連日のように繰り返される北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて自民党がやっと重い腰を上げ、「シェルターの新設」を検討し始めました。メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、この政府の動きを報じた朝日新聞の報道を紹介し、この取り組みを高く評価しながらも、その紙面に掲載された政府関係者のコメントに対して怒りを露わにしています。
「頭の体操」ができない政府関係者はいらない!
相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて、国民の安全を図るために自民党が腰を上げました。
自民、シェルター新設の提言案 北朝鮮ミサイル問題受け
「北朝鮮のミサイル問題に絡み、自民党の『国民保護のあり方に関する検討チーム』(座長・武田良太元防衛副大臣)が2日、ミサイル落下時に備えたシェルターの新設などを政府に求めた『国民保護のあり方に関する提言案』をまとめた。近く提言として正式決定し政府に提出する方針。
提言案では、既存の堅牢な建物や地下街など、地方自治体による避難施設の指定を促進することに加え、『新設も含めシェルターの検討』を明記した。同党の北朝鮮核実験・ミサイル問題対策本部も4月に『小学校や公民館はミサイル攻撃に耐えられない』として、一部議員がシェルター新設を要求したが、政府関係者は『国民が退避するには膨大な数が必要。非現実的だ』と疑問視している。(相原亮)」(6月3日付朝日新聞)
ようやくという感じもありますが、大いに期待し、応援したいと思います。
この新聞記事の中で、私が問題だと思っているのは最後の部分の「政府関係者」の言葉です。
どの役所の、どんな立場の人間の言葉なのかわかりませんが、「馬鹿者」としか言いようがない無責任さです。
国民の安全など、自分の家族のことを含めて、何も考えていない証拠といってよいでしょう。
誰も、国民全てを平等に扱うべく、どの町にもシェルターを建設しようなどと言ってはいないはずです。
優先順位を付けるのですよ。
まず、標的になる可能性の高い東京、大阪、福岡などの大都市の中心部の地下街と地下鉄駅の活用、それらの都市の学校、学校の体育館の避難機能を強化するのです。
東京、大阪の中心部は、政治的なインパクトが大きいことから標的になりやすい。福岡は朝鮮半島に近いことから目標に選ばれやすい。
その場合、まずは通常弾頭の弾道ミサイルの破片効果に耐えられる避難機能を備えることにします。直撃弾に耐える構造の避難施設は、そう簡単には整備できないからです。
これには、2人の死者を出したものの湾岸戦争でイラクからの弾道ミサイル(スカッドの射程延伸型のアル・フセイン)39発に耐え,現在も武装勢力がレバノン南部やガザ地区から発射するロケット弾の攻撃に備えているイスラエルのレベルで考えればよいと思います。
北朝鮮が自滅覚悟で発射しない限りは起こりえない化学兵器や、まして核弾頭は除外しておくことにします。
優先順位とは、そのようにして決めていくものです。
学校や学校の体育館の避難機能はイスラエルのレベルで考えるとして、地下街や地下鉄の駅については入口を大幅に改造することで対応するのが現実的でしょう。
韓国ソウルの中心部の地下鉄の駅の入口は広く設計されています。これは北朝鮮の砲撃とミサイル攻撃を前提とした避難訓練を1ヵ月に2回ずつ実施してきた結果ですが、これだと殺到してくる避難者を必要な時間内に収容することができます。
それに引き替え、日本の地下鉄駅の入口は極端に狭く、避難者が殺到したら圧死者が出る恐れが大きいのです。
日本の地下鉄駅でも、上野駅の地下鉄入口(日比谷線)は広く、緩やかなスロープになっており、参考になるのではないかと思います。
この程度のことを、さっと「頭の体操」としてイメージできなければ、政府関係者、特にキャリア官僚は失格です。
日本版のFEMA(米国の連邦緊急事態管理庁、日本では危機管理庁と呼称)の必要性について、「屋上屋を重ねるようなもので不要」と主張してきた官僚機構に対して、「それでは、建物の1階部分はどこにあるのか。それが存在しない結果、国民の命を守る取り組みが大幅に遅れているのに、『屋上屋』とは何事か!」と指摘したら、下を向いたまま返答がなかったことを思い出します。
それが、今日の国民の安全を無視した行政の在り方につながっていることは言うまでもありません。
安倍晋三首相、菅義偉官房長官は、官僚と官僚におんぶに抱っこの政治家が「国民が退避するには膨大な数が必要。非現実的だ」とうそぶくのを許してはなりません。
ことは国民の命の問題です。在韓邦人の避難措置とともに、直ちに行動に移すことが求められています。
それこそ10人ほどのチームでよいですから、国家安全保障局(NSS)が主導して可及的速やかにラフを描き、それをもとに官僚機構に命じる形をとることができなければなりません。それができなければ、政治主導で縦割りを克服すると言っても口先だけに終わってしまうことを、肝に銘じてほしいと思います。(小川和久)
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