7日、フランス大統領選の決選投票が行われ、グローバリスト達から支持を受けたマクロン氏が圧勝し、仏史上、最年少となる39歳の大統領が誕生することになりました。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、これを「グローバリズムの逆襲」と銘打った上で、一時期急速に盛り上がった「ナショナリズム」が急速に後退している理由について詳しく分析しています。
マクロン勝利=グローバリズムの逆襲
皆さんご存知のことと思いますが、フランス大統領選挙で、マクロンさんが勝利しました。得票率は、マクロンさん65.5%、ルペンさん34.5%。「圧勝」といってよいでしょう。
彼の経歴については、以前書きましたので、参考になさってください。
● 略奪婚で逆に人気上昇。フランス大統領候補・マクロン氏の素顔
今回は、彼が勝利した意味について書きます。
グローバリズム 対 ナショナリズム
第2次大戦が終わってから70年代まで、世界では「ケインズ」が主流でした。ところが、70年代になると、「ケインズではうまくいかないよな」と認識されはじめた。
80年代になると、レーガンさんのアメリカ、サッチャーさんのイギリスが、「新自由主義」を採用し、不況を克服することに成功します。90年代に入ると、「共産主義の総本山」ソ連が崩壊した。ケインズと共産主義は瀕死の重傷。新自由主義の時代がやってきます。
新自由主義は、グローバリズムを推進します。これに、「旧共産圏が一気に資本主義圏に入ってきたこと」「IT革命」などもあり、世界は一気にグローバル化していきました。
ところで、グローバル化が進むと、貧富の差が拡大していきます。なぜ? 「グローバル化」をもう少し具体的な言葉でいうと、「人・物・金の動きが自由になる」こと。
「金」の動きが自由になったので、金持ちはオフショアを普通に使えるようになり、税金を払わなくてよくなった。
「人」の動きが自由になり、貧しい国から豊かな国に、どんどん移住するようになってきた。労働市場に安い労働力がどんどん投入されるため、金持ちはますます富む。その一方で、もとから豊かな国に住んでいた人たちの賃金は下がっていきます。
「グローバル化で貧富の差がひろがる」。これは、「理論的な話」ではなく、「事実」です。こちらをごらんください。
世界人口の半分36億人分の総資産と同額の富、8人の富豪に集中
AFP=時事 1/16(月)13:01配信
【AFP=時事】貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム(Oxfam)」は16日、世界人口のうち所得の低い半分に相当する36億人の資産額と、世界で最も裕福な富豪8人の資産額が同じだとする報告書を発表し、格差が「社会を分断する脅威」となるレベルにまで拡大していると警鐘を鳴らした。
世界の大富豪8人と、貧しい36億人分の資産は同じ!!! ちなみにオックスファムは、以下のような報告もしています。
- 上位1%の資産は、残り99%よりも多い
- 月6,000円以下で暮らしている人は、世界に14億6,000万人いる
- 貧富の差は、ますますひろがっている
2011年、「ウォール街を占拠せよ!」運動が盛り上がりました。そのときのスローガンは、「私たちは99%だ!」。つまり、「ますます豊かになっているのは1%だけで、残り99%の私たちは、ますます貧しくなっている!」というのです。私は当時、「気持ちはわかるけど、大げさだな~」と思いました。しかし、オックスファムの調査では、彼らの方が正しかった。
そして、2015年、二つの出来事によって、さらに「反グローバリズム」が盛り上がっていきます。「二つの出来事」とは? 一つは、欧州に中東・北アフリカから難民が殺到したこと。2015年、ドイツだけでも100万人以上の難民がやってきた。もう一つは、「イスラム国」(IS)によるテロが頻発したこと。「ISメンバーが難民に紛れてやってきてテロを起こす」ということで、欧米で、「難民、移民を制限しろ!」というムードになってきた。
- グローバル化による貧富の差の拡大
- 大量難民問題
- ISテロ
などによって、「反グローバリズム」「ナショナリズム」の時流が強くなっていきます。そして、2016年6月、イギリスは国民投票で「EU離脱」を選択した。2016年11月、「反グローバリズム的」「ナショナリズム的」主張をするトランプが、アメリカ大統領選で勝ちました。
マクロン勝利は、グローバリズムの逆襲
2016年、アメリカ大統領選挙は、グローバリスト・ヒラリーとナショナリスト・トランプの対決だった。今回のフランス大統領選挙は、グローバリスト・マクロンとナショナルスト・ルペンの対決だった。
マクロンは、Rothschild & Cie 銀行で出世した、バリバリのグローバリスト(Rothschild & Cieは、パリ家5代目当主ダヴィッド・ロスチャイルドが1983年に創業した銀行)。ルペンは、フランスの「EU離脱」「移民、難民規制」を訴えるバリバリのナショナリスト。
アメリカでは、ナショナリスト・トランプが勝ちましたが、フランスでは、グローバリスト・マクロンが勝ちました。なぜ?
一つは、「ナショナリスト・トランプへの幻滅」があると思います。トランプさんは、選挙戦中と選挙後で、180度違うことをしている。彼は現在、2015年3月以前のオバマとあまり変わりません。唯一違うことといえば、北朝鮮に対する姿勢がオバマと比べ強硬であることでしょう。
もう一つは、フランスとイギリスの違いです。「EU離脱」を選択したイギリスは、もともと「EUの脇役」でした。それで、イギリスは、「ユーロ圏」に入らず、自国通貨「ポンド」を残している。国境検査なしで人の行き来を許す「シェンゲン協定」にも入っていない。
一方、フランスは「EUの主役」です。欧州では「ナチスドイツアレルギー」が強かったので、ドイツが政治の主導権をとることに警戒感があった。それで、EUは、「フランスが政治を主導し」「ドイツが金を出す」という役割分担でつくりあげてきた。
つまり、イギリスと違い、フランスにとってEUは、「俺たちのプロジェクト」という意識がある。だから、自己否定するハードルが高いのでしょう。
それに、EUやユーロというのは、とても便利なものです。19か国でユーロがつかえる。「シェンゲン協定」により、欧州のほとんどの国に、自由に行ける。これは、わかりやすい「便利さ」。ルペンさんの「EU離脱!」「自国通貨フラン復活!」といった主張は、フランス国民には過激すぎたのでしょう。
後退するナショナリズム
というわけで、マクロン勝利で、グローバリスト・グローバリズムは逆襲を果たしました。2015~16年は、グローバリズムが後退し、ナショナリズムが栄えた。ナショナリズムの時流は、これで弱くなっていくと思います。
世界主要国のリーダーたちをみてみましょう。トランプさんは、ナショナリストとして登場。しかし、あまりに強いバッシングを受け、オバマとあまりかわらなくなっています。
安倍総理は、本音はナショナリストでしょう。しかし、「日本は、自由貿易のチャンピオンでありたい!」などと発言し、グローバリストたちからにらまれないよう、慎重に行動されています。
習近平は、「中国の夢」を掲げて登場したナショナリストです。しかし今年1月のダボス会議で、「グローバリズム絶対支持宣言」をして、グローバリストたちと和解しました。その後、中国経済に関するネガティブな報道は、とても少なくなっています。
ドイツ、メルケルさんは、今も昔もグローバリスト。イギリス、メイさんは、リアリストなので、ナショナリズムを主張することはないでしょう。
大国の長で、唯一ナショナリストとして君臨しているのがプーチンです。彼は、トランプに裏切られて、苦しい。フランス大統領選ではルペンさんを応援したが負けた。新ロシア革命工作もボチボチ始まっている。これから2018年3月のロシア大統領選に向けて、いろいろ起こってきそうです。
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