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日米よ思い知れ。北朝鮮が「グアム攻撃」に隠した3つのメッセージ

一時は「すわ戦争か」と日本国中に緊張が走ったものの、米国と北朝鮮の「チキンゲーム」が第1ラウンドの終盤を迎えたとの見方を示しているのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さん。アメリカを挑発する北の動きは、一見無謀にも思えましたが、すべてが狙い通りに進むよう先を読んで行なわれていたようです。小川さんが軍事アナリストとして見た「北の真の狙い」とは?

2回目のハンドルを切った北朝鮮

米国と北朝鮮のチキンゲームが第1ラウンドの終盤を迎えた印象があります。

北朝鮮の金洛兼(キムラクキョム)朝鮮人民軍戦略軍司令官は9日、米領グアム周辺への中距離弾道ミサイル「火星12」の「包囲射撃」計画について、4発を同時にグアム沖30~40キロの海上に撃ち込む計画案を検討しており、「8月中旬までに最終完成させる」と表明しました。

ミサイル発射計画が実施されれば、火星12は、島根県、広島県、高知県の上空を通過することになり、射程3356・7キロを1065秒間飛行した後、グアム島周辺30~40キロの海上水域に着弾することになるだろう、と説明したそうです。

昨年、北朝鮮は米韓合同軍事演習「ウルチ・フリーダムガーディアン」の最中に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星1」の発射(成功)で米韓両国を牽制し、9月5日には準中距離弾道ミサイル(ノドンかスカッドER)3発を同時に発射、1000キロ離れた北海道沖の同一海域に着弾させ、9月9日には第5回目の核実験を行いました。

いずれも9月9日の北朝鮮の建国記念日を意識した政治的意味合いを備えたものでしたが、今回の「グアム沖に4発発射検討」は同じような位置づけながら、さらに挑発がエスカレートしたものになることを示しています。

米韓側も、今年は7月中の2回にわたる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を受け、合同軍事演習を計画通り8月21日から実施するだけでなく、緊張が高まった4月と同様、空母カール・ビンソンとロナルド・レーガンの打撃群を展開する方向で圧力を加えています。

そこで今回の北朝鮮側のメッセージですが、ポイントとなるのは「8月中旬までに計画」と「火星12」、それに「グアム沖40キロ」という3点です。

まず第1点ですが、公表しようと秘密裏に行おうと計画するのは自由です。計画し、ミサイル発射を準備することによって、米国との対話の道が開かれないものでもありません。

とにかく、このような強硬姿勢は北朝鮮に一貫しているもので、「米国の圧力に屈したのではなく、北朝鮮の強い姿勢によって米国が折り合わざるを得なくなった結果としての対話への動き」を演出する必要があるのです。

第2点の「火星12」ですが、こちらは中距離弾道ミサイルで、米国がレッドラインに設定していると北朝鮮が思っている核実験ならびに大陸間弾道ミサイルの発射に抵触しません。軍事攻撃を受ける理由になりにくいのです。

さらに第3点のグアム沖30~40キロという海域は、米国がグアムに配備しているTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の射程圏内(射程200キロ、射高150キロ)です。その前にはイージス艦に配備されたSM-3(射程1000キロ、射高500キロ)というハードルがあります。

その海域をわざわざ選ぶということは、単にミサイルの命中精度の向上をアピールするにとどまらず、米国側にたたき落とされることもひとつの前提としているわけで、米国にSM-3やTHAADを発射させたのは北朝鮮が米国と対等の立場になった証明、とアピールするでしょう。

予告通り40キロ圏ぎりぎりに着弾し、米国が迎撃しなかった場合でも、米国は手も足も出なかった、と勝ち誇ったメッセージを出すでしょう。

コース直下になる日本の県の名前(愛媛県を除く)を挙げたのは、日本国民の恐怖心を煽るという威嚇効果と同時に、人工衛星打ち上げ時の国際ルールに準じてコースを公表し、日本、そして米国に対して敵対的なミサイル発射ではないことを伝える意図が含まれていると考えてよいと思います。これは事故などで落下物が生じた場合への言い訳にもなるわけで、巧妙な計算です。

これに対して米国のマティス国防長官とティラーソン国務長官は14日、連名でウォールストリート・ジャーナルに寄稿し、北朝鮮の政権転覆には関心がないこと、北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発行為を直ちに停止すれば、北朝鮮と交渉する用意があると明らかにしました。

中国も動きを見せました。中国商務省は14日、国連安保理の新たな制裁決議を履行するため、北朝鮮からの鉄鉱石や海産物などの輸入を15日から停止すると発表しました。中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国です。今回の中国の制裁履行は、大きな経済的打撃になることは避けられそうにありません。

北朝鮮はどう出るでしょう。はたして金正恩党委員長は14日、「朝鮮半島での軍事的衝突を防ぐためには、アメリカが先に正しい選択をして行動で示すべきだ」として、アメリカの対北朝鮮政策を転換するよう求めたうえで、「悲惨な運命のつらい時間を過ごしているアメリカの行動をもう少し見守る」と述べたのです。

こうなると、金正恩党委員長が先に述べたような「北朝鮮主導による話し合いモード」に舵を切っていることは明らかです。北朝鮮が先にハンドルを切って正面衝突を避けたのは4月13日以来2回目ですが、安心はできません。

チキンゲームは、まかり間違えれば破滅的な軍事衝突につながりかねないからです。政府に日米同盟の抑止力を機能させるべく万全の取り組みを求めること、それ以外に日本が安全を確立する道はないことを肝に銘ずべきでしょう。(小川和久)

 

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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