今も不動の人気を誇る、海外ドラマ『セックス・アンド・ ザ・シティ』。メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者で、米国の邦字紙「WEEKLY Biz」CEOの高橋克明さんがアテンドした日本人にもよくドラマの舞台になったカフェに行きたいとリクエストされるのだとか。しかし、高橋さんは『セックス・アンド・ ザ・シティ』を観ただけでNYやアメリカを分かった気になっている日本人がいるといい、そんな人たちがいかに勘違いをしているか、とことん考察しています。ちなみに、このドラマが好きな美魔女の方は記事をお読みにならないことをお勧めします。
考察・セックス・アンド・ザ・シティ
日々、、、というのは大げさかもしれませんが、毎月何組か日本からのお客様をアテンドしています。 ツアコン、とまではいきませんが、空港まで迎えに行ったり、ホテルまで案内したり、時間があれば行きたい場所まで連れていったり。
その中でも多いのは「セックス・アンド・ザ・シティの舞台になったカフェに行きたい!」というリクエスト。 カフェの部分が、バーになったり、レストランになったり、アパートメントになったりはしますが、とにかくあのHBO制作の連続ドラマの人気はいまだにスゴいです(もちろん、90%は女性のお客様ですが)。あ、ちなみにミスタービッグ役の彼。 無名時代は日本食レストランでバイトしてたんですよ。 うちの広告クライアントのお店で。
最初のシーズンが放送されたのは1998年。言ってみれば90年代のドラマなわけです。 もう20年近く前。2004年に終了し、15年近く新作が放送されてないにも関わらず、です(映画版は2010年公開。興行成績的には大失敗に終ったけど)。
確かにエミー賞、ゴールデングローブ賞、などに幾度もノミネート、受賞をし、アメリカ人の間でも当時は大人気でした。
ただ、、、アレを観て、「ニューヨークがわかった」(ひいては「アメリカがわかった」)ような気になられるのは、ちょっと違うかな、と思います。 いや、だいぶ、違うかな、と。
まず、舞台となったエリアから考察します。これは単純に面積の話。
あのドラマの舞台となった場所は、アメリカ合衆国の、ニューヨーク州の、ニューヨーク市の、マンハッタンディストリクトの、ロウワーエリア、になります。
ざっと計算すると国土の320000分の1の大きさです。適当な教室を思い浮かべたとしたら、そこにある机の上の消しゴムの大きさにもならない。適当な公園の砂場を想像して、手の平のひとすくいの砂にもならない。残りの砂場すべてがニューヨーク州で、公園全体がアメリカが州国です。
ちなみに日本ほど、アメリカ人は国内を気軽に行き来しません。これは文化の違いかもしれないし、国土の大きさの違いかもしれませんが、アメリカの田舎に住んでいる人間にとってのニューヨーク(特にニューヨーク市)は、もはや外国です。
島根県の郊外に住まわれている方にとっての東京より、はるかに精神的にも、実際の地理的にも、遠い。
例えば、オクラホマ州の農家の人から見る「セックス・アンド・ザ・シティ」は、まだ海外旅行をしたことがない日本の日本人から見る「セックス・アンド・ザ・シティ」と変わらない。 いや、もっと遠いかもしれません。
オクラホマ州の農家の人と「セックス・アンド・ザ・シティ」の主人公たちの共通点は、同じアメリカ人という国籍だけで、近代的な生活であったり、ネット環境の文化であったり、リベラルな宗教観であったり、ひょっとすると「人間」としては、東京で暮らす日本人の方がずっと近いかもしれません。
そのくらい、アメリカは広い。 精神的にも、実質的な距離的にも。
つまりは、この国のほとんどの人にとっての「セックス・アンド・ザ・シティ」は、日本の「セックス・アンド・ザ・シティ」に憧れる美魔女軍団と変わらないくらい外国、に見えるはずです。なので、あのドラマに「アメリカ」は描かれていない。ほんのごく一部の特殊なエリアのことしか描かれていない。
もちろん地理的な大きさはたいして問題ではないかもしれません。
渋谷のスクランブル交差点で、日本全体を想定することはできる。なので、「そんなこと言ってもキリがないじゃないか!」と言われるかもしれません。
ただ単一民族で、国民総インテリの日本とは、ちょっと比較しづらいのも事実です。
とりあえず、まずは、面積的に、あまりに小さなエリアであることを頭に入れておいてください(ただ、その小さなエリアはこの国の他に類をみないほどの圧倒的な都内部分ではあるのだけれど)。
次に、人種分布図的に考察します。
彼女たち(主人公の4人)は、おそらくスコティッシュ系か、アイリッシュ系、ユダヤ系のコケージョン。
もし、人種差別というものが、人種カースト制度というものがまだ存在するのであれば(てか、実際存在するけど)彼女たちは稀に見るアッパークラスの人種になります。そのピラミッドの一番上の上。
特に彼女たちの職業は、コラムニストであったり、法律事務所のパートナーであったり、上流階級のトップクラス。
人種的に、と、職業的に、とを掛け合わし計算すると、わずか0.006%のステータスの人たちになるそうです。20万人にひとり(笑)
もちろんこの街は他の19万9999人で形成されています。NYに旅行で来ても、この20万にひとりの人とはおそらくスレ違うこともできない。まず観光客の行く場所には絶対いない。
もちろん「セックス・アンド・ザ・シティ」の聖地巡礼ツアーにエントリーされている「実際に撮影で使われたカフェ」にも絶対いません。
あ。 誤解しないでくださいね。ドラマが好きで、そのロケ現場に見学に行く、とか、ドラマの中の生活スタイルを真似るという感覚を決してイヂってるわけではありません。むしろ、僕も全然“そっち派”です。めちゃくちゃわかる、というか僕自身がモロそんな人間です。
ブラッド・ピットがあの映画でしてたサングラスをわざわざネットで買ったり(笑)、トム・クルーズがあの映画でしていた時計を買い求めたり(笑)、実際、映画「トップガン」の撮影舞台となったサンディエゴのミラマー基地には渡米して、スグに巡礼したし(笑)、まったくもって、聖地巡礼ミーハーツアーが大好きな人間です(ハート)。僕の場合はドラマではないけれど、映画に影響されまくる側のタイプです。
ただ、ブラピのしていた時計をしてもブラピになれないように、あのドラマを観て、本当のニューヨークがわかったような気になるのは絶対違うよ、という話なだけです。
そして、あのドラマはHBOというテレビ局が制作しているのですが、実はNY市から、HBOにはお金が出ています。
つまり、どういうことか。街をあげての世界的「町おこし」プロモーションビデオ、の側面もある、ということです。
とにかく必死で、スタイリッシュでカッコよく作ってくれ、と。で、このドラマに憧れる世界中の女性がこの街に観光に来て、お金を落とす。
もちろん、あのドラマの普遍的な人気は、実際に起こりうる、女性の社会における色々な問題を鋭く描いたところです。それはそれでとてもリアルであったからこその、エミー賞であり、ゴールデングローブ賞。あのドラマのクオリティの高さは周知の事実です。
でもいまだに聖地巡礼ツアーが大盛況なのは、主人公の住んでいた設定のアパートメントで撮影する観光客が世界中からやってくるのは、脚本自体のクオリティーの高さ以上に、ドラマの中のライフスタイルそのものが人を惹き付けたと言っていいと思います(だってそうじゃないと毎年のアカデミー賞受賞作が、そのつど聖地巡礼ツアーを開催しないと話のつじつま合わないもんな。やっぱり脚本以上に、ファッション、雰囲気、生活スタイルが売りだった、ということなんじゃないのかな)。
映画やドラマにそんな細かいこと言ってもしょうがないじゃないか、と言われるかもしれません。
例えば「アベンジャーズ」を観て、実際にアメリカにアイアンマンが存在する と思う人はいない。それと同じで、 実際に「セックス・アンド・ザ・シティ」の主人公達が存在しないのはみんな知ってる。同じじゃないか、と。
でも「アベンジャーズ」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」はアクション作品。あの映画を観て、実際にアメリカでヒーロー達がビルを崩壊しながら戦闘していると思っている人はいないはずです。今現在、カリブ海であんな格好で活動している海賊が現存すると思って観ている観客はほぼゼロなはずです。でも「セックス・アンド・ザ・シティ」はライフスタイルを唄っている。ニューヨーカーの生活自体を前面に出しています。実際のニューヨーカーはこんな生活をしているのだ、と。だからこその聖地巡礼ツアーであり、主人公達が飲んでいたカプチーノを同じカフェで飲みたいと思う人が続出するのだと思います。
実際のニューヨークと、そこに住んでいるニューヨーカーを売りにするのであれば、あまりにエリア的にも、人種的にも希少すぎる、と思うのです(それこそ、今現存するカリブの海賊並みの希少さです。 “キャリー、ほとんどジャック・スパロウ説”を立証出来そうです。 パーセンテージ的に)。
ちなみに、マンハッタンは、行政的にテレビの撮影にはすごく積極的で、日々、ドラマの撮影をしている現場を目撃します。 本当によくよく目にします。 毎日、、はちょっと大げさかもしれないけど、見ない週はないくらい。
レキシントンアベニュー沿いにある僕の自宅の真ん前は、なぜか(たぶん、駐車場の関係か)ほんんんとーーーーに、よくドラマの撮影クルーのトレイラーが駐車されています。 もう、嫌ってくらい、玄関の目の前に俳優陣のトレイラー。 引っ越し当初はミーハーな僕は写メ撮ってましたが、あまりに日常的なので、ちょっと迷惑。 ベビーカーを押しながら外出しなきゃいけない妻は、遠回りを強制的にさせられるので、毎回、ブチキレてます(笑)。「セックス・アンド・ザ・シティ」の撮影現場も見たことがあります。
当たり前だけど、ADは日本のAD以上に、、衛生的ではない格好をしていました。 撮影現場には、テーブルがあり、「フレッシュメント」と呼ばれる、簡単な軽食が置かれています。 日本のドラマの撮影時のような気の利いたお菓子みたいなものはありません。 だいたいが、リンゴとバナナとクッキーとマフィン。 どこで見てもだいたいこればっかり。 汚い格好をしたADが汚い手のままマフィンをほおばってました。
テレビのスクリーンに映るスタイリッシュでオシャレでファッショナブルでとれんでーな「NY」を撮るために。
スクリーンの向こうのキレイな「シティ」。 汗まみれで食べるマフィンが、そこにある「街」。
どっちが本物の生の「ニューヨーク」か。
旅行者ではない僕たちには、汚い格好をしたADが本物で、かつ、よりカッコいいと知っています。
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