)。

昭和16年4月2日以降生まれの人は国民年金が出来た昭和36年4月1日で20歳になるから60歳までの40年間加入する事が出来るが、それ以前生まれの人は40年加入出来ないから今回の事例みたいに40年間の国民年金期間がなくても金額が高くなるように分母が短縮されている

また、昭和60年改正の時に25年間国民年金を納めた額と40年間国民年金を納めた額を同じにした。当時25年で60万円の国民年金を40年加入で満額60万円の年金にしたって事(期間を長くすれば保険料負担も小さくなる)。

このように昭和60年改正で年金額が大幅に下がりましたが、後代にとてつもない重い負担をさせない為に給付水準を下げたんです。

当時のまま改正しないと厚生年金保険料であればピーク時で38%くらい保険料を徴収しないと年金制度が維持できない状態だったから(今年度の9月で18.3%の上限に固定。18.3%は平成16年改正の時に決めた厚生年金保険料の上限値。この上限値の中で年金額を確保する事になっている)。

追記

なんだか、今回の事例を見ると一昔前の人は優遇されてるように見えて、また、年金の損得や世代間によって不公平だ! とかいう議論が流行りですが、公的年金は納めた保険料と貰える金額が人によって世代によって大きく異なるのは当然であり、やむを得ない事です。

生まれたい時を決める事は誰にもできません。

昔の人はトクだから不公平だ! っていうなら、あの凄惨な戦時中に生まれたほうがよかったなぁって言うんでしょうか。昔に比べて今の時代はものすごく便利になりましたよね。食べるのもままならないような時代を生きた人から見たら想像もつかない時代になりました。平均寿命が昭和20年頃はまだ50歳くらいだったのが今じゃ男性は80歳、女性であれば87歳くらいになりました。

年金はそもそも保険だし、単に数字による損得だけを見る事は馬鹿げています。

また、今回のようなご高齢の方は現役の頃は老齢になった親も扶養してきたような人達です。昭和40年代の65歳以上の単身・夫婦のみの世帯が100万世帯(全世帯の3%くらい)もいかなかった頃、今は1,300万世帯程(全世帯の25%くらい)になりました。高齢者のみで暮らしている世帯がものすごく増えたわけです。

この数字が何を意味しているか。

予想をはるかに超える少子高齢化の進行もありますが、老齢になった親世代だけでなく、自分の子供や配偶者を自分の給料(私的な負担)で養ってた時代だったのが、老齢になった親世代とは暮らさずに離れて暮らすようになったわけです。

じゃあ今まで自分の給料で老齢の親世代を扶養してた(私的な負担)のをしなくなったなら誰が老齢の親世代の生活費を負担するのか。

そう。公的年金(公的な負担)なんです。つまり、私的な負担が時代の変化と共に公的な負担に変わっただけ。

公的な負担が無くなれば余計な負担(保険料)から解放される! っていう短絡的な考えは間違い。だいぶ前にも記事に書いたんですが、私的な負担が増すだけ

一部の富裕層を除いて、老齢の親世帯に毎月自分の給料から年金保険料の数倍の負担となるお金(最低でも10万は必要でしょう)を仕送れる自信ある人が一体どのくらいいるんでしょうか。

年金は破綻してるとか無責任な話で盛り上がる人達もいますが、公的年金が破綻したら困るのは4,000万人程いる年金受給者だけでなく6,000~7,000万人程いる現役世代もとてつもなく困る事になるという事です。世の中はより混沌とし、今の年金制度への不平不満の比じゃないくらい批判が噴出し、混乱を招く事になるんじゃないでしょうか。

ところで厚生年金は70年程、国民年金は50年程の歴史がありますが、破綻しないように幾度となく法律の改正が行われてきました。特に厚生年金は昭和17年6月からの制度ですが、戦争で機能しなくなり壊滅状態になりましたが昭和29年大改正で建て直されました。

年金は特に法改正が多い制度ですが、これからも改正は続くでしょう。

一度建てた家は仮に何もせずに放っておけば老朽化していつかは廃墟になったり崩れてしまいますが、大切な家が崩れて住めなくなるのを防ぐ為に修繕や工事をするように、年金も何度も法改正(工事)をやってきたわけです。

法改正は何も年金だけではなく他のいろんな法律だって、様々な法改正を経る事により修正しながらその時その時の時代を支えてきました。

というわけで、年金がその間累計で一体どれほどの人々の生活を支えてきたのかを考えてみてほしいと思います^_^

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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