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貯まる現金、回らぬ日本経済。挑戦しない国家に未来はあるのか?

都議選惨敗後の支持率急降下ですっかり勢いを失った安倍政権ですが、内閣改造後も明確な経済政策を打ち出しているとは言い難い状況が続いています。今回の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者である嶌信彦さんは、日本経済が回らない原因の一つに、大企業が「内部留保」に回すことを賃上げよりも優先している点を挙げ、メガバンクへの預金残高が過去最高に達したことも指摘。さらに「第一は経済の再生だ」といいながら、日銀の金融緩和策と公共事業ばかりの安倍政権の経済政策について疑問を呈しています。

内閣支持率の上昇は一時的?

安倍首相は内閣改造直後の記者会見で、8秒間にわたり頭を下げた。その後、第一声として「国民の声に耳を澄まし謙虚に丁寧に国民の負担に応えるため全力を尽くす」と語った。

支持率の低下は、側近たちの失言や暴言、誠意のない答弁などに原因があるとされたが、実はその後わかってきたことは、側近たちの不誠実な態度もさることながら、本当の原因は安倍首相自身の驕りや上から見下すような発言、不適切な野次、疑惑や質問にまともに対応せずはぐらかすような答え方などに国民が嫌気、反発を覚えていたからだと判明してきたのだ。

少し前の安倍一強体制の時は、側近や党内も安倍氏に慮って直言する人は少なかったし、直言する人物は遠ざけられていたからますます安倍首相は自分が見えなくなっていたのだろう。

安倍氏の驕りをわからせたのは7月2日の都議選で史上最大ともいえる惨敗を喫したからだ。さすがにこの惨敗を総括するにあたり、自らの驕りや野党に対する答弁の不誠実さ、森友・加計学園問題などへの疑惑放置が敗北の原因と悟ったのだ。

以来、発言のトーンは丁重になり「国民の信頼を回復するために一つ一つ結果を出す努力を積み重ね、緊張感をもって着実に政策を遂行する」と何度も約束した。

まだ不支持の方が上

問題はこれからだ。支持率はどの調査でも数ポイント上がったが、どこもまだ不支持の方が10ポイント前後高いのである。低姿勢で国民に頭を下げ今後の努力を約束したのでしばらく様子をみようというのが国民の一般的姿勢であり、本音だろう。その意味で、1~2ヵ月後の世論調査が安倍政治に対する本当の回答になろう。

数字が上がった要因は、安倍氏に批判的だった野田聖子、河野太郎議員などを内閣に取り込み“批判を聞く姿勢”を示したからだろう。私が主張した小泉進次郎官房長官は実現せず、党の副幹事長就任だったのでインパクトは少なかった。小泉純一郎内閣で安倍氏を幹事長に抜擢したようなサプライズはなかった。

支持率が常識の範囲内の上昇に留まったのは菅官房長官、麻生副総理、二階幹事長らの旧秩序イメージの強い人物が中心に座ったままで、2世議員が目立ったことと「女性活躍」といいながら女性大臣は2人しかおらず、全体として清新さに欠けたからだ。国会答弁の安定さを求めてベテランを配したのだろうが、はつらつとした元気エネルギーに欠けた内閣構成とみられても仕方あるまい。

まだ強い旧秩序イメージ

今後の国会で失言や「記憶にありません」といった木で鼻をくくったような答弁が多く出てくるようだと国会は荒れ、国民も期待はずれだったという感想をもつことだろう。「信頼回復のため丁寧に答え、結果を出していきたい」と言明した以上、森友、加計学園問題や南スーダンのPKO日報問題などについて国会閉会中であっても証人喚問などに応じ、退任した稲田前防衛相の国会審査出席などにも堂々と参加させてゆくべきだろう。もしこれらを全て拒否するようであれば、今回の改造は疑惑隠しととられよう。

それと何より重要なことは、経済再生の政策を明確にし実行することだ。安倍首相は改造の度に「第一は経済の再生だ」といいながら、出てくる政策は日銀の金融緩和策と財政赤字を伴う公共事業による刺激策ばかりだ。金融政策は物価2%上昇を目標とした金融の量的緩和と低金利(ゼロ金利)政策ばかりで、実効はあがらず副作用が出始めている。財政政策は約束の消費税上げは延期が続き、財政均衡(プライマリーバランス)も遠のくばかりだ。

何より将来への期待が見えないため日本の存在感はみえなくなり株も上がらない。バブル時代は、マイナス面もあったが、国民は元気で、将来に夢を持ち世界からも日本は何かやってくれるという期待と存在感があって、これが株などを上げていたのだ。現在の株価(ダウ)は1990年前後の約半分程度これでは元気は出てこないだろう。

預金残高は過去最高の1053兆円

特に大企業の対応がだらしない。利益は輸出で稼いでおり、内部留保は史上最高に近く、金融機関に集まった預金残高は過去最高の1053兆円に上っている。しかし設備投資、技術開発、賃上げなどにまわすことなく、せいぜいM&Aに利用するのが目につく位だ。

そのM&Aは行なえば一時的には、売上げ、利益が上がるものの成功例は少なく数百億円単位以上の失敗例の方が目につく。かつてのように地味ながら時間をかけても開発に力を入れたり、従業員の士気をあげるため賃上げで報いたりしたらどうか。政府にいわれてシブシブ賃上げする“官製春闘”がはやるようではかつての日本の元気は出てこないだろう。

M&Aより日本人頭脳を信じよう

今の日本に足りないのはキラキラ光る技術や製品世界をリードし驚かす発明などだ。かつては、ソニーやシャープ、トヨタなどのリーダー企業が、トランジスタやIT、ウォークマン、省エネ車のハイブリッドカーなどの新商品を次々と生み出し、世界を興奮させた。その日本的経営や発明、開発が世界の話題になり、日本人も誇りに思ったものだ。他人のフンドシで大きくなろうとするM&Aもよいが、もっと日本人の頭脳技術開発を信じ、そこにカネをかけたらどうか。

現在、やや期待がもてるのは中堅・中小企業が宇宙や医療健康などの新分野に挑戦するケースが増え、成功しつつあることだ。だが残念なことにそうした事例はメディアで殆んど報道されない。政府はそうした企業に本腰を入れて後押ししたらどうか。コスト競争に頼っているだけでは中国や東南アジアにどんどん抜かれていくばかりになるのではないか。(Japan In-depth 2017年8月20日)

image by: 首相官邸(第3次安倍第3次改造内閣の発足)

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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