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日本政府が語らぬ「ミサイル飛来なら逃げ場なし」の現状

先日公開した「軍事アナリストが分析、政府の「在韓邦人避難」が非現実的すぎる」という記事で、政府が提示する「在韓邦人避難」の方法があまりに現実離れしている現状を明かした、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さん。しかし、それは日本国内のミサイルからの避難においても同様のようです。小川さんが指摘する、「弾道ミサイルにお手上げ状態」の日本の現状とは?

ミサイル警報──セーフは数分で避難完了

北朝鮮は5月14日早朝、北朝鮮北西部の亀城(クソン)付近から弾道ミサイルを東北東方向に発射、ミサイルは30分で800キロ飛んだあと、朝鮮半島の東約400キロの日本海上に落下したと推定されています。到達高度は初めて2000キロを超えたとのことです。

亀城付近の飛行場では1日前から移動式発射装置を使い、ミサイルを起立させる動きが観測されており、米国韓国などの目にとまることを意図していたと思われます。

この飛行場付近からは2016年10月に中距離弾道ミサイル・ムスダンが発射されています。

そこで、まずはミサイルについてですが、発射地点の履歴、飛翔距離、飛翔高度、飛翔時間などから、中距離弾道ミサイル・ムスダンあるいは新型の弾道ミサイルを、それも高度2000キロ以上のロフテッド軌道で発射したと考えることができます。

これが、北朝鮮の言う「大陸間弾道ミサイルICBM)」である可能性も否定できないとの見方もあります。

ミサイル発射の狙いについては、5月8〜9日にノルウェーのオスロで行われた米朝接触(北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と米国のピカリング元国連大使が出席)、韓国で北朝鮮に対して融和的とされる文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生したこと、という対話に向けた流れを受けたものと受け止めてよいでしょう。

具体的には、1)決して米韓の圧力に屈した結果の対話ではないことを北朝鮮国内に周知徹底させる、2)米韓との対話における強い交渉カードとして、能力を高めた弾道ミサイル能力を誇示しておく、などが考えられます。

どんな方向に動いていくのか、隣国の日本としてはまだまだ気を許すわけにはいかない日々が続きそうです。

そんなおり、次の記事のことを思い出しました。

領海外でも北朝鮮からのミサイル発射情報を数分で通知 政府がシステム導入

「政府は、日本の領空・領海外で運航している船舶や航空機に対し、北朝鮮からのミサイル発射情報を素早く伝えるシステムを導入した。担当者が個別に行っていた連絡を自動化し、発射から十数分かかっていた伝達時間を数分にまで短縮できるという。

ミサイルが領土・領海内に着弾すると想定されるときや日本上空を通過する場合は、内閣官房が関係機関や自治体などに一斉通知する「Em-Net(エムネット)」が速報。船舶や航空機にも情報提供される。

 しかし領土・領海の外への着弾が想定されるケースは、エムネットの対象外。これまでは国土交通省の担当者が個別に航空会社や船舶会社にメールを送信していたが、早くて十数分かかっていた。

 新システムは、内閣官房から国交省に届いたミサイル発射情報を、事前登録した航空・船舶会社に自動送信することで、時間を数分に短縮する」(5月11日付産経新聞)

領土・領海への着弾や日本上空の通過が想定される場合は、Jアラートとエムネットの双方を使って緊急情報が伝えられることになっています。

Jアラートとは、全国瞬時警報システムの通称で、通信衛星と市町村の防災行政無線や有線放送を利用し、住民に緊急情報を瞬時に伝えるシステムです。ミサイル飛来の事態ではサイレンが鳴ることになっています。

エムネットのほうは、緊急情報ネットワークシステムのことで、総合行政ネットワーク(LGWAN)を利用して地方公共団体と双方向で通信するシステムです。警告音を伴ってメールが着信する形ですが、あくまでも自治体に対するもので国民一般に警報が直接的に伝えられるものではありません

一見したところ、国民の安全を図るための取り組みが着々と進んでいるような印象を受けます。

しかし、これまでにもお伝えしてきたように警報に伴う住民の避難となると、形だけの訓練がようやく行われた段階に過ぎず、都市部であると地方であるとを問わず、避難場所さえ整備されていない状態です。

たとえ、ミサイル発射から数分で警報が出されたとしても、全くのお手上げというのが日本の実情といってよいでしょう。

国民全体が問題意識を持ち、早急に安全対策が進められるように、北朝鮮の弾道ミサイル発射の探知から着弾(または上空通過)までの時間的な流れを整理しておきましょう。

1)弾道ミサイル発射の情報は米国の早期警戒衛星から北米航空宇宙防衛司令部を経て自衛隊側に伝達されます。

伝えられる早期警戒情報(SEW)には、発射地域、発射時刻、落下予想地域、落下予想時刻などが含まれています。

2)航空自衛隊のJ/FPS-5警戒管制レーダー(通称ガメラレーダー)も、発射直後のミサイルを探知して早期警戒情報を発信します。

3)弾道ミサイル発射の情報は海上自衛隊のイージス艦(BMD艦)と航空自衛隊のパトリオットPAC3の部隊には1分以内、そして首相官邸に約1分で伝達されます。

4)これまでの発射事案では、たとえば人工衛星打ち上げ名目で発射されたケースなどの場合、コースが予告された南西諸島方面に展開したイージス艦、宮古島上空を守る航空自衛隊のパトリオットPAC3の部隊は、発射1分ほどで迎撃態勢に入っており、その3分あまりあとに上空を通過しています。

このようにして飛来するミサイルです。それが東京に向かった場合、探知から着弾まで約7〜8分ほどとされています。いかに発射を探知してから迎撃するまでの時間が短くとも、そしてJアラートの警報(サイレン)が発射数分後に出たとしても、4〜5分でシェルターなどへの避難を終わらなければ被害は避けられないことがわかるでしょう。

ミサイル防衛の能力を強化することはむろんのことですが、避難訓練の定例化避難場所の建設を同時に進めなければ、国民の安全を図ったことにならないことを、いま一度思い起こしてもらいたいものです。

(小川和久)

image by: shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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