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外食チェーン店が「本当に美味しいもの」を提供しようとしない訳

大好評となった先日掲載の「スーパーで売っている卵の「賞味期限」に隠されたズルい手口」をはじめ、これまでも食の安全に関する数々の記事を配信している無料メルマガ『食品工場の工場長の仕事』の著者・河岸宏和さん。今回は、ご自身の最新刊『知らないと危ない! ズルい食品 ヤバい外食』から特別に「あとがき」全文を公開しています。

大切な方の顔を思い浮かべて

あなたの大切な方を思い浮かべてください。その方の健康は、十分な睡眠、適切な運動、そして安全で、美味しく、機能が十分な食事で支えられています。あなたの大切な方の健康のために食事を作り、食材を選んでいるんです」。私が、セミナーなどでよく話す言葉です。

「やっぱり家で食べる玉子焼きが一番美味しい」と大切な方に言われたら嬉しくないですか、病気などで身体が弱ったとき、精神的につらいときに。「何か食べたいものある」と聞いたときに、「あなたの玉子焼き」と言われたらうれしさを通り越して涙が出てくると思います。

大切な方の顔を思い浮かべて作る玉子焼きは、食材選びから始まります。ふっくらした焼き上がりの玉子焼きのためには、新鮮な卵が必要です。鮮度を保つには、冷蔵管理も必要です。卵の鮮度は、産卵してからの時間が経過してしまうと落ちてしまいますふっくらした玉子焼きに必要な卵を選ぶための、「産卵日表示」、「冷蔵販売」は共に法律上必要ありません。現在の食品表示は、消費者の事を本当に考えていないからです。

卵を選ぶときに、「このお店の卵なら大丈夫」と信じられる売り場があればいいのですが、ほとんどのスーパーは、店の売り上げ、利益を中心に考えているため、残念ながら買う側の人たちが、いい食材を選ぶ知識、食材を選ぶ力をつけなきゃいけないのが現実です。

地元のスーパーでは新鮮な卵を買うことが出来ない、新鮮な野菜を買うことが出来ないと、養鶏場の直売店農家の産直のお店に週末通う方が増えてきています。売り上げが減ってきているスーパーは、何故、売り上げが減ってきているか気がつかないまま、利益の事しか考えていないところが多いように思います。

NB商品よりも儲かる、PB商品を作り、少しでもお店の利益を増やそうと考えるより、初めて買い物する子供にお使いを頼んでも、新鮮な卵、美味しい枝豆、美味しい豆腐がいつでも買えるように、品揃えすることが、本来の地元スーパーの役割だと思います。

高価で、利益率の高い牛肉を売るよりも、新鮮な鶏肉、新鮮な地元野菜、新鮮な卵、地元の魚を品揃えし、「売り切れごめん」がスーパーの本来の姿だと思います。私たちも、夜中に行っても常に売り場に商品が揃っている時代は終わったと認識を改める必要もあるのです。

生鮮食品もネットで購入出来、その日の配達できる体制が、アメリカでは始まっています。日本でも、スーパーの売り場にある商品を、お店の方が選んで梱包し、その日の内に配達してくれます。農家から、港から、養鶏場からその日の内に配達されるようになった時にスーパーの価値が何かスーパーの方は本当に考えているのか私は疑問です。

養鶏場からスーパーを通じて卵を購入したときにどんな価値が付加されるのかどんな価値を付加すべきなのかを、売り場の方に真剣に考えてほしいものです。

美味しい物を食べると幸せを感じます。美しい物を食べるためには、真剣にお店を選びます。食事のガイドブック、旅行のガイドブック、インターネットのレストランガイドなど、美味しいお店を選ぶ方法はたくさん用意されています。コンビニ、本屋さんに行くと本当に多くの本が置かれています。

テレビで芸能人が「美味しい」と言うと、次の日には大行列が出来てしまいます。しかし、行列が出来ているお店に、半年後、一年後行ってみると、無くなっている場合があります。行列で何時間も並んでも、予約が取れなくて、半年まっても、そのお店に満足しなければ一度しかお店には行かないのです。一度食べて美味しければ、旅行をしたときに必ず寄ろう、旅行に行く人に「あのお店美味しいよ」と口コミで伝える物です。

美味しいお店を紹介する時は、本当に難しい物です。人によって好みも異なるし、美味しいと思う点も異なります。しかし、ある一定以上のお店であれば、万人が美味しいと思うはずです。一時間以上の行列をまって、並んでいるときには無口だった親子が、お好み焼きを一口食べたときに、「美味しいね。このお店」と話していると、会話を聞いている方も嬉しくなってしまいます。

お好み焼きは、小麦粉、キャベツ、卵などの簡単な食材で、焼くだけの簡単な物なんですが、家庭で作るよりも美味しい物を提供できるからこそプロであり、外食産業であると思います。黒豚を使用した、鹿児島産の肉を使用したと言うことよりも、焼き方が旨くて、どうしても家では同じように出来ない、と言うのが本来の姿だと思います。

刺身を切る包丁を毎日研ぎ澄ます事、ご飯を美味しく研ぎ、炊くこと、米粒をつぶさないように酢飯を作ること等の基本が家庭では作ることの出来ない美味しさにつながるはずだと思います。

チェーンの回転寿司、ファミレスなどのお店は、美味しいものを提供し、お客さんの喜ぶ顔がみたいと思わず、売り上げ利益だけを見ているとしか思えません。利益のためには、経験のある職人よりも、給与の安いバイトを雇用してしまいます。バイトで働いても、将来が見えないため、外食で働く方が少なくなってしまうと言う悪循環に入っているとしか思えません。働いている方が、笑顔で生き生きしていなければ、食べる方も決して美味しいとは思わないはずです。

お店の設計も考え直す必要があると思っています。お客様がくつろげる環境よりも、回転率を考えているようにしか見えないお店では、お客様は、二度と行きたくないものです。

インターネットの時代になり、誰もが簡単にブログ等の文章を公開できるようになりました。しかし、編集の方と文章の内容を詰めながら書く本は、みなさんによりよい情報を伝えることが出来ると思います。様々な方の目に触れることでより素敵な文章に仕上がる事を改めて知ることができました。あなたの大切な方のために、造る食事の食材を選ぶとき、大切な方と食べるお店を選ぶ時の参考になることを願っています。

食品安全教育研究所 代表 河岸宏和

image by: Shutterstock.com

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【著者】 河岸宏和(食品安全教育研究所 代表) 【発行周期】 ほぼ 週末刊

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