どこか懐かしい食べ物を愛情込めて紹介する無料メルマガ『郷愁の食物誌』。今回は、日本の文化を語る上で欠かせない「お箸」の歴史とマナーについて、メルマガ著者のUNCLE TELLさんが紹介しています。この機会に「お箸の国」に生まれた者として恥ずかしくない常識を身につけておきましょう。
箸と日本人
びっくりするかも知れないが、ヨーロッパでは長い間手づかみで食事をしていたというのだ。ナイフ・フォーク・スプーンのセットが確立したのは15世紀過ぎの近世のこと。(世界旅行―民族の暮らし 2 食べる・飲む 石毛直道責任編集 日本交通公社出版局刊・昭57年)
だからギリシャ・ローマ時代の物語の映画で、食事場面でナイフ・フォーク・スプーンを使っていたら嘘ではないかということになる。最近「マルコ・ポーロ・東方見聞録」というDVD映画を見た。マルコ・ポーロが13世紀、まだ手づかみのヨーロッパからフビライの元へやって来た物語だ。騎馬民族のモンゴルはあまり箸は使わなかったとされるが、中国と同化していた時代は恐らく使用していたことだろう。
魏志倭人伝に、倭人手食すという記述があり、古事記に端がつながったピンセット型の箸が神事に使われたとあるが、中国から2本の箸セットが伝来し、普及するまで手食が行われていたのだろう。伝来の箸は唐箸と呼ばれたというから随から唐の時代か。箸は平安時代までには庶民階級にまで普及したようである。
箸は生来の日本人の器用さとも相まって、箸文化とも言うべく、日本において最大限の発展を遂げたといっていいだろう。ウィキペディアには次のような記述もある。
箸を使う国の中で、箸のみを使って食事をする作法が確立されているのは日本だけといわれる。日本の食事では椀に直接口をつけて汁を飲むことが許容されているため汁物を箸だけで食べるが、中華料理では汁物を食べる際にレンゲを使用し、韓国料理ではごはんには匙を、おかず等副菜をつまんだり麺類を食べたりする時に箸を使うのが一般的である。
日本では箸を使用しない間、箸を「箸箱」と呼ばれる細長く上に蓋の付いた小型の箱に保管する人が多い。古来から日本の家庭の箸の使い方で特徴的なのは、属人器であり、各人の専用の箸(茶碗も)が家庭内で定められていることである。これは中国の多くの地域(漢族の地域など)や朝鮮半島などでは行なわれないことである。もっとも、現代の日本においても全ての家庭で行なわれているわけではない。
ところで私は諸事不器用だが、箸の持ち方だけは自信がある。子供など、鉛筆もそうだが変な持ち方をしている人が目についてしまう。
伝統的で正しいとされている持ち方をした場合、二本が 2〜3cmの隙間を隔てたまま平行にでき、掌側の箸同士は常に間隔が空いた状態となる。また二本を大きく開かない限りは接触しない。伝統的で正しいとされている持ち方が出来ているかどうかは、鶏の卵を掴み、垂直に持ち上げられるかどうかや、鶉の卵大のものを掴んだ際、二本が平行に近い形となっているかでも概ね判断できるとか。また、正しい持ち方をしていればどんな長い箸でも物を挟める。なお、箸は、宇宙飛行士が宇宙での食事の際に食べ物をしっかりと持つことができるので活用されているともいう。
嫌い箸(きらいはし)
ネットを検索していたら、台湾出身のVさんのブログに一つの箸体験が載っていた。
同じく台湾出身の同僚、日本人の同僚何人かで食事に。台湾出身の同僚と出た料理を交換しようと箸で渡し、相手も自然に箸で受け取ったら、日本人の同僚たちに睨まれたというのである。日本では不作法といわれる”箸(はし)渡し”である。これは、火葬(かそう)の後で死者の骨を拾うときに同じ動作をするので縁起(えんぎ)が悪いとされるのである。
嫌い箸(きらいはし)、忌み箸(いみはし)などといわれる箸の不作法な使い方。
箸王国の日本、箸にかかることわざ、言い回し、常套句も多いが、この嫌い箸も実に多いのである。それは、取り箸を使わず、直箸(じかはし)が普通の中国・朝鮮よりずっと多いのだろう。
子供のころ、食事中ふざけてそのような所作をした時、親や祖父などから、「これは◯◯箸といって、してはいけないことだよ」と、諭された記憶がある。そのように体験的には知っているのだが、改めて見てみるといろいろと興味深い。そのいくつかを紹介してみよう。
- 指し箸 食事中に箸で人を指すこと。
- 迷い箸 どの料理を食べようか迷い、料理の上をあちこち箸を動かすこと。
- 刺し箸 料理に箸(はし)をつきさして食べること。
- そら箸 食べようとして食べ物を箸でとったが食べずに元にもどすこと。
- 握り箸 箸をにぎりしめて持つ持ち方。
- ねぶり箸 箸についたものを口でなめること。
- 探り箸 汁物の中を箸で探ったりして好きなものを探り出したりすること。
- 重ね箸 一つのおかずばかり次々と続けて食べること。
- 移り箸 いったん取りかけてから他の料理に箸を移すこと。
- 涙箸 箸先や取った食物から料理の汁などをポタポタ落とすこと。
- 持ち箸 箸を持った手で同時に他の食器を持つこと。
- 寄せ箸 遠くの食器を手元に引き寄せるために箸を使うこと。
- 振り上げ箸 箸を手の甲より高く振り上げること。
- 落とし箸 食事中、箸を床に落とすこと。
まだまだあるが、心当たりある場面もなきにしもあらず。箸のマナー、小学校など家庭科の授業で指導されているだろうか。ぜひキチンと教えてもらいたい。
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