いわゆるロシアゲート疑惑を巡り、窮地に立たされているはずのトランプ大統領。しかしトランプ氏は自らが解雇したコミー元FBI長官の証言を「ウソ」と言い切るなど、相変わらず強気の姿勢を崩すことはありません。アメリカ在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、大統領の一連の発言や姿勢に関して「呆れるしかない」とし、トランプ氏の側近にして司法長官を務めるセッションズ氏が大統領を裏切る可能性についても言及しています。
弾劾へ向けて自滅コースに入ってきたトランプ
それにしても、大統領の周囲には「リーガル・チーム」というのはあるのでしょうか? 例えば、コミー前FBI長官の議会証言を受けて大統領は、「自分が忠誠心を求めたというコミー証言はウソ」であると言ってしまっています。
何とも不用意な発言ですが、ここに至って全体の構図としては「大統領が忠誠心を要求したという発言」が仮に事実であれば、それが「司法妨害になる」という「定義」ができてしまった感があります。
一方で、トランプの長男であるドン・ジュニアは、家業に専念し政治には関与しないという約束を破ってFOXニュースに登場し「オヤジは、誰にでも忠誠を求めるんですよ」などとペラペラ喋っています。「誰にでも求めるのだから、司法妨害とか深刻なものではない」ということが言いたいのかもしれませんが、「誰にでも言う」という息子の証言というのは、事実関係としては「トランプはコミーにも言っただろう」という可能性が濃いことを示唆しており、下手をすればオウンゴールものです。
更に言えば、大統領は「オレは議会へ言って宣誓証言したっていいんだ」として「100%やってやる」などと胸を張っています。これも、非常に危険な発言で、選挙運動のときと同じように「もう一つの真実」だとして胸を張っても、虚偽は虚偽であって偽証罪になってしまう可能性があるからです。
私自身が狐につままれたような気分なのですが、合衆国大統領が「ここまでプアなリーガル・サポートしか受けていない」と思われること、にも関わらず「思いつきでの発言やツイートが止まらない」というのには、とにかく呆れるしかありません。
私は、ワシントンの政界の中では、「もうこの政権はダメ」という感覚を持っているのではないかと思い始めています。勿論、民主党の側は、ボロボロのトランプ政権のままで2018年の中間選挙をやりたいでしょうが、この調子で政権が残り17ヶ月も「持つ」とはとても思えないのです。ある種の「国家意思」として「もはやこれまで」という感じが近づいていると考えたほうが合理的です。
そんな中、6月13日(火)にはジェフ・セッションズ司法長官が、議会上院の諜報委員会で「公開形式の公聴会での証言」を行うことに同意しました。もしかしたら「秘密会での証言」になるという観測もあったのですが、「公開」ということで俄然注目が加速しています。
上院の大物議員たちが、それ以前にアメリカ社会全体としてセッションズ氏に「聞きたいこと」はたくさんあるはずです。
まず、昨年の大統領選で勝利した前後に、セッションズ氏自身がロシア外交官と接触したという問題があります。その接触について、大統領や副大統領に報告せずにいたという問題、それからロシア側とは一体どんな会話をしたのかということに関して追及があると思います。
もしかしたら、捜査対象となっているので喋れないというような逃げを打つかもしれませんが、それならそれで、現職の司法長官が捜査対象になっているということが明らかになるわけですし、また自分以外の何者かが捜査対象になっているということについて、具体的に明らかになればそれはそれで重要な進展になります。
注目されるのは、FBIのコミー長官を解雇した経緯です。セッションズ司法長官は、本来であれば本件の所轄大臣であるわけですが、自分は「利害相反」だからということで、司法副長官のローゼンスタインに全権を委ね、そのローゼンスタインが「コミー解任の提案書」を大統領に送ったので大統領は解任したということになっています。
そして、コミー前長官は前週の議会証言で「自分が解任された理由はロシア疑惑であると思っている」と証言しています。これに対してホワイトハウスは反発しているわけですが、そもそも仮にロシア疑惑が理由でないのであれば、そして仮にローゼンスタインが書いているように、コミー解任の理由は「ヒラリーのメール問題に関する処理の誤り」であるのなら、セッションズはこの件に関して「利害相反」はないはずです。
頭がクラクラするような話ですが、「コミー解任事件」について、セッションズがどう考えているのか、何を言うのかは大変に重要です。その際に、もう一つ重要になるのは、コミーを解任したことが「ロシア疑惑への捜査中止圧力」という「司法妨害」に当たるのかという点です。
セッションズは司法長官ですから「私は分かりません」とは言えないはずです。また議会の席で「自分はロシア疑惑の捜査対象なので利害相反があるので、この司法妨害云々ということに関してはコメントできません」ということになれば、それはそれで、そんな人間が司法長官という、日本で言えば法務大臣兼検事総長のような役職に留まっていて良いのかという話になります。
そのセッションズの役職という話では、これも先週にトランプ大統領との間で「辞める、辞めない」という言い合いになったという報道が出ています。その真相に関しても、何らかのコメントが欲しいところです。
後は、コミー証言に関してトランプが「嘘だ」と言ってしまった中で、コミー側は「もしも録音テープがあれば御の字」だと言っているわけで、本当に録音があれば大変なことになるということがあります。
一つの可能性は、セッションズが裏切る可能性です。この人は、色々な党内事情から、昨年2016年の早期にトランプ支持に走ったことが評価されて、司法長官の職についているわけですが、何だかんだ言って連邦上院議員を20年もやっているベテラン政治家です。
そのセッションズが、現在はワシントン政界では、まるで犯罪者のような言われ方をしているのは、自分としては内心絶対に許せないと思っているはずです。その場合に、「味方」であるトランプとの鉄壁の守りを固めて居直るという可能性よりも、沈みゆく船と心中するよりは自分の政治生命を、仮に政治生命が無理でも自分の名誉を考えるという可能性があります。
現時点では、まだ可能性としては15%ぐらいですが、セッションズが爆弾発言をする可能性も否定できません。閣内の、しかも司法長官のセッションズが、大統領の発言の虚偽を暴くとか、大統領の行動を「司法妨害」だとするという可能性です。仮に「自分だけが切られるのは理不尽」という怒りがあれば、思わぬ証言が飛び出す可能性はゼロではないと思うのです。
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