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萩生田官房副長官の「ご発言」を紛れ込ませた、文科省「最後の一刺し」

安倍首相から「再調査」を命じられ、新たに8つの文書の存在を明らかにした文科省。しかし、その中には安倍首相らが予想だにしなかったものまで混ざっていたようです。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、「文科省職員たちの官邸、内閣府に対する不信感がこの行動を起こさせた」との見方を示しています。

安倍最側近に文科省の「一刺し」

先週号で、加計学園の獣医学部を今治市に新設する計画について、萩生田官房副長官がどのようにからんでいたかを書いた。

当初明るみに出た文科省の内部文書8つのなかに、「萩生田副長官ご発言概要」というのがある。萩生田氏が「四国には獣医学部がないので、その点では必要性に説明がつくのか」「私の方で整理しよう」と語ったことが記録されている。

獣医の数は足りているので獣医学部の新設は必要ないという日本獣医師会、農水省、文科省の従来の考えを覆すための戦術を萩生田氏が、総理の知恵袋、今井首席秘書官らとともに練っていたことは、おおよその見当がつく。

獣医師会を納得させるには一校が限度だ。だが、京都産業大学という強敵が獣医学部設置に手をあげている。京産大を閉め出すため、昨年11月9日の国家戦略特区諮問会議に示され、決定されたのが「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」だった。獣医学部のない四国に絞るための文言だ。

実はこれ、「獣医師系養成大学等のない地域において獣医学部の新設を可能とする」という原案に、「広域的に」と「限り」を加えて修正したものである。

手書きで修正したばかりの文案を、内閣府職員が文科省職員へ16年11月1日にメールで送信した。そのメールには、修正の指示は「藤原審議官曰く、官邸の萩生田副長官からあったようです」と書かれている。

明らかに、今井秘書官とともに安倍首相から最も信頼されている側近、萩生田氏が加計学園の計画実現に手を貸したことを示すメールである。「萩生田副長官ご発言概要」と読み合わせてみると、より信憑性は増す。

なんと、形式上の担当大臣である山本幸三地方創生相は「文科省から内閣府に出向してきた方が、陰で隠れて本省にご注進したようなメール」と国会で発言。

はからずも、内閣府がバラバラな省益の混合体であることを暴露した。

そして、内閣府の藤原審議官に手書き修正を指示したのは自分だと言い張ったが、誰も山本大臣にそれだけの権限があるとは思わないだろう。

内閣府は官邸の意のままに動く組織になっている。国民からはその仕事が見えない。いわばブラックボックスだ。安倍政権はこれをあたかも官邸を守る“要塞”のように使い、手勢を養っている。

官邸に陣取る官房長官と三人の副長官。テレビを見ていたら分かるように、いつも安倍首相の後ろにひかえて、記者の質問ぶりに鋭い目を光らせているあの大男が、萩生田副長官だ。

彼が官房副長官になった今も、加計学園系列の千葉科学大名誉客員教授であるのは、加計孝太郎理事長が安倍首相の30年来の親友であることと無関係ではないだろう。萩生田氏自らブログに安倍、加計両氏とバーベキューを楽しむ写真をアップしているほどだ。

そんな萩生田氏が、「広域的に」「限り」を獣医学部設置の条件に加えるよう指示し、内閣府の藤原審議官が手書きで挿入したとしたら、これはもう誰が考えても安倍首相との共謀を疑わざるを得ない

萩生田氏の関与を裏づける内閣府職員からのメールは、周知の通り、「文書の存否を確認できない」と言い張っていた文科省の再調査によって出てきたものだ。

官邸は、箝口令を敷かれながらも文科省の現職官僚から「文書は存在する」という証言が湧き上がってくる状況を見て、存在を認めないかぎり報道は終息しないと判断し、文科省の再調査を指示。「対象を拡大して調べたら出てきた」と発表させたうえで、内閣府が防波堤になって安倍官邸への波及を食い止めようと画策した。

ところが、計算外のことが起きた。文科省はこの萩生田副長官指示メールを紛れ込ませ、民進党の玉木雄一郎議員の言う「最後の一刺し」をやってのけたのである。松野文科相は、省内の不満のガス抜きをはかるためにも、官邸からの叱責を覚悟で認めたと見える。

文科省の再調査で文書の存在を認める以上、圧力をかけたとされる内閣府の調査も要求される。そこで内閣府は言われる前に形だけの調査をした。その結果は、「総理のご意向」「官邸の最高レベル」と記した文書は確認されず、発言した職員もいなかったと、大方の想像通りだった。

しかし、文科省の出してきたメールの「一刺し」があまりにきつかったため、山本大臣は部下をスパイ呼ばわりするほどに、うろたえたのだろう。

加計学園の獣医学部新設をめぐる文科省文書の発覚で浮き彫りになったのは、文科省職員たちの官邸、内閣府に対する不信感だろう。

安倍官邸の特徴は、話し合いを無力化し、力で押し切ろうとすることだ。無理を通して、道理が引っ込んでも、頓着しない。「マフィア政治」と批判する識者もいる。

文芸春秋7月号に前川喜平・前文科事務次官の手記が掲載されている。その一節。

内部文書は、昨年9月から10月末の間に…私が担当者らから次官室で報告を受けた…彼らは内閣府の審議官から「官邸の意向だから早くやれ」とせっつかれ、報告に来る度に困り切った顔をしていました。

前川氏がメディアで証言する動きを知った官邸は、まず出会い系バー・スキャンダルをでっち上げて前川前次官をつぶしにかかったが、それが裏目に出た。週刊誌の報道などで前川氏の誠実な人柄が明らかになり、彼を慕う現職官僚たちが内部から援護射撃を始めた

当然のことながら、調査などと大げさなことをするまでもなく、文科省は文書が存在することを知っていた。誰が書いたかが分かっているからだ。

平成28年9月26日の日付がある文書には、その会合に出席した四人の官僚の実名が記されている。出席者は内閣府から藤原豊審議官ら二人、文科省から高等教育局の浅野敦行専門教育課長と課長補佐、牧野美穂氏の二人。

牧野氏は平成18年入省というから11年のキャリアを積んでいる。通常、こうした会議のメモ文書を作成するのは課長補佐である。だから、彼女に聞けば、たちどころに、文書の存在は分かるはずだ。

だが、官邸はそれを承知の上で、出所の分からない「怪文書」にしてしまった。

以来、文科省の職員は、文書の存在は確認できないものとして口裏を合わせるよう強要された。

確かに、文科省は組織ぐるみで天下りの斡旋をし、その責任をとって前川氏は事務次官を辞任した。むろん他省庁でも似たようなことはやっているだろうが、反省すべきことに違いない。

だからといって、いやしくも教育にたずさわる者として、嘘をつき続けることは辛く、せつない。

あったものをなかったものにできない」という前川氏と共通する思い、そして、文科省に対する内閣府の高圧的な態度への反発心は、加計学園問題の発覚以来、文科省内部、とりわけ高等教育局を中心に渦巻いていたことだろう。

前川氏は退任のさい、文科省の全職員にメールを送った

「私が考える文部科学省職員の仕事は、子どもたち、教師、研究者、技術者、芸術家、アスリートなど、それぞれの現場でがんばっている人たちを助け、励まし、支えていくことです。…特に、弱い立場、つらい境遇にある人たちに手を差し伸べることは、行政官の第一の使命だと思います。…気は優しくて力持ちそんな文部科学省をつくっていってください

涙ぐむ職員が何人もいたと聞く。新自由主義の流れの中で経産省からの出向組が幅を利かす官邸、内閣府。彼らから見たら、文科省は生ぬるいのかもしれない。

だが、いくら国家戦略特区、規制改革の美名を突きつけられても、道理のない大学新設に税金を使うわけにはいかぬ。「気は優しくて力持ち」という前川氏の素朴な表現に、国家公務員の本来の気構えが感じられ、心を動かされた人もいたにちがいない。

牧野課長補佐が書いたであろう文書が、どのような経路で流出したのかは定かでない。おそらく、書いた当人やその上司である浅野専門教育課長はかかわっていないのではないだろうか。官邸の指示による“犯人捜し”のターゲットにされやすい立場であるからだ。

およそ、加計学園の獣医学部の新設が国家戦略といえるようなものとは思えない。まともに申請すれば文科省の認可が下りないから、特区でということになった。

だが、特区でも不要なものは不要だ。ただでさえ、大学は多すぎる。ほんとうに税金を使わねばならないところに投入してこそ規制緩和の意味がある

安倍首相はそんなことにお構いなしだ。とにかく、自分が主導する国家戦略特区の実績をつくりたいのである。

6月19日夜に放映されたNHKの「クローズアップ現代」では、文科省の現役職員が匿名で出演し、加計学園問題について「これは安倍総理の関係する総理マターだ。十分な議論のないまま結論まで行ってしまった」と証言した。

その番組では、萩生田副長官が文科省の局長に語った昨年10月21日付けのメモが暴露された。「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた。工期は24ヶ月でやる」などと書かれている。

これも牧野課長補佐が書いたと言われている。クローズアップ現代を見て、文科省はすぐにこのメモを公表したが、萩生田氏がこの発言を否定し激怒したため、松野文科大臣、義家副大臣が「正確さを欠いていた」と謝罪するぶざまなことになった。

文科省内では、誠実な仕事ぶりで定評のある牧野課長補佐に同情する声が強いと聞く。部下たちの思いを受けとめながらも、萩生田氏の剣幕を鎮めるために、大臣、副大臣が、あたふたと謝罪に駆けつけるというのも、情けない限りだ。

安倍首相の「徹底調査を」という単なる強がりを真に受けて、一度は、萩生田氏の関与を裏づけるメールの公表に踏み切ったのである。文科省職員の松野大臣らに対する信頼は完全に崩れ落ちたのではないか。

ともあれ、前川前次官や現職官僚の“反乱”により、加計学園・獣医学部新設にからむ権力乱用の真相が首相周辺にまで迫ってきたのは確かである。

省益優先の官僚体制を打破するのはいいが、その代りに官邸支配が暴走して政治の私物化が進んでは、どうにもならない。安倍首相は深刻な危機に直面していることを自覚するべきだろう。

image by: WikimediaCommons

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