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戦後70年談話、米政府が「日本はすべての国の規範」と歓迎したわけ

14日に発表された安倍首相談話。戦後70年という節目の年とあって内外から大きな注目を浴びました。はたしてこの談話、成功だったのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんは「実は巧み」と評しています。

実は巧みな「安倍談話」。しかし懸念も

「安倍談話がよかったか、悪かったか?」

これ、総理の自己満足じゃダメですよね。結局、談話の「良し悪し」は、「まわりの人」が判断するのです。で、「まわりの人」(あるいは国)の中でも、やはり「主な主体」がいるわけです。

国でいえば

日本国内の勢力でいえば

もう一度。

と、だいたいこんな感じだと思うのですが。

この中に、総理が談話を出すにあたって、「あまり気にしなくていい勢力」もいるのですね。

それは

です。

「え~~~、中国、韓国に気に入ってもらえる談話を出すことが、一番大事なのでは????」

そう考える人がいるのはわかります。しかし、そんなことは「無理な相談」なのです。これらの国々や勢力は、「どんな談話が出ても必ず批判する」から。

反安倍の野党について、説明はいらないでしょう。

たとえば中国、韓国は、「村山談話はよかった」などといいます。その一方で、世界にむかって、「日本は一度も謝罪したことがない!」と宣言している。

「あれ? 村山さんが謝罪したこと認めてるのに…」ですよね?

でも、プロパガンダなので、「村山さんが謝罪した」とか、どっちでもいい。世界にむけては、「日本は一度も謝罪してない」というのです。だから、談話を出すにあたって、中韓、反安倍勢力のリアクションなんて気にしていられない

謝罪しなければ、「謝罪しろ!」と批判され。

謝罪したら、「謝罪が足りない!」と批判され。

何回謝罪しても、「日本は一度も謝罪してない」といわれるのですから。

結局大事なのは、

だけ。

なぜ保守の反応が大事かというと、もちろん安倍総理の支持基盤だからです。

なぜアメリカの反応が大事かというと、尖閣・沖縄を狙う中国に対抗するために、アメリカの助けが必要だからです。

しかし、困ったことに、日本の保守とアメリカの歴史観は、「正反対」である。

どう正反対?

保守の歴史観は、「日本は善」「アメリカは悪」

アメリカの歴史観は、「アメリカは善」「日本は悪」

安倍総理は、この「正反対の歴史観をもつ2つの勢力を同時に満足させる」という、難題をかかえていた。(だから、「談話なんきゃ出さなければいい」と多くの人が主張していました。私もそう書いていました。正直出さなくても何の問題もなかったのです)。

で、結果はどうだったのか?

安倍総理、「保守」を喜ばせる

談話の中に、保守が喜びそうな部分がいくつかありました。

日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。

事変、侵略、戦争。

 

いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。

 

植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。

ここに「侵略」という言葉が出てきます。しかし、「日本が侵略した」とはいってません

我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。

「お詫びの気持ちを表明してきました」と事実を述べています。

しかし、「安倍談話」の中に、直接的お詫びの言葉はありません

日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。

 

あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。

戦後生まれた人たちに「謝罪しつづける宿命を背負わせない」そうです。

これだけいえば、安倍総理の支持基盤である「保守」の皆さんも満足したのではないでしょうか?

安倍総理、アメリカを喜ばせる

次に、保守とは正反対の歴史観をもつアメリカです。

談話の中には、アメリカを喜ばし、なおかつ中国を暗にけん制する部分がありました。

私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。

 

だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。

 

この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。

私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。

 

だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。

これは、もっとも印象に残る「最後の部分」です。現実はどうであれ、自由、民主主義、人権など声高に主張しているのは、どの国でしょう?

そう、アメリカです。

一方、「自由がない」「民主主義ではない共産党の一党独裁」「人権が全然ない」のは、どの国でしょう?

そう、中国です。

その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。

「価値を共有する国々」とは、アメリカ、欧州、オーストラリアなどのことでしょう。

「積極的平和主義」とは、自国のみならず、世界の平和と安全に貢献していくということです。つまり、ここで安倍総理は、「アメリカ側につきますよ。中国とは違いますよ」といってるわけです。

安倍談話について、アメリカのメディアでも、いろいろ批判があるそうです。

理由は、「謝罪がない」「侵略したことをはっきり認めてない」と。

しかし、アメリカ政府の反応は、こうです。

「日本はすべての国の模範」、米が戦後70年談話歓迎 ロイター 8月15日(土)2時34分配信

 

[ワシントン 14日 ロイター]安倍晋三首相が発表した戦後70年談話について、米国家安全保障会議(NSC)は14日、歓迎する意向を表明した。

 

ネッド・プライス報道官は「戦後70年間、日本は平和や民主主義、法の支配に対する揺るぎない献身を行動で示しており、すべての国の模範だ」とした上で、世界の平和と繁栄への貢献を首相が約束したことを評価。

 

「安倍首相が、大戦中に日本が引き起こした苦しみに対して痛惜の念を示したことや、歴代内閣の立場を踏襲したことを歓迎する」と述べた。

「すべての国の規範」だそうです。

というわけで、「安倍談話」は、「日本の保守」と「アメリカ」、正反対の歴史観をもつ2つの勢力を「両方満足」させることに成功したのです。

「安倍談話の結果」は何でしょうか?

というわけで、「成功」といってよいようです。

だからといって、日本は一刻も油断できません。安倍総理は、「話し上手だが、行動が信用できない」と思われているからです。

「希望の同盟」演説後の大失敗

4月29日、「希望の同盟」演説で、オバマは元気を取り戻しました。

AIIB事件で(日本以外の)すべての同盟国に裏切られたオバマは沈んでいたのです。

「GDP世界3位の日本は、俺の味方だ!」と。

それで、2013年からはじまっていた中国による「南シナ海埋め立て問題」を突如バッシングしはじめました。「リベンジ開始」です。

米中関係はどんどん悪化し、「米中軍事衝突」を懸念する声まで聞こえてきました。

その時、「希望の同盟国日本」は何をやっていたのか? そう、なんと3,000人の訪中団を送り込み、中国との和解に動いていたのです。

オバマは、わけがわからず、「裏切られた!!」と思ったに違いありません。その後、どうなっているか、皆さんなんとなく感じていることでしょう。

これは、いずれも安倍内閣がフライングして中国と和解し、アメリカに不信を呼び起こしたことが原因です。

さて、安倍談話をなんとか乗り切った総理。アメリカはホッとしていることでしょう。しかし、総理はまた、こんな心配発言をされています。

反日的でないこと前提=中国の戦勝記念行事出席─安倍首相 時事通信 8月14日(金)23時2分配信

 

安倍晋三首相は14日夜のNHK番組で、中国政府が9月に北京で開く抗日戦勝記念行事への出席について、「まだ決めていない」とした上で、「この行事が反日的なものではなく、融和的な行事になることが前提ではないか。そうした式典になることを望んでいる」と述べた。

 

習近平国家主席との首脳会談に関しては「今まで2回、会談を行ったが、首脳間で理解は増したのではないか。3回、4回と重ねていけるようにしたい」と語り、実現に改めて意欲を示した。

そんなもん、「意欲を示さないでください」ですね。

アメリカは今、韓国の朴さんに、「出るなよ!」と圧力をかけている。それなのに、「希望の同盟国」日本の総理が、ノコノコと中国にでかけてどうするのですか?

しかも、「『抗日』戦勝記念行事」に(だいたい、「日本に勝った」と主張できるのは、蒋介石の国民党である)。

ご本人は意識しておられないと思いますが、日本政府の行動は外国から見るとこんな風に見えます。

ある男性(アメリカ君)に、「あなたが好きよ! 幸せな家庭をつくりましょう。一緒ならできるわ!」といったある女性(日本子)。

彼女は、翌日別の男性(中国君)のところに行き、「あなたが好きよ! 仲良くしましょう!」といってデートに応じる。

こんななので、安倍総理の「希望の同盟演説」も「談話」も「口先だけの詭弁だ」と思われて仕方ありません。

総理は、是非言行を一致させていただきたいと思います(とりあえず、中国に行くのはやめましょう)。

image by: 首相官邸

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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