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NHKも忖度報道か。「前川証言」のスクープをもみ消した2人の黒幕

豊田真由子議員の暴言・暴行報道、稲田防衛相の問題発言、さらには下村元文科相の加計学園からの闇献金疑惑など、まさに四面楚歌の様相を呈する自民党。しかしマスコミによる安倍官邸への「忖度」は継続中のようです。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、NHKが加計問題のキーマンとも言うべき前川前事務次官のインタビューを収録しながら一切放送せず「お蔵入り」させたことを問題視。NHKの情報を握りつぶした2人の「黒幕」を明かし、同局の体質を厳しく批判しています。

前川証言をボツにしたNHKの内部事情

6月23日のBSフジ「プライムニュース」に出演した政治評論家、田崎史郎氏はやけに不機嫌だった。

前川さんは政治的意図はありませんと言うが、政治的意味を持っている会見だと思うんですよ。どうみても安倍官邸を狙っている。

前文科省事務次官、前川喜平氏が、同日午後、日本記者クラブで記者会見して話した内容に我慢がならないようである。

前川氏の発言。たとえば読売新聞の出会い系バー報道について「官邸の関与があったと思う」。加計学園の獣医学部新設は「萩生田官房副長官の関与があったと思う」「全体の絵を描いていたのは和泉補佐官だと思う」…。

田崎氏が安倍官邸に歓迎されるジャーナリストであることはよく知られている。御用評論家とか安倍の茶坊主とか揶揄されながらも、なぜかテレビ各局に引っ張りだこで、好々爺のような風情をかもしながら、ぶれることなく、安倍政権に都合のいいコメントを発し続ける。

その延長線上の反論を前川氏にしているにせよ、いつもより高ぶる胸のうちを隠せない。

田崎氏は「前川氏にはたえず想像という言葉が入っている。もし読売新聞の報道に官邸の関与があったとするならば、具体的にこういうことがありましたよと言わなければならない。誹謗に終わる可能性も十分にある」と語る。

前川氏が、「想像ですが」と断ったうえで話していることを批判しているのだが、それなら、田崎氏の次の発言はどうなのか。

和泉総理補佐官は前川さんが事務次官になる案が出てきたときに官邸内部で反対した方です。それを前川さんは知っている可能性がある。新国立競技場の建設の問題の時に和泉補佐官がまとめていて、そこに前川さんもいたけれども、そういう因縁があるのかなと…。

これでは、まるで前川氏が和泉洋人補佐官に恨みとか反感を抱いているかのような言いぐさである。これこそ勝手な邪推。「想像ですが」と言って、記者の質問に答えるほうがマシなのではないか。

自分の話の矛盾にも気づかない心理状態。その乱れを引き起こしたのは、筆者の「想像」するところ、前川氏が「国家権力とメディアの関係」について述べたあたりにあるように思える。

とりわけ田崎氏を刺激したのはここだろう。

報道番組を見ておりますとコメンテーターの方の中には、いかなる状況証拠や文書が出てきたとしても官邸の擁護しかしないという方がいらっしゃいます。森友学園の時もそういうことが繰り返し行われていたわけですが…。

田崎氏は、自分のことではないかと、とっさに思ったのではないか。

「ご本人の性犯罪が警察によって揉み消されたという疑惑を持たれてる方もいらっしゃる」と前川氏は、ジャーナリスト、山口敬之氏に言及したが、田崎氏が自らを客観視できる人なら、同じカテゴリーに入れられていることくらい、わかるはず。

田崎氏も森友疑惑の発覚以来、安倍政権擁護の発言に徹してきたのである。安倍官邸サイドの代弁者として、山口氏と双璧をなす扱いをテレビ各局から受けてきた。

山口氏が、レイプ被害女性の訴えで姿を消して以来、田崎氏への安倍官邸の期待はより大きくなっているに違いない。

それもあってか、この日のプライムニュースは、報道番組として常軌を逸したものになった。キャスター、反町理氏との掛け合いは、一方的な前川攻撃に終始した。これこそ、政治的意図があるのではないか。

前川氏が日本記者クラブで会見するのに対応し、フジテレビが、反撃してくれそうな田崎氏の出演を前もって仕込んでおいたのかもしれない。

辞めてから官邸に盾突くのは卑怯、などと、永田町の論理に同調する前に、フジテレビは大メディアとして、前川氏の以下の発言に真摯に耳を傾けるべきではないのだろうか。

私は今の日本の国家権力とメディアの関係については非常に不安をおぼえるわけです。国民の視点からこの問題を問い直すという、またメディアの関係者の中で問い直すという、自浄作用を期待したいと思います。

国家権力の情報を垂れ流し、国家権力へのチェックを怠るのではなく、国民の視点からメディアのあり方を問い直す。それを前川氏は「自浄作用」と呼ぶのだろう。

その観点からいうなら、この日のプライムニュースは国民的視点を逸脱し、政治権力の代弁権力批判への反撃にうつつを抜かしていたといわざるをえない。

国民的視点に立つならば、前川氏は日本記者クラブの会見で、実に重大な事実を明かしていたのである。

加計学園に関わる文書の信用性について、私に最初にインタビューを行ったのはNHKです。ですが、その映像はなぜか放送されないままになっております。内部文書の中でも決定的な9月26日の日付付きの文書は朝日新聞が報じる前の夜にNHKが報じていました。しかし核心の部分は黒塗りされてました。これはなぜなのでしょう。

文科省の記者クラブは教育関係の取材が中心になるため、どちらかというと社会部の縄張りだ。政治家の番記者がいない分、権力を批判的に見る記者本来の使命感を保ちやすい

NHKも同様で、問題の文科省文書について朝日とほぼ同時に文書を入手した社会部が朝日新聞の朝刊(5月17日)に出る前日夜の「ニュースチェック11」に意気込んで出稿したが、文書の「官邸の最高レベルが言っていること」の部分が消されて放送された。アナウンサーがそれにふれることもなかった。

前川氏へのインタビュー記事はその後の5月25日、朝日新聞と同日発行の週刊文春に掲載されたが、NHKは最も早くインタビューしたのに、これまで一度として放映していない

取材の早さではNHKの社会部が朝日や文春より、一歩先んじていたようだ。なのに、どういうわけか、NHKはスクープを自らふいにした。なぜなのか。籾井会長が退任したあとのNHKにも、いぜんとして官邸の睨みが利いているということだろうか。

週刊ポスト6月23日号に、キーパーソンとして二人の名前があがっている。

今年4月の人事異動で報道局長になった小池英夫氏。NHK政治部で長く自民党を担当し、現政権とのパイプも太い。

政治部の岩田明子記者安倍首相の信頼が最も厚い記者の一人といわれている。今年4月にはNHK会長賞を受賞し、局内で影響力を増している。

安倍政権との関係を重視する彼ら政治記者が実権を握っているのがNHK報道番組の実情だ。会長の人事や予算などをめぐり政治の介入を受けやすいことから、どうしても政治部の政界人脈を必要とする側面がある。

同誌はNHK報道局記者の次のようなコメントを掲載している。

5月16日の放送直前、小池さんがこんなものは怪文書と同じだといい、問題の部分を黒塗りにして放送するよう指示したそうです。文書を入手した社会部の記者の中には爆弾スクープを不発弾にされたと不満を漏らす者も少なくなかった。

6月19日夜に放映されたNHKの「クローズアップ現代」で、入手した文書の一部、すなわち、萩生田副長官の「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」などと書かれたメモを公開して社会部がためこんだフラストレーションをちょっぴり解消したが、いまだ前川インタビュー映像をストックしたままというのは、どういうことだろう。もはやタイミングがずれてしまったということもあるが、前川氏にしてみれば不審に思うのも、無理はない。

国民から受信料を徴収して経営するNHKは、まさしく市民社会の「公共」を守るために存在する。国家権力から独立して、市民共通の自由な情報空間を形成することが求められる。それこそが放送法に謳う「自律の保障」であろう。

NHKの記者が前川氏にインタビューして得た映像、音声は、国民の財産なのである。文科省の前事務次官が、現政権の政策決定過程に疑義を申し立てているのに、それを握りつぶすのは国民への背信行為であろう。

自民党政調会に「情報通信戦略調査会」という組織が2014年につくられた。何を調査するのか疑問だが、早い話、メディアを監視し、クレームをつけて、報道に圧力をかけるのが主目的といえる。

しかも、委員16人のうち、大多数が安倍首相を教祖のごとく祭り上げる神道政治連盟国会議員懇談会や日本会議国会議員懇談会のメンバーだ。

情報通信戦略調査会の存在が広く世に知られたのは2015年4月17日に起きた「放送弾圧事件」によってである。

テレビ朝日の「報道ステーション」における古賀茂明氏の官邸批判発言とNHK「クローズアップ現代」の「やらせ問題をやり玉に挙げ、テレビ朝日とNHKの経営幹部を自民党本部に呼びつけて、「事情聴取」におよんだ。気に入らないコメンテーターやキャスターへの威嚇が目的である。

その後、古賀茂明氏やクロ現の国谷裕子キャスターが降板したのは周知のとおりだ。

こういう言論状況のなか、NHKが安倍首相の意のままになる政治部の呪縛から解き放たれるには、個々の記者に残っているはずの良識を結集し、内部改革を断行するほかないだろう。

蛇足ながら、読売新聞に期待することは何もない。記事の質を軽視してきたこの新聞は国家権力にすがるしか生き残るすべがないのではないか。

image by: Takkystock

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記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

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