憲法9条は改正可能なのか? 安倍政権の描く「加憲」のシナリオ

 

この切り崩しに民進党は耐えられるのか

公明党は元々「加憲」路線だから、この理屈にはなかなか抵抗しがたいだろう。同党の北側一雄=副代表は9条改正についてこう語っている(週刊「エコノミスト」16年8月30日号)。

9条1項、2項の改正には反対だ。自衛隊の存在を憲法に明記すべきかどうかは将来的に議論してもいいと考えている。……現状では自衛隊を憲法違反だと考える国民は一部で、すぐに9条改正を議論する必要があるとは思わない。

(安保法制では自民党の解釈改憲に加担したのでは?)全く逆だ。9条の政府解釈の根幹を維持しながら、厳しさを増す安全保障環境に対処する法制を作ったものだ。公明党がいなかったら違った法律になっていたかもしれない。

(自民党とは憲法へのスタンスが根本から異なる?)自民党といっても一枚岩ではなく、憲法に対する考え方は幅広い。どうであれ、私たちの役割は大きいと思っている。おそらく、私たちがダメと言っている限り、何も進まないだろう……。

さて今回のような球の投げ方で攻められた場合、本当に歯止め役が務まるのかどうか

微妙なのは民進党も同じで、例えば前原誠司=元代表は最近のインタビューでこう述べている(「週刊東洋経済」17年5月13日号)。

私は改憲ではなく「加憲」を主張してきた。9条第3項、あるいは10条といった形で、自衛隊の存在を明記してはどうかと考えている……。

これでは安倍首相と同じにならないかと本人に糾すと、「まず現行の9条1項、2項をしっかりと守ることが大事であって、その上で自衛隊の位置づけは議論していけばいいのではないか。今その問題が焦眉の課題でもない」とのことであったが、今ひとつ釈然としない。

枝野幸男=民進党憲法調査会長は最近の新聞のインタビューで、「枝野氏は13年に、現行の9条を残し、必要最低限の自衛権行使を認める条項を加える私案を発表した。首相の案と似ている?」と問われて、こう答えている(5月17日付毎日)。

それはまやかしだ。制定以来、蓄積されてきた9条の解釈を今後も維持するかどうかがポイントになる。単純に自衛隊の存在を書いた条項を追加するだけでは、1項、2項との整合性だけでなく、新たな条項をどう解釈するかという問題が生じる。安倍内閣は、安保関連法案で従来の解釈をいとも簡単に変えた。専守防衛で海外での武力行使はしないことを基本線にした私の案とは違う……。

ここに実は安倍=伊藤の新提案を捉えるポイントがあって、彼らが維持し守ると言い出した1項と2項は、すでに解釈改憲の閣議決定によって変容させられて集団的自衛権の部分解禁という形で専守防衛原則からはみ出した1項2項だということである。枝野氏が言うように、「蓄積されてきた9条の解釈を今後も維持する」ためには、14年7月1日の閣議決定を廃止し、従ってそれを根拠とした安保法制を廃止しなければならないわけで、それをしないで「1項、2項はそのままだからいいでしょう」と言われても、民進党は乗ることはできないはずである。つまり1項、2項の裏側に貼り付いた解釈改憲の閣議決定を引き剥がさない限りこの議論は始まらないということである。

さて、維新の会は、昨年3月に

  1. 道州制を含む統治機構改革
  2. 保育園・幼稚園から大学までの全教育の無償化
  3. 憲法裁判所に新設

──を柱とした改憲案を発表しており、そもそも9条改正を前面に出すこと自体に積極的ではない。同党の馬場伸幸幹事長は最近の雑誌でこう述べている(文藝春秋5月号)。

改憲イコール9条と思い込んでいる人が多い。私は一度憲法を改正できれば、今後は社会情勢や時代に合わせた改憲が何度もできるようになると考えているから、その入り口でわざわざ国民の多くが不安を感じるデリケートな話題に照準を当てる必要はないと思う。さらに、安全保障の面を考えれば、一昨年「安保関連法」が成立したから、今すぐ9条を変えないと日本を守れない、という状況ではない。

9条に自衛隊の位置づけを明記するような改正を否定する気はない。そこは今後じっくり時間をかけて議論していけばいいと思う……。

というわけなので、維新を強く引き込むためには9条だけでは足りないと見て、安倍首相は「教育の無償化のための26条の改正という維新の積極的な提案を歓迎する。……維新の提案を受けて多くの自民党員が刺激された」(読売インタビュー)などとお世辞まで添えて大学の無償化をメニューに付け加えた。民主党政権で実現した高校授業料の無償化に反対した自民党がなぜ大学授業料の無償化に賛成なのか分からないし、高校の無償化が改憲なしに1本の法律だけで実現したのに大学となるとなぜ改憲が必要になるのかも分からない。デタラメである。

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