極右政党のルペン氏を破り、見事フランスの新大統領に選ばれたマクロン氏。これまで2回に渡り同氏を分析してきた無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんですが、今回はマクロン氏率いるフランス政府に変わることで、世界にどのような影響が出るのかについて考察しています。気になる日本への影響は…?
フランス・マクロン大統領誕生で、世界はどう変わる?
皆さんご存知のように、フランス大統領選挙で、ナショナリストのルペンさんが負け、グローバリストのマクロンさんが勝ちました。マクロンさんについては、これまで2回記事を出しました。
● 経歴(歳の差略奪婚で、逆に人気者に。ロスチャイルド系エリート)
→「略奪婚で逆に人気上昇。フランス大統領候補・マクロン氏の素顔」
● 今回の選挙の意味(ナショナリスト対グローバリスト)
→「極右敗北。仏大統領選マクロン勝利で始まるグローバリズムの逆襲」
まだの方は、こちらをまずお読みください。理解が深まります。
EU崩壊の危機は、ひとまず回避された
ルペンさんは、「大統領になったらEU離脱の是非を問う国民投票を行う!」と宣言していました。つまり、彼女が大統領になったらEUは事実上崩壊する可能性があった。しかし、マクロンさんが勝ったことで、EUは救われました。
そうはいっても、EUの未来は、あまり明るくありません。中東・北アフリカ、つまりイスラム圏から大量難民を受け入れ続けることで、長期的に「欧州キリスト教圏」は、「イスラム圏」に飲み込まれてしまうでしょう(もちろん難民の皆さんはかわいそうで、救済すべきですが、EUに与える影響は、客観的に見る必要があります)。
アメリカとの関係は、改善される
アメリカのトランプ大統領は、同じナショナリストのルペンさんを応援していました。フランスのオランドさんは、ヒラリー支持で、トランプをバカにしていたので、仲が良くなかった。今回、ルペンさんが負けて、トランプはがっかりしたことでしょう。
とはいえ、アメリカとフランスの関係は、今よりマシになりそうです。理由は、トランプさん自身が圧力に負け、「オバマ化」しているから。
ロシアとの関係は、今と変わらず
フランスは、クリミア併合後、ロシアに制裁しています。プーチンは、ナショナリストのルペンさんを応援していました。ルペンさんは今年1月、「私が大統領になったら、『クリミアは、ロシアの領土』と認める」と発言していた。しかし、ルペンさんが負けたので、プーチンはがっかりしたことでしょう。
フランスとロシアの関係は、オランド時代と変わらないだろうと思います。つまり、フランスは、対ロシア制裁を続ける(トランプが、制裁解除を決断したら、それに続くと思いますが)。
しかし、ウクライナ問題では、ロシアと協力を続ける。あまり聞かなくなったウクライナ内戦。2015年2月、オランド、プーチン、メルケル、ポロシェンコが、停戦合意に達しました(ミンスク合意)。その後も、小規模な戦闘はありますが、一応この合意が今も継続していることになっています。フランスとロシアは、ここで協力関係にある。
中国との関係は良好
オランドさんは2015年3月、オバマさんを裏切って中国主導「AIIB」への参加を決めました。欧州は、「親米」と思われがちですが、イギリス、ドイツ、フランスの「欧州3大国」は、「親中」でもあります。
欧州は、中国から離れているので、この国の「脅威」を感じません。逆に、距離が近いロシアの距離を感じる。それで、中国については、真っ先に「金儲け」のことを考えてしまう。だから、親中なのです。彼らにとっては、「尖閣問題」「南シナ海埋め立て問題」は、正直どうでもいいこと。
習近平、2015~2016年は、「中国の夢」を追いすぎてナショナリストになり、グローバルエリートに嫌われていました。しかし、2017年1月のダボス会議で、「グローバリズム絶対支持宣言」をし、エリート達と和解しています。
マクロンさんもそっち系(エリート・グローバリスト)ですので、中国とはうまくやっていくことでしょう。
日本との関係は変わらず
安倍総理は、「日本を取り戻す!」「東京裁判は勝者の断罪!」「侵略の定義は定まっていない!」などなど、グローバリストを刺激する「ナショナリスト」として登場しました。それで、中国の一大反日プロパガンダもあり、2013年末から14年はじめまで、かなり苦しくなっていた。
しかし、2014年3月のクリミア併合、15年3月のAIIB事件を通してオバマさんと和解。オバマさんの任期末期、日米関係は久しくなかったほど良好になっていました。そして、トランプさんとも、とても良い関係を築いています。
安倍総理は、「ナショナリズム」と「グローバリズム」のバランスをとることを学ばれたのでしょう。おかげさまで、敵対するアメリカ、ロシア、両国と良い関係を築いている。欧州との関係も、2013年末~14年はじめと比べるとずいぶん良くなってきました。
マクロンさんになって、日仏関係は、オランド時代とあまり変わらないでしょう。
まとめると?
「EU離脱」を掲げるルペンさんは、負けました。マクロンさんは、より穏健です。マクロン外交を、一言でいえば、「これまでとあまり変わらない」ということでしょう。「良いかどうか?」はわかりませんが、「対応しやすい」とは言えそうですね。
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