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中国式スパルタ教育に非難殺到。米国で過熱する「英才教育」反対論

日本の「受験ありき」の詰め込み教育については、国内でも賛否が分かれるなど度々話題になりますが、世界では子供の教育についてどのような動きがあるのでしょうか? メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米在住・東大卒の作家である冷泉彰彦さんは、日本と中国の例を出して、子どもを一流大学に入れることに命を賭ける教育ママに苦言を呈しています。

東大理三ママとタイガーママ

お子さん4人を東京大学の理科三類に合格させたという母親が、インタビューに応じて次のような「教育方針」を語っていました。

典型的な「入試合格が手段ではなく目的」という悪しき教育方針ですが、この中では特に最初の「遊びは非日常にして勉強を日常化」というのが、かなり気に入りません。前思春期が特にそうですが、子供同士の遊びというのが徹底的に日常となる中で、自発的なモチベーションや、提案と受諾などのコミュニケーション、つまり人間としてのコミュニケーション・スキルの原型が培われるわけですが、その点を軽視し過ぎということがあります。

それから、思春期以降もそうですが、勉強というのは非日常の高揚感と共に進めていって欲しいものです。天体の回転にしても、代数学から無限という概念を経て微積分へ向かう旅路にしても、啄木や牧水の五七五七七にしても、日常とは全く違う世界との接触として学んで欲しいのです。このお母さんは、その意味で、乳幼児をしつけるメソッドで中等教育までは乗り切れると信じていたようで、実際にそれで成功してしまったわけですから、日本の中等教育も大学入試も本当に「甘い」と言わざるを得ません。

ところで、この話題ですが、少し以前にアメリカでも似たような騒動がありました。2011年に中国系のお母さんが出版した「タイガー・マザー」という挑戦的なタイトルの本です。

タイガー・マザー
(著)エイミー・チュア、(訳)齋藤 孝

内容は、「理三ママ」より少し小さな子どもを持つ親向けで、例えばですが、

というもので、本の中には「ぬいぐるみを焼却」とか「宿題ができるまで食事を与えない」といった過激なエピソードもありました。この「タイガー」のケースでは、実際には女のお子さんが2人あって、上のお子さんは順応していたそうですが、下のお子さんは見事に「反抗」していったそうで、そっちの「反抗誘発効果」もあったようです。

それはともかく、この本は全米でかなり議論になり、特にNYやボストンなどの知的コミュニティでは「子供を子供のままに縛り付ける奴隷思想」であるとか散々な評価でした。

私の住む街では、この本の影響もあって街の教育委員会の中で、スパルタ教育反対論が燃え上がり、「あくまでエリート養成の飛び級講座を維持せよ」というアジア系を中心としたグループと、これに反対するグループが抗争を繰り広げた結果、そうしたトラブルを嫌った一部のアイビー大学から、ある年はこの地域のアジア系が「ほとんど全滅」という合否結果を食らった(らしい?)などと色々と騒動になっています。

それはともかく、今回の「理三ママ騒動」というのは、東京大学が入試改革を本気で進めなくては大変なことになるという危機感を強めることになっているのではないかと思います。少なくともそのように期待して見て参りたいと思います。

image by: Shutterstock

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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