近年、日本の若者たちの「海外」に対する興味が薄れつつあるようです。以前なら「留学」「海外赴任」「海外旅行」などに憧れ目標にしている人も数多く存在しましたが、近頃の若い人の多くは「日本が一番好き!」なんだとか。これを受けて「今の若者はガッツがない。日本の未来は暗い」と嘆く人もいるようですが…、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、少々違う考えをお持ちのようです。
若者が外国に出たがらない日本の未来は暗い???
なんでも、最近の若い人たちは、
- 留学しない
- 海外赴任を嫌がる
- 海外旅行しない
傾向があるそうです。もちろん、「みんなそう」という話ではなく、「留学、海外赴任、海外旅行」が「減っている」と。それで、「若者がガッツをなくした日本の未来は暗い!」という論理を展開する人もいるのですね。
これ、どうなんでしょうか?
小国の悲劇~バルト三国女性の告白
去年、ギリシャ・ケルキラ島(コルフ島)にいった時のこと。ホテルのレストランで、面白い現象に気がつきました。従業員同士がギリシャ語ではなく、「英語」で話しているのです。従業員とお客さんが英語で話すのはわかりますが、「なんでスタッフ同士が英語で話しているのだ?」と疑問に思いました。
それで、ウェイトレスの女性に、「何でスタッフ同士、ギリシャ語じゃなく、英語で話しているの?」と聞いてみました。すると、「スタッフはギリシャ語が話せない人が多いからです。私はポーランド人ですが、やはりギリシャ語が話せません」というのです。そして、「あの子はリトアニア人、あの子はエストニア人、あの子はラトビア人」などと、教えてくれました。
な~るほど。ギリシャのホテルで働いているのは外国人ばかり。しかも、ギリシャ語を話せないから、みんな英語を共通語として使っている。私は、その後興味をもっていろいろな従業員と話をしてみました。ギリシャ人のスタッフも一部いますが、バルト三国、東欧の人がとても多いことに気がつきました。
別のウェイトレスに話を聞いてみました。「何で、ギリシャで働いているのですか?」と。すると、バルト三国から来たというその若い女性は、こんなことを言ったのです(エストニア人かリトアニア人か、忘れましたが)。
「私の国は、小国で未来がありません。若者の夢は、外国に出て就職し、外国で暮らすことです。そのため、学生たちは、一生懸命外国語を勉強します。私は、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語を話せますが、それは普通です。大学を卒業したら、とにかく外国に出て就職することを目指すのです」
私は、「ケルキラでずっと働くつもりですか?」と聞きました。その女性は、「できればそうするつもりです。この島は、私の国に比べれば暖かくて天国のようなところ。しかも、観光シーズンだけ働いて、冬はたっぷり休みがとれますし」などと、言っていました。
私は、「夢が、『母国から脱出すること』というのは、ずいぶん悲しいことだな」と同情しました。しかし…。
母国から逃げる人々
世界に目を向けると、「人が逃げている国」もあれば、「外国人がどんどん流入している国」があることに気がつきます。たとえば私が住むロシアの首都モスクワ。ここには、中央アジア(特に、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン)、コーカサス(特にアゼルバイジャン)、モルドバ、ウクライナなどから、たくさん人がきています。自分の国で仕事が見つからないので、モスクワにやってくる。
西欧を見ると、シリア、イラク、アフガニスタン、リビアなどから難民が押し寄せています。難民問題が起こる前は、貧しい東欧から豊かな西欧に人がどんどん移ってきていた。これが、イギリスの「EU離脱」に繋がったことは、記憶に新しいです。
アジアを見ると、中国や東南アジアの人たちは、日本を目指します。そして、世界中の人が、アメリカを目指します。こういうグローバルな人の流れをみると、「外国に出たい!」と国民が切望する国々の傾向が見えてきます。
「難民」は、「戦争や内戦が続いていて、自国に残れば、命が危ない」などの理由でしょう。しかし、普通「外国に出たがる人」は、外国に「仕事を求めて」いくケースが圧倒的に多い。だから、「自国民が外国に出たがらない」というのは、「自国で仕事を見つけることができる」ということで、むしろ喜ぶべきなのではないでしょうか?
日本の若者が海外に行かなくなった他の理由
これだけだと、「ずいぶん偏ってるな」と思われるでしょうから、他の理由も挙げておきましょう。
- 海外に行く金がない
これはあるでしょう。留学するのも、海外旅行するのも金がかかります。
- 時間がとれない
これもありますね。私の知人が結婚した時、「一生に一回、一週間の休暇をいただきました!」と喜んでいました。日本で長期休暇をとるのは、難しいのですね。海外行ってる時間がありません。
- 留学しても、就職に有利になるとは限らない
留学しても、就職に有利になるわけではないのですね。
- 海外は怖い
ここ数年、毎週のように「テロ」のニュースを聞きます。今では、ロシア人ですら、「ヨーロッパに行くのが怖い」というぐらい。欧州ですらこんな状況ですから、他の国に行くのは、もっと怖い?「安全な日本にいた方がいいよね」ということでしょう。
- 会社に忠誠心がない
これは、「海外赴任を拒否する若者」についてですが。最近は、「嫌です!」と断る若者が多いそうです。
わかります。昔は、「俺(社長)がおまえと家族を定年まで面倒見る。給料を毎年上げる」という話だった。それで、日本人は、「企業戦士」として、忠誠心をもって戦ってきました。
ところが今の企業は、「都合が悪くなったら、いつでもリストラするからね」です。それで、「最近の若者は愛社心がない!」と嘆いてもムダです。愛社心がなくて当然なのです。
「俺は、苦しくなったらいつでもおまえと離婚するが、俺を愛してくれよ!」といったら、「わかりました。死んでも愛します」と言うでしょうか?
若者が外国に出たがらない日本の未来は、明るい
とはいえ、「若者が外国に出たがらない」というのは、大した問題ではないでしょう。
むしろ、中東・北アフリカ、中央アジア、コーカサス、韓国、東南アジアの一部、東欧、バルト三国のように、「若者がこぞって外国に出て行きたがっている!」方が大問題です。
日本はただでさえ「少子化」「人口減」が問題視されている。それなのに、若者を外国に出し、人口減らしてどうするの?ということです。
日本も、貧しかった戦前は、
「南米に移住しよう!」
「アメリカに移住しよう!」
「満州に移住しよう!」
などと言っていました。今の若者は、「日本が一番いいよね」と言っています。すばらしいことではないでしょうか?
これが、「夢は上海で就職することです。熱心に中国語を学んでいます」という若者が大量に出てくるようになれば、いよいよ「日本もヤバい!」と戦慄しなければなりません。
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