最近、「CASH」という質屋のようなシステムのアプリが注目を集めていることをご存知でしょうか。このアプリの売りは、何といっても「ブランド品を写真に撮って送れば、品物を送る前にすぐキャッシュに変えてくれる」という手軽さです。しかし、世界的プログラマーの中島聡さんは、自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、「困っている人からお金を巻き上げる高利貸しだ」と、厳しく言及しています。
貧テックビジネス CASH
最近、仮想通貨関連の詐欺やネズミ講まがいのビジネスが増えて来て困ったことだと思っていたら、一目で「これはまずいだろう」と分かるサービス、CASH がローンチされました。
「あなたの目の前にあるアイテムを写真に撮るだけ。一瞬でアイテムがキャッシュに変わる」というキャッチフレーズで、一見すると(人と人との中古品の売買の敷居を下げて大成功した)メルカリを、さらに便利にしたようなサービスです。スマートフォンで撮影したアイテムの写真を送るだけですぐに査定され、ボタンひとつで現金が手に入るという夢のようなサービスです。
珍しいということもあり、ネットの反応もとても賑やかでした。
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この手のサービスのローンチとしては、大成功と言えると思います。
第一印象は、「スマートフォンを活用した中古品の売買業者だな、粗悪品を送ってくる客も、アイテムを送らずに逃げてしまう客もいるだろうし、そこはどうやってさばくのだろう」ぐらいのイメージでした。
しかし、よく見ると、とても怪しいのです。アイテムを送るのに2ヶ月の猶予があり、その間であれば、アイテムの売却をキャンセルすることが出来るのです(その場合には、最初に受け取った金額にキャンセル料を上乗せして返す必要があります)。
単なる中古品の売買業者であれば、2ヶ月も待つ理由はありません。さらに、キャンセル料が売却価格の15%という、非常に高い値に設定されている点も異常です。
「ということは実質は質屋の役割を果たすのだな」と思って調べると、質屋としての営業許可は取得しておらず、15%はあくまでキャンセル料であり、金利ではないと主張しています。
ちなみに、質屋は単なる金融業よりも高い金利を設定することが許されていますが(大黒屋は30万円以下の場合は月4%)、それは、「品物を保管する」という手間を考えてのことで、品物を預からずにお金を(実質的に)貸すCASHはどちらかと言えば、金融業に近いビジネスとも言えますが、その(実質)金利は大黒屋よりもはるかに高いのです(年利に直すとは、単純計算で90%、複利計算で131%)。
CASHを立ち上げた人は、「法律の抜け穴」を見つけたつもりでいるのでしょうが、実質的には、「品物を担保にした高利貸し」以外の何物でもありません。私が金融庁の担当者であれば、法律を改正してでも取り締まりの対象にすると思います。
しかし、驚いたことに、このサービスがリリースされて数時間も立たないうちに、システムの欠陥を見つけて、この会社からお金をだまし取ることに成功した人がいたのです(参照:CASHで錬金術を行う)。CASH の査定システムがブランド品に限定されていて、最低査定金額が1000円である点に注目し、H&Sブランドの10個199円のヘアゴムを、1つづつ出品するという裏技を使い、10000円から250円の振込手数料を引いた9750円で売ることに成功したのです。
こんな弱点が見つかってしまっては(かつ、公開されてしまっては)、すぐに真似をする人たちが大量に出るだろうから、あっという間にサービス停止に追い込まれるだろうと様子を見ていたら、予想通りの展開になりました。
CASHの発表によると、ローンチしてわずか16時間34分で7万点以上のアイテムがキャッシュ化され、総額は3億6千億円強にもなったそうです。さらにそのうち10%の7千点に関しては、すでに「キャッシュを返さない」と宣言されており、それらのアイテムに関しては、送られて来たアイテムを中古品として販売し、(渡してしまった)キャッシュを回収するということをしなければいけないことが決まっています。
ちなみに、この手の新たなビジネスを「ビジネス・イノベーション」とはやし立てる人がいますが、単なる斬新さだけでなく、「何のためにそのビジネスが作られたのか」を見て判断すべきです。
メルカリやUberは「消費者にとって役にたつサービスを提供すること」に主眼を置いているので、列記とした「ビジネス・イノベーション」ですが、CASHは「当座のお金に困った人たちから金利を巻き上げる」ことに主眼を置いた高利貸しビジネスであり、その間にはとても大きなギャップがあります。
CASHが本気で「消費者にとって役にたつサービスを提供すること」に主眼を置いているのであれば、堂々と質屋としての営業許可を取り、「テクノロジーを使って、品物を店に預けなくてもお金が借りられる画期的な質屋」としてビジネス・イノベーションを起すべきです。
(中島聡『週刊 Life is beautiful』より一部抜粋、毎月必ず読みたい方はご登録ください。初月無料です)
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