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ドイツの怒りを買ってしまったトランプ。一体、何があったのか?

深刻さを増している、「グローバリスト」と「ナショナリスト」の対決。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんがかねてから指摘していたことが現実になっています。以前からナショナリストを自負し、「アメリカ第一」を公言してきたトランプ大統領ですが、今度はEUの「盟主」にしてグローバリズムを提唱するドイツの怒りを買ってしまったようです。一体、何が起きているのでしょうか?

メルケル、「自らの運命のために戦う」

何のことでしょうか?

米英はもう頼りにできない、メルケル独首相が警告

AFP=時事 5/29(月)14:02配信

 

【AFP=時事】アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)独首相は28日、ドイツ南部ミュンヘン(Munich)での選挙集会で、英国の欧州連合(EU)離脱やドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の就任で欧米の同盟関係に亀裂が走る中、欧州は「その運命を自ら握らねばならない」と訴えた。

トランプのせいで欧米の同盟関係に亀裂が走っている」そうです。どういうことでしょうか?

メルケル首相は、27日までイタリアで開催されていた先進7か国(G7)首脳会議(サミット)から帰国したばかり。サミットでは温暖化対策の国際枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」をめぐり、米国とその他6か国の意見が対立し、合意に至らなかった。メルケル氏はこの「6対1」の議論の結果について「極めて不満とまでは言わないが、極めて困難だった」と評していた。

温暖化対策パリ協定」をめぐって、アメリカと他6か国が対立関係になってしまった。これまでは、アメリカの大統領が、「こうしようぜ!」と言い、他の6か国が「そうしましょう! そうしましょう!」と服従する関係だったのです。メルケルさんは、さらに言います。

「われわれが他国を完全に頼りにできた時代は終わりつつある。私はそれをこの数日間で経験した」。聴衆に向けてこう述べたメルケル氏は、ドイツも欧州も米英との友好関係維持に努める一方で、「自らの運命のため闘わなければならない」と主張。ドイツ政府はエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)仏新大統領との関係を強化する必要があると続けた。

要は、「アメリカはもはや頼りにならない」ということですね。そして、「自らの運命のため闘わなければならない」と。具体的には、「フランスとの関係を強化する」。

メルケル・ドイツとトランプ・アメリカの対立は深刻みたいです。これは、「グローバリスト」メルケルと「ナショナリスト」トランプの争いですね。

ドイツ外相、「トランプを批判しないのは『罪』」

さて、トランプ・アメリカへの反逆を決意したのは、メルケル首相だけではありません。外相のガブリエルさんも、同じというか、もっと強烈です。

「トランプ政権、欧米を弱体化」 独外相が批判

CNN.co.jp 5/30(火)9:34配信

 

(CNN)ドイツのガブリエル外相は29日、トランプ米政権の政策を「欧州連合(EU)の利益に反する」と批判し、それが欧米の弱体化を招いているとの見方を示した。首都ベルリンで開かれた移民対策会議の場で語った。

トランプさんの何が、「EUの利益に反する」のでしょうか?

トランプ大統領は先週、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で集団防衛への支持を明言せず、一方で加盟各国に国防費の増額を要求。主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、気候変動対策の枠組み「パリ協定」への残留を促す説得に応じなかった。
(同上)

ここで「パリ協定」以外の対立点が出てきました。トランプさんは、NATO首脳会議で、「加盟国はもっと金を出すように!と要求する演説をしたのです。これは、「要求そのものの正当性」というよりは、「やり方に問題があるといえるでしょう。

こんな場面を想像してみてください。トランプさんが日本にやってきた。そして、「日本の防衛費は、なぜGDPの1%なのか?これを2%にしなさい!」と言った。「北朝鮮や中国から日本を守る」と言わなかった。大騒ぎになるでしょう?

確かに、トランプさんの言う、「NATO加盟国は、金を払っていない」のは事実。しかし、全加盟国の首脳を前に、そのことだけを強調する演説をしたのは、極めてマズイやり方でした。

ガブリエル氏はこうした状況を踏まえ、「米政府の近視眼的な政策はEUの利益に反する。欧米は縮小、あるいは少なくとも弱体化した」と発言。
(同上)

欧米は縮小
弱体化

だそうです。そしてガブリエル外相は、「トランプと断固として戦う」と宣言します。

そのうえで、欧州諸国はトランプ政権に立ち向かい、遠慮なく批判の声を上げるべきだと主張。「こうした動きに今すぐ、断固として立ち向かわなくては、欧州への移民流入は拡大の一途をたどるだろう。米国の政策に反対しないことは罪になる」と断言した。
(同上)

「米国の政策に反対しないことは罪になる」そうです。つまり、「トランプに反対するのは、『正義の闘いだ!」と主張している。

問題の本質は?

トランプは、「ナショナリスト」と呼ばれています。しかし、ヒトラーのように特定の民族を絶滅させたいわけではありません。ただ、「アメリカの経済利益を第1に考える」と言っている。そう考えると、トランプは、「ソフト・ナショナリスト」といえるでしょう。

それでも、「アメリカ・ファースト」「アメリカ第一主義はさまざまな問題を引き起こします。皆さん、「わが社の利益が第1です!」と宣言している社長さんのことを想像してみてください。そんな会社から、「買いたい!」と思うでしょうか? 普通は、「お客さまの幸せが第1です!」というものです。

実際、トランプと同じようなスローガンを掲げたリーダーはほかにもいます。たとえば、安倍総理、はじめは「日本を取り戻す!」と宣言していました。それで、2013年末から2014年初めは、ずいぶんバッシングされました。

今、総理は、「日本を取り戻す!」とは言いません。「自由貿易のチャンピオンでありたい!」とか、「法の支配をひろげる」とか、「アメリカは、人類の希望だ!」などといいます。それで、バッシングされなくなりました。

自他共に愛国主義者と認めるプーチン。2014年3月にクリミア併合を断行しました。クリミアは、1783年から1954年まで、文句なしでロシアのものだった。それで、全ロシア国民がプーチンの決断を支持しました。とはいえ、ロシアは、制裁を課せられ経済はボロボロになっています。

習近平は、「中国の夢」というナショナリスト的スローガンを掲げて登場しました。それで、2015年からずいぶん叩かれ、2016年、中国経済はボロボロになってしまった。しかし習は2017年1月、ダボスで「グローバリズム絶対支持宣言」を行います。それで、「中国経済バッシングはおさまりました

トランプは、「アメリカ・ファースト」を掲げて登場しました。彼は、「わが社の利益が第1です!」と宣言したので、叩かれる。当たり前のことです。

すべての会社が利益を追求するように、すべての国が国益を追求しています。しかし、すべての会社が、「お客様の幸せが第1です!」と言うように、国は、「国際社会で貢献したい!と言うべきなのです。「お客様の幸せを第1」に考え、実際努力している会社が潰れるでしょうか? 逆に、「わが社の利益が第1だ」と宣言している会社の何百倍も儲かることでしょう。

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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