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韓国大統領選を日本はどう報じたのか? 新聞各紙の論調を徹底比較

朝鮮半島情勢が一時の緊迫した状態から落ち着きを取り戻しつつある中、朴槿恵前大統領の罷免を受けて行われた韓国大統領選挙。フタを開けてみれば下馬評通り、革新派の文在寅(ムン・ジェイン)氏の圧勝に終わりました。この結果は今後の日韓関係にどのような影響を及ぼすのか、マスコミでも意見が分かれているようです。はたして、今回の韓国大統領選の結果を、日本の主要な新聞各紙はどう報じたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんが詳細に分析しています。

韓国大統領選の結果を、各紙はどう報じたか

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「韓国大統領に文在寅氏」
《読売》…「韓国大統領に文氏」
《毎日》…「韓国大統領に文在寅氏」
《東京》…「韓国大統領に革新系・文氏」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「「反朴」受け皿は文氏」
《読売》…「対北包囲網に暗雲」
《毎日》…「対北朝鮮 融和模索へ」
《東京》…「日米韓 対北連携に溝」

ハドル

当然のように、韓国大統領選の結果を各紙、1面トップでも解説面でも大きく扱っています。今日のテーマは…韓国大統領選の結果を各紙はどう報じたか、です。

「反朴」受け皿

【朝日】は1面トップと2面の解説記事「時時刻刻」、3面に日韓関係についての記事、12面に識者の意見を紹介する「考論」、13面に韓国経済についてなど、16面社説、38面には在日コリアンの反応についての記事、とフルスペック。見出しから。

1面

2面

3面

12面

13面

16面

38面

uttiiの眼

見出しだけで26行と膨大になってしまうほど、基本情報に加えて、選挙戦ドキュメント、日韓関係、韓国経済から、果ては在日コリアンのリアクションまで、フルで扱っている

最もメタな次元の編集方針では、韓国に対する様々な立ち位置があるなかで、どれにシンパシーを感じる読者であっても、それなりの“居場所”を発見できるような情報を提供するということのようだ。

文氏を大統領に押し上げた力、敗れたとはいえ多数の票を獲得した2人の元候補とその政党、対北朝鮮政策の変化の予感に不安を感じつつ、他方、慰安婦合意の再交渉を拒絶する日本政府、その他。安倍政権は、「日韓合意の行方が今後の両国関係の最大の焦点と見ているのだそうだが、とりあえずは、文氏の外交ブレーンが「歴史認識問題と経済・安全保障を切り離す方針」を口にしていることで、胸をなで下ろしているのだろう。

興味深い指摘は2面。文氏は、「当選したら北朝鮮にまず行くと発言したり、在韓米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD配備について「次の政府に任せるべきだ」として、賛否を明らかにしなかったりした。それらを、特に保守系の他候補から批判され続けたのに、それによって支持率が落ちることはなかったというのだ。

そうした問題よりも、朴槿恵前大統領に対する批判の受け皿として、批判の先頭にも立っていた文氏に対する信頼と期待が大きかったのか、それとも、親北的な方向性や反米的な姿勢そのものを有権者が評価していたからなのか、ハッキリしない。

文氏は選挙戦中に米政府と接触し、「米韓同盟を最も重視すると伝えたという。他方、これは韓国政府の元高官の話とされているが、朴槿恵政権でも中国に気遣って南シナ海問題で米国支持を明確に打ち出さなかったのだから、文政権が米支持を打ち出すことは考えられないとも。いったい、どっちなんだ

「親北・反日」を貫くのか

【読売】は1面トップに2面の「ニュースQ+」、3面の解説記事「スキャナー」と社説、6面に文氏のプロフィール、7面は特集記事「韓国大統領選」と識者の話、36面は在外投票を行う在日韓国人について。見出しから。

1面

2面

3面

6面

7面

36面

uttiiの眼

見出しを見ながら、あまりの突っ慳貪(つっけんどん)、冷淡さに、ついつい吹き出してしまった。1面トップ記事に付けられたソウル支局長による解説の見出し、「「理想主義」待ち受ける現実」というのもなかなか凄いが、「日韓 遠い未来志向」に「対北包囲網に暗雲」と来て、「貧しさ知る「庶民派」」で少しだけ持ち直したかと思いきや、「日本とつながり皆無」で「産業構造改革に無関心」と突き放し、社説に至っては「文氏は「親北・反日」を貫くのか」と、もう半泣きの状態に。

まあ、《朝日》と違って立場がよく分かるというメリットは確かにある。北朝鮮との対話路線がもしかしたら増大させるかもしれない安全保障上の“危機”、新大統領の対日強硬姿勢が国内における求心力回復の“打ち出の小槌”に使われるのではないかという懸念など、全くの絵空事ではない以上、日本政府と立場を同じくする読売》ならば、心配でならないはずだ。

しかし、そうした報道の基調と別に、もう一つのラインが強調されているのがきょうの《読売》。上に見出しを紹介した中島健太郎ソウル支局長の解説は、金正恩朝鮮労働党委員長を対話相手とみなす理想主義者」の文氏を、朝鮮半島情勢緊迫化の中で韓国国民が大統領に選んだのは何故かという、重要な問いかけをしている。

その自問に対する中島記者の答えは、「対北認識をめぐる世代間のギャップ」。有権者の半分を占め、就職難などで社会の歪みを実感する20歳~40歳の若年層は、北朝鮮の脅威への対応よりも、韓国社会の不平等是正の方が遙かに重要だと考えたのだという。北朝鮮の脅威を実感する残りの有権者、高齢層は、2人の候補に票を分散させ、文氏の当選を許したという分析となると少々図式的に過ぎるような印象だが、若者がこぞって革新系に投票したという単純な事実に重みがあると言わなければならないだろう。

この点については、7面に掲載された社会コンサルタント会社「オピニオンライブ」の世論分析センター長がさらに興味深い発言をしている。文氏を支持した若年層には、「雇用問題を解決できない保守政権への反感」が強かったこと、また、保守地盤でも文氏が一定の支持を受けたのは、高齢者との「世代間の分離」が進んだからであって、今回の選挙は「地域間の対決から世代間の対決になった」とする。2位だった洪氏は保守層を結集させる時間が足りず、また放言が多かったため支持が広がらず、また3位に甘んじた中道左派の安氏は、地盤が光州と全羅道に限られ、全国的な組織力を持っていなかったという。ここから先は《読売》に書いてないことだが、今回の大統領選で、洪氏は保守の新しい価値を纏うことができず、安氏は旧態依然たる地方ボスの範囲を出られず、ただ1人文氏だけが、格差という、韓国社会を覆う最も深刻かつ巨大な問題に取り組む政治家として有権者の前に立つことができたということではないか。

「革命」ではなく…

【毎日】は1面トップと2面3面の解説記事「クローズアップ」に「なるほドリ」、8、9面、社会面にも関連記事。見出しから。

1面

2・3面

8面

5面

31面

uttiiの眼

3面は対北朝鮮関係、8面は保守に対する厳しい審判という側面、9面は文政権の課題に繋がる諸々のテーマといった書き分け方をしている。注目したのは9面。なかでも、ソウル支局長、米村耕一記者の解説と、木宮正史東大大学院教授のコメント。

米村記者は、韓国メディアが今回の政権交代を市民革命と表現していることに着目。朴前大統領の弾劾、罷免に繋がった一連の動きを捉えた言葉で、ハッキリとは書いてないが、選挙は「革命」の一シーンに過ぎないと言いたいようだ。「市民革命」とは、韓国社会に溜まった様々な不満を梃子に、社会を大きく変えようとする動きを指すものと思われる。

文氏の所属する「共に民主党」は、「革命」の名に相応しく、裁判とは別に前大統領の問題を徹底追求する方針だそうで、記者は「9年間に及んだ保守政権への激しい敵意がにじみ出ている」と見た。ところが、文氏自身は、若者の就職難を解消するための(地味な?)施策を公約の1番目に掲げていて、この点が、米村記者の眼には党と大統領の間の「ギャップ」と映るらしい。そして、こうした「ギャップ」が生じる原因の1つが、「文氏周辺に現実主義者と原則主義者が入り交じっている」ことだと言っている。しかし、そもそも、これを「ギャップ」とか「矛盾」と捉える必要があるのか、疑問だ。支局長の結論として「文氏には、大仰な「革命」よりも、実利的なテーマで多様な政治勢力と協力する包容力のある政権運営を期待したい」というのは、少数与党の現実を見れば当然のこととも言えるだろう。十分理解できるが、党には党のイデオロギーがあり、それによって結束が保たれていることを無視することもできまい。支局長の「提案」が、大統領と「共に民主党」に対して、保守に対する攻撃を控えよという意味なのだとしたら、それは無意味なことだと思われる。

東大大学院の木宮正史教授は非常に面白いことを言っている。「韓国の民主主義はもともと、国民の力で勝ち取ってきたという側面が強
い。保守とリベラルの間の政権交代があって、……前の政権の業績が芳しくなければ国民が選挙によって政権交代を実現する」と。また、盧武鉉政権の失敗は、保守系メディアを味方にできなかったことであり、金大中政権は反対に、敵対した人物を取り込んだり、敵対勢力が好む政策を断行したりしたのだという。そして、文氏には金大中氏を見倣うよう勧めている。さらに、「対日関係では与野党間に大きな違いはない」のであり、対日関係が「保守政権は良く」なり、「リベラル政権は不安定」とは言い切れないのだそうだ。必要なのは、「慰安婦問題などは日韓関係の中でできるだけ最小化し、北朝鮮の核ミサイル危機への対応、米中への対応、経済協力など、日韓で利害が共有できる部分を少しずつ増やしていくことだ」とする。

表現方法には難があったが、支局長が言いたいのは国内政治を脱イデオロギー化する努力の必要性であり、教授が言っているのは、国内においてと同様、日韓関係のような国際関係においても、脱イデオロギー可が必要だという点だろう。

いつもの「政権交代」?

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、5面の社説、9面外報面の記事。見出しから。

1面

2面

5面

9面

uttiiの眼

外報面にユニークな内容がいくつか見られる。1つは、韓国大統領選の結果が及ぼす影響を、「中国」を主語にして語っていること。
朝鮮に対する姿勢が中国と似通った政権が韓国に誕生するという捉え方になっていて、対北朝鮮制裁で一旦は進むかに見えた米中協力も、例えば王毅外相が「今は交渉再開を真剣に検討すべき時だ」とホンネを見せ、綻びが見えてきていると。そのとき、文政権の誕生は中国が米国の強硬方針にブレーキを掛けるために利用できる存在になる」と意味づけられている。当然、既に配備が始まっているTHAADについても、中国は引き続き配備撤回を求め、文氏も「配備は次期政権が決める」と、「中国に期待を抱かせる発言をしている」と。トランプ政権がTHAADの配備費用について韓国の負担を求め始めていることも絡んでくるという。

もう1点は、記事の下に付けられた、増田未緒記者による解説。まず、今回の選挙結果は「韓国で10年ごとに繰り返されてきた政権交代の風景」として「新鮮さが感じられない」と一刀両断。吃驚させられる。「国民統合」を掲げた文氏は、「積弊清算」を強く訴えていたが、中道の安氏の支持が高まると、保守層を意識して一時的に主張を控え、逆に保守の洪氏が追い上げると、前政権への批判票を固めるため、強い主張を繰り返したという。かなり“柔軟”に姿勢を変えている様子には、私でも若干の不安を感じるが、大丈夫だろうか。選挙戦中の様々な出来事により、それまで安氏を支持していた保守層が北朝鮮への融和策を懸念するようになり、曖昧な安氏に失望、その分が保守候補に流れて洪氏が急浮上したので、文氏も対策を取る必要があったということのようだ。一時、「文氏か安氏か」と言われていたのに、蓋を開けたら安氏が洪氏に抜かれて3位に沈んだことに驚いたのだが、これで理由が分かった。

image by: Sagase48 / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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