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朝鮮半島38度線ツアーに参加した日本人の衝撃レポート

いまだ緊張状態の続く北朝鮮情勢。一部報道では、「今、トランプ大統領が強く出られないのは、北朝鮮がひとたびミサイルを発射すればソウルが火の海になる可能性があるからだ」とも言われています。その北朝鮮と韓国の軍事境界線・板門店を数年前に訪れたという無料メルマガ『タクシー運転手からの内緒話/番外編』の著者・takachanさんが、緊迫のツアーの様子を詳細に記しています。

朝鮮半島軍事境界線に行く

北朝鮮のミサイル発射によって揺れる国際社会と朝鮮半島。何年か前、手軽に行ける韓国に興味をもち何度かソウルを訪れました。飛行機で2時間ちょっとの隣国です。

何度も行っているうちに観光やショッピングにも飽き、明洞という繁華街を歩いていると、「軍事境界線板門店見学ツアー」の看板が目に入りました。そこで店内で説明を聞くと、あの38度上にある板門店に行けるという。但し行けるのは外国人だけで韓国の人は行けないと言いました。

ただ、この場所は現在でも南北の緊張が続き実戦兵士がいるので、参加者の命の保証は出来ないそうです。大げさに言いますと、命がけのツアーです。それでも現実に生きた軍事境界線を見る機会のない日本人の私は好奇心を抱き、その場で申し込みをしたのです。

この軍事境界線、板門店は1953年朝鮮戦争停戦のために北朝鮮と国連軍との間で結ばれた停戦協定された場所の38度線上にあります。ここを境に北側が北朝鮮南側が韓国とし朝鮮半島を二分した重要な場所で今でも南北のそれぞれの兵士や国連軍が警戒にあたっています。そしてここでは「境界線を越えた者相手兵士と会話を交わした者は即処刑される」となっているとても危険な場所ともいえます。そんな場所でも私は興味と興奮を感じて翌日のツアーを待ったのです。

この危険ともいえるツアー、今も南北朝鮮の緊張が続く中、軍事地帯に参加し、普段の日本での日常では絶対起こりえないその詳細を皆様にお伝えいたします。

翌日、緊張感と不安を胸にいだいて出発場所のロッテホテルへ行きました。そこには韓国国営の観光バスが待っていて、パスポートとツアーチケットを出してバスに乗り込みました。

定刻の8時半に出発したバスは北の方角に向けて走り、車内はほぼ満席に近く、私たち日本人の他にアメリカ台湾の人たちも一緒でした。しかし車内には女性は一人もいませんでした。驚いたことに中年のバスガイドは、日本語をはじめ英語、台湾語三ヶ国語を順次使い、板門店のことや北朝鮮の内情を説明してくれたのです。

小一時間ほど走ると車窓からはソウルの町並みとはちがって農村らしい風景に変わり、しばらくすると大きな川沿いを走っていて、よく見るとこの道わきで何人かの老夫人たちが川の向こうに向けて手を合わせて祈っている姿が目に入ったのです。するとガイドが、

「あの人々は戦争で肉親が南と北とに離れ離れになり、会うことも出来ず韓国の人が行ける一番北側はこの川の手前までなのです。少しでも北の肉親に近いこの場所から無事を祈っているのです。皆さん、戦争ってとてもむごいものですね」

その説明に胸があつくなりました。かって肉親と一緒だった幸せに暮らしていた遠い昔。むごい朝鮮戦争によって引き離されてしまった家族の人々…。やがてバスは、この川の橋の手前で停車したのです。するとバスの入り口から小銃を肩にかけた迷彩服を着たMPが乗り込み英語で話したのです。そのあとガイドが通訳してくれ、

「今から渡します書類は英語で書かれていますので、各国語で説明します。これから行きます板門店及び非武装地帯で、北朝鮮兵士から危害を受け死亡する場合がありますが、国連軍及び韓国政府は訪問者の安全と責任は負えません。この書類は宣言書で納得したらサインしてください。提出場所は次に行く国連軍の駐屯基地です」

そして厳重注意としてガイドから再び、

「板門店の南北境界線では絶対に北側に越えないで下さい。そしてまた、北朝鮮兵士から話しかけられても絶対に会話しないで下さい。もしこれらの行為をしますと即処刑される場合がありますので、くれぐれも注意して行動してください」

この二つの説明を聞き、急に恐ろしい感じになりました。MPの小銃に板門店の危険な様子も想像して緊張したのですが、せっかくここまで来たのだからと覚悟を決めてサインをすることにしたのです。

バスは再び発車し橋を渡り、ソウルから約2時間のところに国連軍の駐屯基地へと到着しました。そこには武装した兵士が多数いて、バスの中で渡された宣言書を提出し更にパスポートを確認すると、国連軍ゲストと書かれたネームプレートを首から下げるよう指示され、食堂へと案内され、ちょっと早めの昼食となりました。この食事がとてもおいしく感じたのです。とくにスープの味は今でも忘れられません。

食事時間が終わり、いよいよ非武装地帯へと向かうのですが、ここからは国連軍のバスに乗り換えさせられ前後を警備のジープに挟まれ重々しい雰囲気で出発しました。この非武装地帯は境界線に有刺鉄線の金網が張ってあり厳重に管理されていて、道路にはゲートで点検を受けて入ります。さらにあちこちに銃を構えた国連軍の兵士の警戒する姿が見え、かつての激戦地だったことを思わせました。

この非武装地帯は、38度線の境界線を中心に南北2kmが朝鮮半島を二分している地帯になっています。やがてバスは目的地の板門店に到着。38度線上に小さな建物がいくつか建っていて、向こう側には北朝鮮の兵士が銃を携えた姿があちこちに見え緊張しました。

国連軍の兵士の案内で建物の内部を見学。部屋の中央に横長にテーブルが置かれ、その中央に38度線を示す線が引かれ、時折開かれる南北会談の際にはこの線を挟み、北側に北朝鮮、南側に韓国の役人が座り話し合いが行われるそうです。

窓から北側を見ると、北朝鮮兵士が手招きでおいでおいで」と手を動かしていますが、宣言書を守り、これを無視しました。建物の外に出ると、路面にはっきりと境界線を示すラインが引いてあり、北朝鮮兵がラインまで来てなにやら話しかけてきて、とても緊張しました。同行者の話では、過去にラインを越えて行った見学者が北朝鮮兵に捕まり連行されて以後行方がわからなくなったそうです。この話を聞いてゾォーっとしました。そして急いでラインから離れたのです。

ここは、まさに戦闘なき戦場といった場所に思えました。常に南と北がにらみ合い監視し何とか平穏を保っているようです。この状態がはたしていつまで続くのでしょう。そして同一民族同士がどうして、こんな状態になってしまったのでしょうか。

約30分程度の見学で何事もなく、ここを後にして帰路につきました。すると、今まで緊張していた気持ちがスゥーッと取れ、落ち着いた気持ちで車窓から外を見ることができました。再び駐屯地で、さっき乗ったバスに乗り換え、ソウルへと向かいます。なんともいえない安心感がありました。

バスの窓からは農村らしき風景が見え、戦争とは無縁の地に思えました。戦争によって民族が分断されさまざまな悲しみや苦しみをこの民族が負うのだろうか…。私たちの国、日本は平和の中にあるんだと改めて思いました。

image by: Chintung Lee / Shutterstock.com

『タクシー運転手からの内緒話/番外編』

『タクシー運転手からの内緒話/番外編』

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昼の顔、夜の顔、男と女、様々なシーンが車内で展開されるのです。心に残った名場面をそぉーっと、お伝えいたします。ちょっとHなお話しも添えまして…。「まぐまぐ大賞」3年連続部門受賞。そして、笑いと涙の「旅回り」へと…。番外編、好評更新中〃「まぐまぐ大賞2014年」・部門大賞受賞

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