朝鮮半島情勢が一時の緊迫した状態から落ち着きを取り戻しつつある中、朴槿恵前大統領の罷免を受けて行われた韓国大統領選挙。フタを開けてみれば下馬評通り、革新派の文在寅(ムン・ジェイン)氏の圧勝に終わりました。この結果は今後の日韓関係にどのような影響を及ぼすのか、マスコミでも意見が分かれているようです。はたして、今回の韓国大統領選の結果を、日本の主要な新聞各紙はどう報じたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんが詳細に分析しています。
韓国大統領選の結果を、各紙はどう報じたか
【ラインナップ】
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「韓国大統領に文在寅氏」
《読売》…「韓国大統領に文氏」
《毎日》…「韓国大統領に文在寅氏」
《東京》…「韓国大統領に革新系・文氏」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「「反朴」受け皿は文氏」
《読売》…「対北包囲網に暗雲」
《毎日》…「対北朝鮮 融和模索へ」
《東京》…「日米韓 対北連携に溝」
ハドル
当然のように、韓国大統領選の結果を各紙、1面トップでも解説面でも大きく扱っています。今日のテーマは…韓国大統領選の結果を、各紙はどう報じたか、です。
「反朴」受け皿
【朝日】は1面トップと2面の解説記事「時時刻刻」、3面に日韓関係についての記事、12面に識者の意見を紹介する「考論」、13面に韓国経済についてなど、16面社説、38面には在日コリアンの反応についての記事、とフルスペック。見出しから。
1面
- 韓国大統領に文在寅氏
- 9年ぶり革新政権へ
- 与党・洪氏らに大差
-
日韓合意巡り対立も
2面
- 「反朴」受け皿は文氏
- 前回12年惜敗 批判一貫
- 保守・中道、一本化ならず
- 対北朝鮮 圧力弱体化も
- 米韓同盟、あつれきの懸念
- 「積弊」清算 混乱予想も
3面
- 日韓 かすむ針路
- 慰安婦合意 再交渉も
- 安保・経済協力 不透明に
12面
- 正しい政治根付かせて■安保面で不安
- 新政権、移行期間なし
- 要の首相人事 難航も
13面
- 韓国経済 浮揚なるか
- 81万人雇用策 財源に懸念
- 南北交流 核問題が壁に
- 「清廉で道徳性強い」
- 側近議員が語る文氏
- 朴前大統領の弾劾訴追・罷免
- 国民の怒りから選挙へ
16面
- 融和図り国政の再建を(社説)
38面
- 日韓関係「いい方向に」
- 在日コリアン 新大統領に望む声
uttiiの眼
見出しだけで26行と膨大になってしまうほど、
最もメタな次元の編集方針では、韓国に対する様々な立ち位置があるなかで、どれにシンパシーを感じる読者であっても、それなりの“居場所”
文氏を大統領に押し上げた力、敗れたとはいえ多数の票を獲得した2人の元候補とその政党、対北朝鮮政策の変化の予感に不安を感じつつ、他方、慰安婦合意の再交渉を拒絶する日本政府、その他。安倍政権は、「日韓合意の行方が今後の両国関係の最大の焦点」
興味深い指摘は2面。文氏は、「当選したら北朝鮮にまず行く」
そうした問題よりも、
文氏は選挙戦中に米政府と接触し、「米韓同盟を最も重視する」
「親北・反日」を貫くのか
【読売】は1面トップに2面の「ニュースQ+」、
1面
- 韓国大統領に文氏
- 「親北・反日」路線
- 慰安婦合意 再交渉を主張
- きょう就任 任期5年
- 「理想主義」待ち受ける現実
2面
- 韓国大統領 どんな権限?
- 軍を統帥 3000ポスト任免
- 安倍首相 早期会談訴え
- 日韓 遠い未来志向
3面
- 対北包囲網に暗雲
- 融和姿勢「隙与える」
- トランプ氏 訪米・協力議論要請へ
- 文氏は「親北・反日」を貫くのか(社説)
6面
- 文氏の横顔
- 貧しさ知る「庶民派」
- 日本とつながり皆無
- 産業構造改革に無関心
- 綿密・合理的 盧氏と違い
7面
- 文政権 多難な船出
- 少数与党「首相」「連立」カギ
- THAAD 中韓なお火種
- 対北で関係修復も
- 日米と首脳外交早期か
- 保守に反感 若者が支持
36面
- 文政権 多難な船出
- 少数与党「首相」「連立」カギ
- THAAD 中韓なお火種
- 対北で関係修復も
- 日米と首脳外交早期か
- 保守に反感 若者が支持
uttiiの眼
見出しを見ながら、あまりの突っ慳貪(つっけんどん)、冷淡さに、ついつい吹き出してしまった。1面トップ記事に付けられたソウル支局長による解説の見出し、「「理想主義」待ち受ける現実」
まあ、《朝日》
しかし、そうした報道の基調と別に、もう一つのラインが強調されているのがきょうの《読売》。
その自問に対する中島記者の答えは、「
この点については、7面に掲載された社会コンサルタント会社「オピニオンライブ」の世論分析センター長がさらに興味深い発言をしている。文氏を支持した若年層には、「
「革命」ではなく…
【毎日】は1面トップと2面3面の解説記事「クローズアップ」に「なるほドリ」、8、9面、社会面にも関連記事。見出しから。
1面
- 韓国大統領に文在寅氏
- 9年ぶり革新政権
- 国政介入事件 混乱収拾急ぐ
2・3面
- 慰安婦合意「再交渉を」
- 対北朝鮮 融和模索へ
- THAAD 慎重姿勢
- 日米と足並み乱れも
- 慰安婦問題 日韓合意って何?(なるほドリ)
8面
- 朴前政権 負の遺産
- 政経癒着の根絶急務
- 国民との対話なく
- 大統領制 高まる改憲気運
- 保守に厳しい審判
- 当選確定で即就任 閣僚人事先送りか
- 異例の船出
- 「成功モデル」陰り
- 韓国 低成長で不満増幅
5面
- 反朴氏の民意鮮明
- 国政介入 若者怒り
- 「盧武鉉の影法師」
- 民主化運動で逮捕歴
- 包容力ある政権運営期待
- 業績主義の政治に変化
- 格差社会が生んだ現象
31面
- 「日本と友好関係を」
- 新大統領に在日韓国人期待
uttiiの眼
3面は対北朝鮮関係、8面は保守に対する厳しい審判という側面、9面は文政権の課題に繋がる諸々のテーマといった書き分け方をしている。注目したのは9面。なかでも、ソウル支局長、米村耕一記者の解説と、木宮正史東大大学院教授のコメント。
米村記者は、韓国メディアが今回の政権交代を「市民革命」と表現していることに着目。朴前大統領の弾劾、罷免に繋がった一連の動きを捉えた言葉で、ハッキリとは書いてないが、選挙は「革命」の一シーンに過ぎないと言いたいようだ。「市民革命」とは、
文氏の所属する「共に民主党」は、「革命」の名に相応しく、
東大大学院の木宮正史教授は非常に面白いことを言っている。「
い。保守とリベラルの間の政権交代があって、……前の政権の業績が芳しくなければ、国民が選挙によって政権交代を実現する」と。また、盧武鉉政権の失敗は、保守系メディアを味方にできなかったことであり、金大中政権は反対に、敵対した人物を取り込んだり、敵対勢力が好む政策を断行したりしたのだという。そして、文氏には金大中氏を見倣うよう勧めている。さらに、「
表現方法には難があったが、支局長が言いたいのは国内政治を脱イデオロギー化する努力の必要性であり、教授が言っているのは、国内においてと同様、日韓関係のような国際関係においても、脱イデオロギー可が必要だという点だろう。
いつもの「政権交代」?
【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、5面の社説、
1面
- 韓国大統領に革新系・文氏
- 日韓関係 改善厳しく
2面
- 日米韓 対北連携に溝
- 韓国大統領に文在寅氏
- 北は革新政権の「融和」期待
- 貧しい幼少期■民主化求め学生運動
5面
- 「核危機」回避が使命だ 韓国大統領に文在寅氏(社説)
9面
- 中国、対北で変化の可能性
- 高高度ミサイルに揺さぶり
- 少数与党で前途は多難
- 首相人事の国会承認焦点
- 社会の亀裂修復が課題
- 開票完了直後に任期開始
- 就任式の規模 大幅縮小へ
uttiiの眼
外報面にユニークな内容がいくつか見られる。1つは、韓国大統領選の結果が及ぼす影響を、「中国」を主語にして語っていること。
朝鮮に対する姿勢が中国と似通った政権が韓国に誕生するという捉え方になっていて、対北朝鮮制裁で一旦は進むかに見えた米中協力も、例えば王毅外相が「今は交渉再開を真剣に検討すべき時だ」とホンネを見せ、綻びが見えてきていると。そのとき、文政権の誕生は「中国が米国の強硬方針にブレーキを掛けるために利用できる存在になる」と意味づけられている。当然、既に配備が始まっているTHAADについても、中国は引き続き配備撤回を求め、文氏も「
もう1点は、記事の下に付けられた、増田未緒記者による解説。まず、今回の選挙結果は「韓国で10年ごとに繰り返されてきた政権交代の風景」として「新鮮さが感じられない」と一刀両断。吃驚させられる。「国民統合」を掲げた文氏は、「積弊清算」
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