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トランプの「パリ協定離脱宣言」を、習近平がほくそ笑む理由

FBI長官解任騒動で注目を集めるトランプ大統領の暴走が止まりません。6月1日には世界196カ国が参加する「パリ協定」の離脱を宣言し、世界中から猛バッシングを浴びています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「トランプ大統領は有言実行したが、それが良い結果になるとは限らない」とし、今回の決断は「中国にとっては喜ばしいことだ」とも記しています。その理由とは?

トランプの「パリ協定離脱宣言」を、習近平が大歓迎する理由

ぶるぶるぶる。モスクワ、寒いです。この原稿書いてる時点で、6度。モスクワ、今年は寒いです。1月は、マイナス35度まで下がった。5月は、何日も雪が降っていました。6月2日、ごく短い時間ですが、雪が降りました。それで、モスクワの人たちは、「地球温暖化という言葉を聞くと、「ふっと冷笑します。

その一方で、日本の夏は、私が子供だった頃と比べると、「むちゃくちゃ暑くなってるよな~」とも思います。私の実家、長野の冬、子供だった頃と比べると、「どう考えても暖かくなってるよな~」と思います。「ようわからん」ということなのですが。

事実として、トランプさんは6月1日、「パリ協定からの離脱を宣言しました。

「地球温暖化」「パリ協定」とは?

まず、基本的なことから。「地球温暖化問題」とは何でしょうか?

言葉のとおり、「地球が暖かくなっている問題」です。とはいえ、「地球は、そもそも寒くなったり、暖かくなったりしてるのでは?」と思いますね。「氷河期がなんどもあったと言うよな~」とか。

しかし、「20世紀後半になって、地球の気温は急激に上がっている」。「その原因は、二酸化炭素など温暖化ガスが急増したことだ!」と言うのですね。地球温暖化で、どんな悪影響が懸念されているのでしょうか?

などなど。「急激な地球温暖化は、人間が出す二酸化炭素などが原因」ということで、対策は、「二酸化炭素などの温室化ガスを減らそう」という話になります。

それで、出てきたのが、今回話題になっている「パリ協定」。2015年12月にパリで採択されました。2016年9月、「温室化ガス超大国」のアメリカと中国が批准。同年10月、EUが批准。パリ協定に参加しているのは、なんと世界196か国。参加していないのは、シリアとニカラグアだけです。そこに今回、アメリカ合衆国が加わります……。

なぜトランプは、「パリ協定離脱」を決めたの?

トランプさんは6月1日、「パリ協定離脱」を宣言しました。なぜ? トランプさんは1日、こんなことを言いました。

私が選挙で選ばれたのは、ピッツバーグの市民を代表するためです。パリではありません。パリ協定は、ワシントンがまたしても、アメリカに不利な協定に参加した最新の例にすぎません。受け入れがたい法的リスクを押しつけ、われわれを世界の他国に対して、決定的に不利な状態に追いこみます。

 

われわれは、他国の指導者や国に、これ以上笑われたくない。これでもう笑わないはずだ。もう笑わない。

 

今こそパリ協定を離脱すべき時だ。そして、新しい合意を追求すべきだ。環境とわれわれの企業を守り、われわれの市民とこの国を守る、新しい合意を

だそうです。そもそもトランプさんは、「地球温暖化問題でっちあげだ!」と語っています。そして、「パリ協定離脱」は、「公約」の一つでもあった。「有言実行」したわけですが、だからといって、それがアメリカとトランプさんにとって、「いい結果になるとは限りません

世界がトランプを非難

「地球温暖化問題」の「真偽」について、素人の私があれこれ言うのはやめましょう。ここでは、「世界の反応」を見てみます。

大統領になったばかりのフランス・マクロン大統領は、この件でテレビ演説しました。曰く「判断は尊重するが、とても残念だ。地球の将来にとって間違いをおかした」。厳しいですね。

そして、若いマクロンさんは、トランプさんに、こんな強烈な皮肉を言いました。「地球を再び偉大にする!」。トランプさんは、「アメリカを再び偉大にする!」です。しかし、マクロンさんは、「地球を再び偉大にする!」。大衆は、こういうパフォーマンスを喜ぶものです。

EUのユンケル欧州委員長は、トランプの「パリ協定離脱宣言」について、「重大な誤りだ!」とツイートしました。ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのジェンティローニ首相は1日、「アメリカの決断を残念に思う」との共同声明を出しました。3首脳はトランプの求める再交渉を拒否するそうです。国連のドゥジャリク事務総長報道官は離脱発表は「大きな失望」とする声明を発表しました。

ロシアのリャプコフ外務次官は、パリ協定が「米国を含まない一部の国だけ優先しているというのは間違い」だと語りました。インドのモディ首相は2日、「気候変動に関してインドは責任ある国家だ」と語り、パリ協定を順守する意向をしめしました。

アメリカ経済界からも、トランプの決定に反対する声があがっています。BBCニュース6月2日から。

米経済界も声高に、協定残留を求めていた。グーグル、アップル、化石燃料メーカーのエクソンモービルなど、何百もの企業が大統領に協定に残るよう要請していた。エクソンモービルのダレン・ウッズ最高経営責任者は自ら大統領に手紙を送り、米国は協定に参加したままでも「十分に競争できる」し、協定に残れば「公平なルール確保のために話し合いの場に参加できる」と力説した。

まさに世界中がトランプさんを批判し、彼はますます孤立しています。

パリ協定離脱で一番得をするのは?

トランプの「パリ協定離脱宣言」で損をする、あるいは得をするのは誰でしょうか?

一番損をするのは、これで「世界的に孤立する」アメリカです。「地球温暖化問題」の「真偽」はどうあれ、「パリ協定」には、「196か国」が参加している。アメリカは、ここから離脱することで、シリア、ニカラグアと同レベルになってしまう。結果、アメリカは孤立し指導力は低下し覇権を維持する力はどんどんなくなっていく

ドイツ、フランス、イタリアの首脳は、「トランプと再交渉はしない!」と断言している。彼らは、「国際世論と道徳的正義はこっちにある」と確信しているので、強気でいられるのです。交渉を「門前払い」される国が、「覇権国家だ!」と威張っていることができるでしょうか?

そして、トランプの「パリ協定離脱」で最も得をするのが中国です。BBCニュース6月2日から。

パリ協定の合意を可能にしたのは何より、米中関係だった。バラク・オバマ米大統領(当時)と習近平・中国国家主席はお互い、妥協点を見出すことに成功し、そのおかげで欧州連合(EU)や小島しょ諸国を含むいわゆる「高い野心連合」の形成に成功した。

 

トランプ政権の発表を受けて中国は速やかに、パリ協定順守の意志をあらためて表明した。二酸化炭素ガス排出削減のためEUとさらに協力体制を強めていくと、近く共同声明で発表する。

 

欧州委員会のミゲル・アリアス・カニェテ気候行動・エネルギー担当委員は、「EUと中国はパリ協定を実施し、クリーンエネルギーへの世界的移行を加速させるため、力を合わせて邁進(まいしん)していく」と表明した。「誰も置き去りにすべきではないが、EUと中国は前進することにした」。

そして、EUと中国は、前進しています。6月3日毎日新聞。

EUのトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)、ユンケル欧州委員長と中国の李克強首相は2日、ブリュッセルで首脳会談を開き、米国が離脱を表明した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の履行に向けた協力を推進することで一致したと明らかにした。米国に次ぐ経済規模を誇る中国とEUが地球温暖化対策で先導的な役割を担う強固な意志を示した。

アメリカを抜かして中国とEUが先導的な役割を担う」そうです。嗚呼(涙)。この会談について朝日新聞6月3日。

EU首脳会議のトゥスク常任議長は共同会見で、「EUと中国は、気候変動の協力に関し、将来の世代に対する連帯と地球に対する責任を明示した。我々は米国が決めたパリ協定からの離脱は大きな間違いだと確信している」と述べた。

 

ユンケル欧州委員長も「米国の不幸な決定について、中国と同じ見解を持ててうれしい。中国とEUはパリ協定の実行に向けて進んでいく」と話した。

「EUと中国は、気候変動の協力に関し、将来の世代に対する連帯と地球に対する責任を明示した」そうです。EUと中国が、一緒になってアメリカを非難する…。なんという、悲しい光景でしょうか? しかし、その責任はトランプさんにあります。

今回の一件で、「トランプ・アメリカは、地球の未来を考えないエゴイストだ!」と悪評が広がる。一方、「中国は、地球の未来を真剣に考えているすばらしい国だ!」という名声が高まります。中国は、二酸化炭素の削減に取り組むのでしょうか? きわめて疑わしいと思います。それでも、トランプが自爆した。中国は、この機会を逃さず、国際世論を味方につけたのです。こんな安上りで効果的な方法はありません(もちろん、日本は、中国のやり方をマネするべきではありません。安倍総理はトランプを批判するべきではありません)。

習近平は1月、ダボスで「グローバリズム絶対支持宣言」をし、国際金融資本を味方につけました。今回は、「パリ協定絶対支持!」を打ち出すことで、EUと世界を味方につけました

「パリ協定」からの離脱演説で、トランプは、「もう笑われない」と言いました。しかし、腹を抱え、ダンスを踊りながら笑っている男がいる。そう、習近平です。トランプのおかげで、棚ぼた式に「地球を守る英雄」になれた習近平は、笑いが止まらないことでしょう。

1年前にメルマガで書いたように、トランプのアメリカ第1主義この国の覇権はボロボロになってきています。

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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