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読売さえも「安倍一強の慢心」。自民党大敗を新聞はどう伝えたか

7月2日に投開票が行われた東京都議選で、歴史的大敗を喫した自民党。様々な疑惑やスキャンダルの噴出で劣勢が伝えられていた自民ですが、予想を遥かに超えた惨敗となってしまいました。ジャーナリストの内田誠さんは自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、今回の都議選の結果を主要新聞4紙がどう伝えたかを、各紙の社説を中心に分析しています。

「自民党、東京都議選で歴史的大敗」を新聞各紙はどう伝えたか

はじめに~自民党の歴史的大敗

こんにちは。

大型の選挙で安倍氏率いる自民党が大敗を喫するのはいつ以来のことでしょうか。おそらく、民主党への政権交代をもたらした2009年8月30日、あの日からザッと8年ぶりのことになるのかもしれません。今回は東京都議会議員選挙。たかが都議選、されど都議選…。安倍内閣に対する有権者の見方が冷たいものに一変したことがこの結果を生んだのだとしたら、次の衆院選は安倍氏にとって、一層悲惨な結果を伴うものになる可能性が高いと思われます。もちろん、解散・総選挙までに、自公に変わる有力な選択肢が有権者の前に示されることが必要であることは言うまでもありません。

しかも、都議会での自公に変わる枠組みとして今回成功を収めたのが、都民ファーストの会という、小池百合子都知事に率いられているというだけで、まだ何をする人たちかさっぱり分からない新党と、国政では自民党とタッグを組む公明党との連携である以上、ことは簡単には評価できない。小池都政と都議会の巨大与党の安定した「一強」状態が維持され、その力で東京五輪、市場移転問題などの「難問」に取り組んでいくのでしょうが、同時に都政改革、都議会改革などを標榜することによって、「新味」を演出することも比較的容易でしょう。やがては、これまでは自民党中心に渦巻いていた利権の構図が都民ファーストの会の議員と小池都政全体を取り込み、それこそ、五輪をきっかけにダイナミックに回転し始めるとしても、それまでに少しだけ余裕がある。

「都民ファーストの会」が「利権ファーストの会」に脱皮し終える前に、小池百合子知事が「国民ファーストの会」を立ち上げるのかどうか。そのあたりをきょうの各紙はどんなふうに書いているのか、以下、『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』をご覧下さい。

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「自民惨敗 過去最低」
《読売》…「自民 歴史的惨敗」
《毎日》…「自民 歴史的惨敗」
《東京》…「自民 歴史的大敗」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「首相の求心力 低下」
《読売》…「安倍1強に打撃」
《毎日》…「自民 逆風で崩壊」
《東京》…「『安倍1強』に激震」

ハドル

きょうはノーハドル。都議選の結果と国政への影響、これに尽きます。各紙似通った見出しなども多いので、方針を変え、各紙の社説を中心に比較することにします。

基本的な報道内容

自民党、東京都議選で歴史的大敗

東京都議会議員選挙が行われ、自民党は「加計学園」問題や「共謀罪」法採決強行、閣僚失言などで有権者の信頼を失い、現有57議席から過去最低の23議席に議席を減らす歴史的大敗を喫した。

投票率高く、無党派の4割が都民ファへ

小池知事率いる都民ファーストの会は無党派層の40%、自民支持層の29%を押さえ、1人区2人区で圧勝。50人立候補して49人当選。投票率は51.27%で前回を8ポイント近く上回った。

安倍政権に打撃

自民党の歴史的惨敗を受け、下村博文会長以下、都連幹部5役が辞意表明。政権は加計学園問題等に加えて議員らの不祥事、萩生田、稲田、下村の3側近の疑惑や失言などで求心力が一気に低下へ。

政権のおごりへの審判

【朝日】は10面に社説。タイトルは「政権のおごりへの審判」。

uttiiの眼

各紙とも、「小池都知事への期待安倍政権への批判の2つの要素を絡めた書き方になっていて、《朝日》も例外ではない。《朝日》は、自民党の敗北という顕著な結果を、小池知事への期待ということ以上に、「安倍政権のおごりと慢心にNO』を告げる、有権者の審判」と位置付ける。

「安倍政権のおごりと慢心」は、森友学園、加計学園問題で「説明責任から逃げ続けた」こと、野党が憲法に基づいて要求した臨時国会の要求にさえ応じない。共謀罪法の強行成立、閣僚や党幹部らの暴言・失言など。さらに、内閣支持率が急落したことを受けた首相は反省を口にしたが、「その後も指摘された問題について正面から応えようとしない」など、列挙している。

また都議選最終日に秋葉原駅前で行った首相の演説に、聴衆から「辞めろ」コールがわき起こると、首相は「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を張り上げたという(YouTubeで確認したが、《朝日》の書き方は概ね出来事を正確に捉えている)。「首相にすれば、ごく一部の批判派による妨害」と考えたのだろうが、都議選の結果は、そうではないことを示しているとして、首相の対応の拙劣さと同時に、既に先が見えなくなっていることが暗示されている。

「安倍1強」の慢心

【読売】の社説は3面。タイトルは「『安倍一強の慢心を反省せよ」。

uttiiの眼

タイトルは他紙並みに安倍政権に対して批判的だし、記事中には「小池都政に改革に期待したい。それ以上に、自民党の安倍政権の驕りと緩みに反省を求める。それが、首都の有権者が示した意思と言えよう」などとも書いている。また、「加計学園問題を巡る疑惑に安倍政権がきちんと答えなかったことや、通常国会終盤の強引な運営、閉会中審査の拒否などに、有権者が不信感を持ったのは確かだ」とも言っている。国会で加計問題が議論されているときに、そのような態度を《読売》が取っていなかったことが残念でならない。単に、認めざるを得なくなっただけのことだろうが。

さらに、「疑惑や疑問には丁寧に説明」すべきだなどとも言うのだが、閉会中審査に応じよとか、臨時国会を早期に開けといった、まさに「疑惑や疑問に丁寧に説明」するためには是非とも必要な具体的な行動を求めていないのが特徴。やるやると言ってやらないできた安倍政権の姿勢と何ら変わらない

代わりに《読売》が要求しているのは、「政権全体の態勢を本格的に立て直す」こと。つまり、内閣改造と党人事ということになる。

もう1点。タイトルの2行目には「小池氏支持勢力の責任は大きい」とあり、社説後段に、都議会は「知事との緊張関係を維持せよ」などと主張しているが、これ以上恥知らずなことはあるまい。それを言うなら、安倍政権と国会の与党との関係についてまず発言すべきだろう。国会は圧倒的な多数を握る与党といえども、内閣との間に、とりわけ安倍首相との間に「一定の緊張関係を維持すべきだ」と主張したうえならばともかく、《読売》が、まだ始まってもいない都議会と小池知事との関係に注文をつけるかのような物言いは、内容がどれだけ正しかったとしても、ただの悔し紛れ」と受け取られても仕方があるまい。

おごりの代償

【毎日】は5面に社説、タイトルは「都議選で自民が歴史的惨敗」「おごりの代償と自覚せよ」というもの。

uttiiの眼

《毎日》は、加計学園や「共謀罪」法の強行採決で政権への批判が急速に高まるなかでの選挙だったことを指摘し、つぎのように記す。

「首相は今後、早期の内閣改造で立て直しを図るとともに、謙虚な姿勢のアピールを試みるだろう。しかし、数の力で異論を封じ込めてきた強権的な手法が不信の本質であることをまずは自覚すべきだ」としたうえで、そのために、「少なくとも野党の求める臨時国会や閉会中審査に応じ、加計関係者の国会招致を実現する必要がある」と。《読売》とは違い、臨時国会や閉会中審査について要求している。

加えて、憲法改正についても「野党を置き去りにして独断で進めることは厳に慎むべきだ」とクギを刺している

「安倍政治」への怒り

【東京】の社説は都議選絡みで2本。1本は自民党に対して、もう1つは都民ファーストの会に対して書かれている。取り上げるのは1本目。タイトルには「『安倍政治への怒りだ」、とある。

uttiiの眼

他紙と印象がかなり違う。まずはリード的に前置きされた部分で、「『安倍政治』を断じて許さないという都民の怒りを、深刻に受け止めるべきである」と挑発的だ。中身に入ると、まず指摘するのは、安倍氏が街頭で応援演説に立つことがほとんどできなかった点。初め、首相は、都議選の課題は「都民が直面している地域の課題」として国政との分離を図ったが、それはかなわなかった。むしろ都議選は、「それに続く国政選挙の行方を占う先行指標になってきた」というのが現実であり、自民党自身も前回は「準国政選挙」と位置付けていた。そして、「共謀罪」法の採決強行に見られるような強引な国会運営があり、森友・加計学園問題では疑いは最後まで払拭されなかった。豊田真由子議員の暴力と暴言、稲田防衛大臣自衛隊政治利用の発言。社説子は、「問われているのは、民主主義の基本理念や手続きを軽んじる安倍政権の体質そのものだ。それを改めない限り、国民の支持を取り戻すことは難しいのではないか」と突き放している。

金子兜太氏の「アベ政治を許さない」というキャッチフレーズは、安保法制を強引に通した頃の政権に対する批判として登場した。今回、《東京》が「安倍政治」と書いているのは、その後の出来事を加味し、現在の政治状況を象徴させたものだろう。通常国会閉会後の支持率急落で、不支持の理由のうち最大のものが「首相の人柄が信用できない」ことだった(約40%)ことに示されるように、不支持に転じた有権者は、個々の政策について判断したというよりも、まさしく、「安倍晋三」という人が総理を務めていることに対して拒否感を抱き、あるいは嫌悪の情を催したということだろう。有権者の中に、「安倍総理は信用できない」と考える人が増えていること、これは政権にとって何よりも深刻な事態なのだと思われる。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。これでも「短め」を心掛けました。都議選の先については、小池氏が国政に挑戦する道筋についての各紙の「想像」が展開されていますが、ここで扱うのは時期尚早と判断し、こんな中身になりました。

 

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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