経営のカリスマとして名を残す松下幸之助さんの名言に、「叱ってくれる人、注意してくれる人を大切にせよ」という言葉があるそうです。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では、著者で現役コンサルタントの梅本泰則さんが、自身が関わってきた親子経営や兄弟経営企業の例をあげながら、「叱ってくれる人が必要な理由」をわかりやすく解説しています。
経営者には、叱ってくれる人が必要
松下幸之助さんの言葉に、こんなのがあります。
ほめられるのは嬉しいことだが、ときとして油断が生じる。だから、逆に叱ってくれる人、注意してくれる人を求め大事にしなさい。
何とも良い言葉ですね。今、あなたの周りには、叱ってくれる人、注意をしてくれる人がいるでしょうか?
ちまたでは、多くのお店で世代交代が起こっています。後継者にとって、親は叱ってくれたり注意をしてくれたりする大事な存在です。そのことは分かっていても、父親と息子さんがしょっちゅうケンカをしているお店があります。意見の衝突というやつです。
きっと父親は、お店の将来を思って、息子さんのやり方を叱るのでしょう。しかし、息子さんには息子さんの考えがあります。親子ですから、遠慮がありません。「あなたの考え方は、今の時代に通用しない!」とかなんとか、反発します。
その場面を見ている方はハラハラしますが、大丈夫です。しばらくすると、お互いは何もなかったようにケロッとしています。これが親子というものですね。やはり、お互いが信頼をしているのでしょう。息子さんは、心のどこかで自分を叱ってくれる存在をありがたいと思っています。
その一方で、こんなお店がありました。
親子と兄弟の違い
二人の息子さんがいて、どちらもお店を手伝うことになりました。兄弟仲良く仕事をしています。それぞれ責任のある仕事を任せられ、十分に成果がでました。二人とも自信たっぷりです。
時が経って、お店の規模も大きくなり父親は息子さんたちに経営を任せることになります。すると、しばらくして頻繁に兄弟ゲンカが起こるようになってしまったのです。親子ゲンカと同じで、遠慮なく意見をぶつけ合います。ところが、兄弟というのは、そこでおさまりません。お互いの主張を引っ込めないから大変です。不信感ばかりがつのります。
ここが親子ゲンカと違うところです。弟にとって、お兄さんは叱ってくれる人ではなく、自分の邪魔をする人になってしまいました。そう思ってしまうと、お店の運営に悪い影響を与えます。そのせいでしょうか、とうとうそのお店はなくなってしまったのです。
父親が経営にタッチしていた時は、しっかりと息子たちへの抑えがきいていました。その抑えがなくなってしまったことも経営がうまくいかなくなった原因の一つかもしれません。私は、こんな事例をいくつか見ています。
兄弟というのは、結構むつかしいものなのです。この兄弟の周りには、叱ってくれる人がいなかったのでしょうか。
できない理由
そして、叱るといえば、最近私はこんな経験をしました。付き合いの長い経営者と話をした時のことです。「最近、お客様の数は増えていますか?」と尋ねてみました。「なんだかさっぱりで、客が減っているようだよ」。
ついつい、私はお節介をしてしまいます。
「何か手を打っているのですか?」
「いや、特別に何もしていないさ」
「では、近所の方たちにもっとお店のことを知ってもらいましょうよ!」
「どんなことをしたらいいの?」
経営者は話に乗ってきました。そこで、その方法を提案し始めたのです。方法は、いつも皆さんに言っていることと同じです。
「手作りのチラシを作って、近所の家に配ってはどうですか?」
「そんな暇はないよ」
「では、買っていただいた近くのお客様を訪問して直接、お礼の手紙を渡されてはどうでしょう?」
「そんな面倒なことはしたくないね」
「では、お客様との食事会や旅行を企画するなどしてお客様と仲良くなるというのはどうですか?」
「そういうことは苦手なんだよ」
経営者は、ことごとく出来ない理由を申し立ててきます。珍しくむっとしてしまったので、「出来ない理由ばかりを探していても、問題は解決しませんよ!」と、少しきつく言ってしまいました。
きっとこの経営者には、叱ってくれる存在が必要です。そうでなければ、いつまでたっても出来ない理由を探して何も手を打たないでしょう。付き合いが長いだけに、心配になります。少しでも、松下翁の言葉をかみしめてほしいものです。
いえ、皆さんは大丈夫です。叱ってくれる存在がいることは分かります。経営がうまくいっているのですから。
■今日のツボ■
- 経営者には叱ってくれる人が必要である。
- 後継者にとっては、親が叱ってくれる大切な存在である。
- 兄弟が同時に経営にタッチすると、むつかしい場合がある。
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