戦火の朝鮮半島で、自衛隊による「日本人救出」は可能なのか?

 

その場合ですが、2つ懸念ポイントがあります。

1つは、韓国側にどうやって理解を求めるのかということです。ソウルが火の海になりつつある中、日本人だけが自衛隊や米軍の艦艇や航空機で避難するということはそもそも可能なのでしょうか? 韓国の国民感情だけでなく、具体的には韓国が朝鮮戦争の教訓に基づいて独自に策定しているであろう、有事の際の民間人の避難保護体制に従わずに、日本人だけは自衛隊もしくは米軍による救出を可能にするよう韓国側の危機管理体制を変更してもらうことがテクニカルに可能なのか、という点です。

2つ目は、日本人がまとまることが果たして安全なのかという問題です。戦後72年が経過し、韓国を植民地化していた世代からは丸々2世代が入れ替わり、植民地経営者や管理者などの当事者は全く存命していない中で、日本人は韓国ないし、北朝鮮から敵視される直接的な理由はありません。ですが、過去の名誉の問題から舌戦に参加することで、現在形の対立を好む傾向は近年その臨界点を越えています。

その空疎な対立が、果たして有事という多くの人命を左右する極限の状況で、当事者の判断を左右するかは私には予測はつきません。ですが、2010年に福島氏(言っておきますが、政治家として全く支持はしていませんが)が指摘したような危険性はあると想定して行動した方が良いと思います。

つまり邦人保護目的であっても、朝鮮半島に自衛隊が踏み込むことで、それを勝手に「侵略だ」などというデッチ上げを行って、攻撃対象にするという可能性は全くゼロではないと考えるべきと思います。仮に北の中央政府の統率が崩壊した場合や、紛争の出口として「なし崩し的な統一」が見えていた場合には、余計にこれを警戒しなくてはなりません。

そこまで深刻なケースでなくても、仮に「韓国人の人命よりも、日本人の人命を優先した」というエピソードが発生して、それこそ動画でもバラまかれたら大変な問題になる可能性はあります。また、日本人が固まっているシェルターの所在が露見した場合に、攻撃目標になりやすいという危険は計算しておかねばならないでしょう。

私は、2010年には以下のように述べています。

こうした問題に対しては、韓国人と日本人、あるいは北朝鮮の住民の生命を公平に扱う、つまり日本人だけを独善的に救出するのではない、日韓があるいは日米韓が連携して民間での被害を最小限に食い止める「防衛計画」を立てていくことでしか、解決はないように思うのです。そのために法改正なり憲法解釈論議が必要なのであれば、毅然として理屈を詰めていくべきでしょう。いずれにしても、朝鮮半島有事に関しては「動乱が沈静化した後の韓国において国家再建への求心力に反日カードを使わせない」ということを日本の国家目標として、そこから全てを逆算することでしか道筋は見えてこないと考えます。そうした議論が対外的な説得力を持てば、広義の抑止力ともなるのです。

原則論としては、この立場を変えるつもりはありません。ですが、同時に本当に半島有事ということを、想定するのであれば、安倍首相の言う自衛隊を使用するという選択肢を全面否定はできないのも事実です。というのは、仮に相当程度を米軍に頼るのであれば、自衛隊を出さない理由をアメリカに納得させるのは難しいからです。

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