暴走・北朝鮮に振り上げたこぶし、落とし所はどこになるのか?

 

シナリオ1=自ら軌道修正

金正日が死去して、その後継が「スイスの寄宿学校に留学していた若者」だと聞いた時に、「もしかして自由社会の空気を知っている人物では?」という期待をしたことがありました。その時にチラッと思ったのは、蒋経国氏のことです。蒋経国という人は、勿論蒋介石の息子で後継者ですが、父の死去後には戒厳令を停止するなど自由化の布石を打ち、総統公選制へ、そして本省人の後継指名など大きな改革を行ったわけです。

ですが、金正恩が蒋経国になったらというシナリオはもう消滅したと考えるべきでしょう。既に、親族や側近の粛清など相当に手を血で汚してしまっているということがありますし、現時点での核開発は完全に国際法違反で戦争犯罪レベルです。粛清劇が起きているということは、そのように身の危険を感じていることの裏返しとも理解できるわけで、リーダーをそのままにして、そのリーダー本人がソフトランディングへというのは相当に難しいように思われます。

そもそも蒋経国という人は、父の蒋介石の存命の時代から心深く期するところがあって、例えば父の側近や親族など守旧派をどうコントロールするか、隠密裏に計算をしつつ、我慢もしてきた、そんな凄い人物でもあったわけで、そのような「巨人」と、あの若者は比べるべくもないように思います。

シナリオ2=トップだけに責任を負わせる

一つ想定されるのはルーマニア革命におけるチャウシェスク方式です。トップ夫妻だけが除かれて、その他の政権中枢は統治を継続するためにほとんど罪を問わなかったわけです。どうして、この措置で収まったのかというと、ルーマニアの場合は、蓄財とか国民への弾圧というように「犯罪が単純」であったわけで、要は専制君主のような統治を断罪すれば良かったのです。

ですが、北朝鮮の場合は何代にもわたって、違法な核開発、他国からの人材の拉致、自国民への虐待、対外的なテロ行為、覚せい剤等の密売、大規模な偽札製造、人道支援物資の横流し、国際法違反の闇市場への武器横流しといった、犯罪行為を多角的に行ってきたわけですから、トップだけの責任にする訳にはいきません

まして、その他の人々の戦争犯罪、人道に対する犯罪などを免罪するようでは、真相解明はできないでしょうし、そもそも新国家の中でのモラル・秩序の形成も上手く行かないことになります。

シナリオ3=自由化と旧体制の断罪

というわけで、少なくとも、現在の統治組織の相当な部分については、個人的な犯罪を問うべきであり、本気で断罪するのであれば旧体制に対する大規模な戦犯法廷の設置が必要となります。

仮にそこまでやるとして、条件としては国連やEUのように「死刑は適用しない」つまり命は取らないということにするのは適切と思いますが、それにしても、相当に大規模な犯罪捜査になりますし、その証拠保全などの活動をしっかり行うには、日米韓と中国の密接な連携は欠かせません

ただ、本当に統治者の責任を問うのであれば、国民には自由と人権をしっかり保証して進めるのが正道であり、そうなると中国は100%協力はできないということになります。また、唐突に北の住民に自由を保証してしまうと、38度線が崩壊して「なし崩し的に統一」が進んでしまい、それを韓国が支えきれないと事態が混沌としてしまうことにもなります。

自分でも苦しいところが多々あるのですが、現実を直視するのであれば、北朝鮮の「戦犯逮捕・捜査」を「自由化」とセットで行うと、「なし崩し式の統一」が起きて韓国はそれを経済的にも社会的にも支えられないというのは前提としなくてはならないと思います。

私自身、90年代の韓国にはかなり深く入って行ってビジネスや個人的な親交を結んだ経験があり、彼らの、特に左派の人々の心の中にある「民族統一」という「悲願」のマグニチュードは熟知しているつもりです。ですが、上記の通り現実を直視するのであれば、今から予見しうる2年とか5年というレンジの中で、「なし崩し的な自由化と統一」というのは、「全員を不幸にする」としか思えません。

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