以前掲載した記事「中国撤退も、餃子の王将が『グルメ天国』台湾で愛される歴史的背景」で、日本の「餃子の王将」台湾進出に関して「需要はある」としていた台湾出身の評論家・黄文雄さん。蓋を開けてみれば売上好調で「予言」通りになりました。丸亀製麺やくら寿司など、次々と台湾支店をオープンして好成績をあげている日本の飲食業界ですが、なぜ「食の日台交流」は成功を収めるのでしょうか。黄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、その納得の理由を記しています。
【台湾】なぜ日台飲食ビジネスは相次いで成功を治めるのか
日台の飲食ビジネスの相互交流がとまらないようです。しかも、日台間における飲食交流のキーワードは「現地の味」。出店先の味ではなく、出店元の味を海外に提供するのです。
かつて、飲食店が異なる文化圏への出店を目指す際の原則は、出店先の「現地の味」に合わせることでした。しかし今、日本の企業は日本の味を台湾へ、台湾企業は台湾の味を日本へ届けることが成功のカギとなっています。
日本から台湾へ進出して成功した例は、「やよい軒」「くら寿司」「餃子の王将」「すき家」など。
これら日本でもお馴染みの人気店は、台湾でも日本同様に人気があります。メニューもサービス内容も、敢えてすべて日本と同じものを台湾で提供するスタイルを取っていることで人気を得て、売上は好調。次々と支店を増やしているところです。
● YAYOI是日本定食餐廳
● くら寿司/11~4月は売上高8.8%増、営業利益12.7%減
台湾は外食産業花盛りで、あらゆる飲食店が充実していることはよく知られています。かつて「食は香港にあり」という俗言がありました。それは、香港の食は多様性に富んでいたからです。香港では4本足のものはテーブル、飛ぶものは飛行機以外は何でも食べるとまで言われていました。その多様性の代表例が、各種美食を1皿ずつ食べる「飲茶」です。
しかし、香港返還後、香港のグルメ事情はぱっとしなくなり、「食は台湾にあり」へと変わりました。それを代表するのが夜市の屋台などで食べる「台湾小吃」です。
夜市は、台湾人はもとより、日本人や欧米人、中国人観光客にも大人気の観光スポットとなっています。
そんな激戦地に、なぜ日本の飲食店がわざわざ出店するのか。その答えを象徴する事例が「餃子の王将」です。
このメルマガでも以前触れたことがありますが、「餃子の王将」は中国の大連に出店したけれど失敗して撤退した経緯があります。そのとき、日本のマスコミは餃子の本場である中華圏で日本の餃子が勝負するなんて負けるに決まっているといった論調でした。王将も中国での失敗の後に台湾に進出するのは、かなり決断力を必要としたでしょう。しかし、蓋を開けてみれば、台湾1号店の売上は想定の2.6倍でした。
●「餃子の王将」海外再挑戦は好調、台湾1号店の売り上げ想定の2.6倍
大連では失敗し、高雄では想定以上に成功した。この差はどこにあるのか。もちろん、日台間の歴史が大きく関係していると思われます。台湾の親日は日本統治時代から始まったことは今更なので詳述しませんが、台湾と日本の間にある互いへの信頼感の深さが、日本の飲食チェーン店の成功を導いています。
日本の店なら清潔、安心、安全、美味しいといった先入観が台湾人にあるから、日本の店は無条件で大歓迎なのです。日本企業が数多く進出している大連ですが、ここまでの日本への信頼感はありません。
台湾は日本のものなら無条件に受け入れる。だから味も変えてはいけないのです。日本の味、日本のサービス、日本の店内、日本のメニュー。台湾にいながら日本を味わえる。そこに価値観を見出すのが台湾人です。
加えて、世界的な和食人気も、日本の飲食店が台湾で受ける素地となっています。中華(中国)料理は世界三大の人気食とも言われてきましたが、今では和食のほうが世界的には人気なのです。たとえば、スウェーデン第2の都市で中華料理店を営んでいる友人は、和食と中華料理のメニューを半々にしたそうです。というのも、中華だけでは客が入らないからです。中華料理は油っこく、中国の食材には不安もあるので、あっさりした健康食の和食が好まれているといいます。そこで自分で和食を研究したとのこと。
台湾でも大陸からやってきた外省人による中華料理店も多いのですが、最近ではやはりあっさりとした味が求められるようになっています。
衣食住は、各民族の文化をもっとも表します。中国的な考えは、ユニークを否定して、すべてを統一、同化するものです。とくに現在の中国料理の特色は、なんでもかんでも香料を入れ、いかなる食材も同じ味にしてしまう。中華は短命食として世界的にも知られています。中国の皇帝は満漢全席という飲食習慣のなかで、平均寿命は38歳という短命さでした。
しかし日本食は純(旬)を大事にし、原味を殺さないことを重視します。インスタント食とは対極にあるので、時間をかけて賞味する食文化にもなっています。台湾人もそのことを知っていますので、こうした和食への憧れと信頼感が、たとえファストフードであっても、日本の飲食店を好む背景になっていると思われます。
そもそも、台湾人の食に対する意識は高く、健康志向も強くあります。塩分を控えるかわりにしっかり出汁を取って調理するなどといった調理法も、日本に共通する部分があります。だから、日本食は台湾人の舌にもピッタリ合うのです。
こうした日台の歴史背景や嗜好の近さ、さらには、日台交流の促進による観光客やビジネス交流の激増によって、日本の食文化が台湾へ進出するだけでなく、台湾の食文化が日本へ進出することも激増しました。台湾の飲食チェーンが日本に進出したピークは2014年でした。火付け役はタピオカ飲料でしょう。
その後は、台湾麺線、牛肉麺、マンゴーかき氷など、台湾で独自に発展した、ソウルフードとも言うべき小吃が東京をはじめとする日本の主要都市に次々と進出してきました。もちろん味は日本向けにしたものではく、台湾で提供しているものと同じです。
● 春水堂
● ICE MONSTER
● 台湾麺線
● 台湾のソウルフード「牛肉麺」の最大チェーン、 「三商巧福」が日本初上陸!
グルメ、芸能、観光、ビジネスなどで台湾を知った日本人は、旅先の台湾で出会った味を新鮮に思い、帰国後は懐かしく思い、日本でも台湾の味を求めたのです。台湾は、後藤新平によって衛生観念をしっかり教え込まれた国です。中国と台湾の区別がつかない日本人でも、実際に台湾を訪れてみて台湾の衛生管理の状態を知ることで、台湾ならと安心することができることでしょう。
さらに、日本の家庭事情の変化も台湾の飲食文化を受け入れる受け皿になっているのではないかと思います。かつて、日本の多くの女性は結婚後は専業主婦として家庭に入っていました。しかし今は、女性も活躍する時代です。結婚、出産しても仕事を続ける女性が実に増えています。それにより、必然的に外食が多くなる。共稼ぎで頻繁に外食する台湾人の家庭とライフスタイルが似通ってきているのです。
そこで重宝するのが、手軽にテイクアウトできたり、手軽に食べられる小吃ものです。こうした日本の家庭における食事様式の変化も、台湾の飲食チェーン店の日本進出を後押している要因のひとつでしょう。もちろん、台湾の小吃は世界の誰もが美味しいと認める自慢のB級グルメですから、日本人にも受け入れられないわけがない。こうして日台の飲食相互交流はどんどん進んでいるわけです。
飲食交流が進めば、付随的に文化交流も進みます。そこを狙って登場したのが蔦屋台北店。台北市の最先端を行く信義区に1号店を今年1月に出店しました。信義区の書店といえば誠品書店の大型店ですが、それを上回る広さで挑んでいます。
蔦屋の台湾出資におけるパートナーは台湾の優良企業である中環公司です。この会社は、もともとはメモリーなどの機器メーカーでしたが、近年では娯楽事業にも進出していることから、書店へも出資したのでしょう。写真を見れば分かりますが、蔦屋信義店は、ゆったりとした空間に1万5,000点ほどの書物。店内にはカフェスペースも儲けてあり優雅な雰囲気です。
● 台湾に「TSUTAYA BOOKSTORE 信義店」オープン。コーヒーやお酒を飲みながら読書ができる
こうして日台交流はどんどん加速しています。経済活動の面でこれだけ交流が加速した後は、政治的交流も進めて欲しいものです。
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